読売新聞の医療相談室で、以下のような相談がなされていました。
「米がん患者2%『CT原因』」(1月27日くらし健康面)で、子供は放射線による発がんの危険性が高いと知り不安になりました。子供はこれまで放射線を使った検査を何回も受けています。(東京・母、ほか同様5件)

この質問に対して、独協医大放射線科名誉教授である藤岡睦久先生は、以下のようにお答えなさっています。
放射線被ばくはがんを引き起こすことが知られ、子供は、放射線に対する感受性(細胞の傷つく程度)が大人の数倍あり、その後の人生も長いので影響も大きいと言われます。

記事になった論文の背景には、CT(コンピューター断層撮影)装置のここ数年での急速な進歩があります。最新のCTは、麻酔などの負担なしに、数秒で体のほぼすべての部位を画像に映し出せるので、子供でも使われる範囲が広がりました。論文では、CT検査は、通常のエックス線検査と比べ、かなりの量の放射線を浴びるため、がんが起こりうる点を強調し、急速に広がる子供のCT検査に警鐘を鳴らしています。

保護者から「何回まで、どの程度の量までの被ばくなら大丈夫か」との質問が寄せられます。しかし、検査で受ける被ばく量と発がんの関係は未解明で、どの程度まで大丈夫、とは言えません。正確な診断とよりよい治療に必要なら何回でも行う場合もあります。ただ、検査を繰り返すごとに発がんの危険性が積み重なるのではなく、主に1回の検査で浴びる放射線の量と関係すると言われます。

上記の元の記事は、米コロンビア大のデービッド・ブレンナー医師らが米医学誌に報告した論文について書かれたもののようです。

研究チームは、原爆の被爆者の発がんリスクと比較。その結果、91〜96年にはCT検査による被ばくが、米国のがん発症者の原因の0.4%にとどまっていたが、将来は1.5〜2.0%に高まると予測しています。また、研究チームは「特に子供は放射線でがんが引き起こされる危険性が高く、代替策を講じて、CT検査の回数を減らすべきだ」と主張しているようです。

このことに関して、以下のようなことが言えると思われます。
以前にも書きましたが、CTでは、頭部のCTでは0.5mSV、胸部のCTでは7.0mSV程度受けるそうです。ただ、発癌性を考えると、一説によれば0.1Sv の被曝による癌死亡率は30歳男性で0.9%、女性で1.1%(約1%)と報告されているそうです。

となると、一回の胸部CT撮影による癌死亡率は、1.15mSvで計算すると0.0115%程度(管電流25mAの低線量CTにて撮影)、30歳から75 歳まで毎年胸部 CT を受けても、癌死亡率0.52%程度であると試算できるそうです。

ただ、4列のMDCT(Multi-row Detector CTのことであり、検出器が複数あり、高速スキャン・高分解能スキャンが可能)による撮影では、11.0mSvとなり、一回の胸部撮影での癌死亡率は0.11%と、同様の条件で試算すると少々上がってきます。さらに、上記のように子供の時から撮り続けるというようなことになれば、話は変わり、成人とは感受性も異なってくるのではないか、と考えられます。

やはり、一度にどの程度被曝するのか、そしてその回数など、知った上で検査を受けるかどうかなどを判断することも重要なのではないでしょうか。藤岡先生は、以下のように続けてらっしゃいます。
このため世界中で、必要最小限の放射線量で検査する取り組みが行われ、体重に応じて照射する放射線の量を調節しています。

放射線科の専門医が画像診断する施設ではほぼ適切に検査が行われていた、との国内の調査があります。必要な検査を受けるのはもちろん、そのような施設を選べばより安心でしょう。

現在の所は、あまりはっきりとしたことは言えませんが、その一方で、CT検査をオーダーすることで心配なさっている患者さんもいるのだ、ということを医療側も再認識する契機になる相談であると思われます。ただ、不要な検査をするような医師はあまりいない、ということも患者さんにご理解いただければ、と思われます。

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