先月22日に28歳で急死したオーストラリア出身の俳優、故ヒース・レジャーさんの死因について、ニューヨーク市の検視当局者は6日、鎮痛剤と精神安定剤、睡眠改善薬が体内から検出されたとし、処方薬剤6種の組み合わせによる急性薬物中毒と断定した。

父親のキム・レジャーさんは、世界中のファンからの多くのサポートに感謝の気持ちを表した上で、「どの薬剤も過剰に摂取されてはいなかったが、医師に処方された薬剤の組み合わせが息子の命を奪うことになったと今日判明した」と声明を発表した。

ヒース・レジャーさんは生前のインタビューで、映画「バットマン」シリーズの最新作「The Dark Knight(原題)」の撮影中、睡眠に問題を抱えていたことを明らかにしていた。同作品は7月公開予定。
(H・レジャー、死因は処方薬の組み合わせによる中毒)


不眠症の場合、睡眠薬が処方されることがあります。以前は、バルビツール酸系睡眠薬などが処方されていました。主な薬理作用は、鎮静作用、催眠作用、麻酔作用および抗痙攣作用などです。ですが、現在では鎮静作用を期待して用いられることは少なくなっています。

現在では、ベンゾジアゼピン系睡眠薬が主に用いられています。その理由としては、耐性や依存性を生じにくく、誤って大量に服薬してもそれだけで生命を失う危険性はきわめて小さいなど、安全性の高い薬剤であるからといわれています。

ですが、ベンゾジアゼピン系でも中毒は起こる可能性もあります。現在、最も多くみられる中毒の1つであるともいわれています。ですが、1剤を大量に飲んでも、上記のように問題となる危険性は小さいと考えられています。

その一方で、他の中枢神経抑制薬との複合中毒を起こすと、話は違ってきて、死に至る可能性もあります。中毒症状は主として、中枢神経抑制および呼吸抑制によるものです。

具体的な症状としては、以下のようなものがあります。
まず最初に、意識障害が出現し、次いで呼吸器系、循環器系がさまざまな程度に障害されてきます。

中枢神経抑制の作用としては、失調(フラついたりと、上手く動作が行えない)、嗜眠・傾眠(意識レベルが低下します)、構音障害(上手く喋れなくなる)、および昏睡などの症状を生じます。

また、呼吸抑制により呼吸停止を生じることもあります。その他、血圧低下、徐脈または頻脈、散瞳または縮瞳、眼振、および開散麻痺(両眼の運動が障害された状態)などを生じます。

治療としては、服用後短時間で、意識が清明な場合は吐かせた後、胃洗浄を行います。意識が障害されている場合には、あらかじめ気管内挿管をしたうえで胃洗浄を行い、その後1g/kgの活性炭を10〜20%硫酸マグネシウムに混ぜて胃内に注入します。

軽症であれば、輸液と経過観察でよいですが、中等症以上では気道確保、人工呼吸など、生命維持療法が必要となります。

最近では、ベンゾジアゼピン系製剤の拮抗薬フルマゼニルが発売され、注目されています。ですが、血中半減期が49分と非常に短く、頻回に投与しなければならないという難点もあります。

やはり、処方に際しては、「今飲んでいる薬を確認する」ということが非常に重要であると考えさせられたニュースです。受診する際には、しっかりと日常的に飲んでいる薬などを、メモなどして行かれるほうが良さそうです。

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