読売新聞の医療相談室に、以下のような質問がなされていました。
風邪をひいた後、2か月以上せきだけが続いています。のどの腫れも痛みもないのに、声を出すとせきが出て、仕事に支障があります。治療法はあるのでしょうか。
(東京・40歳女性)

この質問に、金沢大呼吸器内科臨床教授である藤村政樹先生は、以下のようにお答になっています。
くしゃみ、鼻水、鼻づまり、喉の痛み、発熱などのかぜ症状にせき(咳嗽)を伴っても、通常はかぜ症状の改善と同時に、1週間以内に治まります。

でも、質問のように、せきだけが長引き、場合によってはますます強くなり睡眠に障害があったり、女性はせきとともに尿がもれたりすることがあります。2か月以上続くと、慢性咳嗽と診断されます。10余りの原因がありますが、多くは治療可能で、日本では、せき喘息、アトピー咳嗽、副鼻腔気管支症候群が主です。

咳喘息とは、喘鳴(「ヒューヒュー」「ゼェーゼェー」という音が、聴診器を使わずに聞こえる状態)が明らかでなく、咳のみを症状とする喘息のことです。治療などは、いわゆる喘息と同じであり、慢性の咳を認める疾患として、特に気管支喘息の頻度が高いことから"咳"喘息といわれています。

特徴的なのは気道過敏性といって、健康な人では問題にならないほどの軽微な刺激で、咳き込んでしまうなど、症状が出現することです。原因として多いのは、運動やなどで、他にも煙草の煙、香水などのニオイ、ストレスなどです。

検査としては、胸部X線所見や肺機能検査が正常であり、慢性気道炎症(好酸球による炎症)の存在が診断に役立ちます。

藤村先生は、以下のように対処を書かれています。
せきには、湿性咳嗽と乾性咳嗽(空せき)があります。湿性は、過剰に生じた痰を出すためのせきで、副鼻腔気管支症候群に特徴的です。一方、乾性は、せきだけが出るもので、せき喘息とアトピー咳嗽の症状です。質問者の場合は、乾性の方だと思いますので、せき喘息かアトピー咳嗽の可能性が大きいでしょう。

せき喘息は、ヒューヒュー、ゼーゼーいう喘息の前段階で、多くは喘息と同じ治療(気管支拡張薬と吸入ステロイド)で改善します。アトピー咳嗽は、喉のイガイガ感や痰のひっつき感を伴いますが、アレルギー治療に使う抗ヒスタミン薬や吸入ステロイドで治療できます。

こうした治療でよくならないなら重症と考えられ、専門医の診療が必要です。日本各地の専門医を探す時、日本咳嗽研究会のホームページが参考になるでしょう。

咳喘息も、基本的に気管支喘息治療と同様に行います。咳喘息の場合、風邪とは異なり、鎮咳薬(せきどめ)の効果は少ないといわれています。

治療法としては、急性発作に対しては、気管支拡張薬、ステロイド薬を中心とした治療を行います。気管支拡張薬としては、吸入β2-刺激薬を基本として、キサンチン製剤、抗コリン薬などを用いることもあります。ステロイド薬(炎症を抑える)は経口ないし点滴で用います。

持続する喘息の場合、軽症持続型では少量の吸入ステロイド薬が基本です。キサンチン製剤、β2-刺激薬吸入、抗アレルギー薬は、補助的に用います。中等症〜高度持続型の場合も、吸入ステロイド薬が基本ですが、量は増えます。同様に、キサンチン製剤、β2-刺激薬吸入、抗アレルギー薬を補助的に用いることもあります。

長く続く咳が出た場合、やはり病院に行かれることが望ましいと思われます。その際、どのような咳が(痰をともなうのか、伴わない乾いた咳なのか)、どのくらい持続するのか(どのくらいの時間か、朝方など時間帯が決まっているのか、など)といったことを医師にしっかりと伝えることが重要であると思われます。

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