11日午前5時15分ごろ、長野県茅野市の赤岳(標高2899メートル)天望荘で、登山客の携帯から県警茅野署に救助を求める連絡が入った。県警はヘリで救助を開始した。

同署などによると、山荘には43人の登山客がいて、めまいや頭痛などの症状を訴えた20人のうち、男女15人が同市など近郊の市町の病院に運ばれた。いずれも命に別条はないが3人は症状が重いという。一酸化炭素中毒を起こしたものとみて、調べている。
(登山客15人を病院搬送 長野・赤岳の山荘)


一酸化炭素は、無色・無臭のガスで、吸いこむと血液中の酸素運搬が阻害され、体の各組織が酸素を効果的に使うことができなくなってしまいます。この状態を、一酸化炭素中毒といいます。

具体的には、一酸化炭素は肺から吸収され、酸素の200倍以上の親和性でヘモグロビンと結合します。この状態を一酸化炭素ヘモグロビン(CO-Hb)といいます。CO-Hbは、血液の酸素運搬能を障害し、結果として体組織の酸素需要を満たすことができなくなります。また、CO-Hbは残存ヘモグロビンの酸素解離曲線を左方に移動させ、末梢組織での酸素放出を阻害してしまいます。

さらに、一酸化炭素は、チトクロム系酵素と結合して細胞内酸素代謝も直接的に阻害します。こうした作用によって、特に脳の低酸素障害が起こり、重度の場合は死に至る可能性もあります。

事故などの場合、一酸化炭素中毒が危険なのは、患者が眠気を中毒の症状だとは認識しないからです。そのため軽度の中毒患者が眠ってしまい、重度の中毒や死に至るまで、一酸化炭素を吸い続けてしまいます。長期にわたる暖炉や暖房器具の使用による軽度の一酸化炭素中毒では、インフルエンザやウイルス感染の症状と間違えてしまうことがあります。

軽度の一酸化炭素中毒では、頭痛、吐き気、嘔吐、体調不良が起こってきます。多くの場合、新鮮な空気を吸うことで回復します。中度の一酸化炭素中毒では、錯乱、意識消失、胸痛、息切れ、昏睡が起こってきます。そのため犠牲者の多くは自力で動くことができなくなり、救助が必要となります。

重度の一酸化炭素中毒は、しばしば死に至ってしまいます。まれですが、重度の一酸化炭素中毒が明らかに回復してから数週間後に、記憶喪失、体調不良、排尿障害(遅延型の神経精神症状とみなされています)が生じることもあります。

具体的には、CO-Hb濃度が10%を超えると頭重感、頭痛が出現し、30%で嘔吐や運動失調、50%でけいれんや意識障害、70%で呼吸停止、心停止をきたします。そのほか、心筋抑制による循環不全、血管透過性亢進による肺水腫、腎不全、横紋筋融解症、肝障害などの臓器障害を起こす可能性もあります。

こうした急性期の症状だけでなく、1週間〜1ヶ月後に症状が再燃、増悪することもあります。失見当識(時間や場所など、現在の自分および自分が置かれている状況を正しく知っていること)、性格変化(急にだらしなくなったりする)、錐体外路症状(パーキンソニズムなど)といった多彩な精神神経症状が出現します。

治療としては、以下のようなものがあります。
軽度の中毒なら新鮮な空気を吸うだけで回復してきますが、重症の場合はフェースマスクを使って高濃度の酸素を吸わせます。酸素は血液中の一酸化炭素を消滅させ、症状を緩和します。純酸素を吸入しても呼吸が不十分な場合は高圧タンク内で酸素を吸入する高圧酸素療法が必要となります。一酸化炭素は、ヘモグロビンと強力に結びつくほか脂肪組織や脳細胞に蓄積される傾向があり、酸素吸入による洗い出しは数日から数十日を要することがあります。

CO-Hbの半減期は、新鮮な空気中で4〜6時間、純酸素吸入で40〜80分、高気圧酸素療法では15〜30分であるといわれています。ですので、十分な酸素投与が必要になります(ただ、2005年のコクランレビューで高気圧酸素療法の効果に明確な証拠はないと結論づけられており、搬送に時間をかけるより早期の純酸素投与と全身管理を優先すべきであるといわれています)。

一酸化炭素中毒は、ニオイもせず、音もなく忍び寄ってくる怖い疾患です。しっかりと換気をこころがけ、少しでも頭痛などが起こったら危険であると考え、対処するようにしてください。

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