読売新聞の医療相談室に、以下のような相談が寄せられていました。
11歳の息子は3歳のときに左小指の爪が黒くなりました。悪性黒色腫の疑いで、経過を観察してきましたが、中学入学を機に切除を提案されました。切除した方がいいでしょうか。(36歳母)

この質問に対して、虎の門病院副院長である大原國章先生は、以下のように説明なさっています。
大人の爪に悪性黒色腫(メラノーマ)ができることはありますが、小児ではきわめてまれです。私はこの病気の治療に30年以上携わっていますが、小児の爪のメラノーマの経験はありません。

むしろ、幼少期の爪にみられる線状・帯状の色素沈着は数年の経過で自然に消えることが多いので、あわてずに様子を見るのが普通です。この経過中に色が濃くなったり、幅が広くなったりすることもありますが、我慢強く待っているうちに消えていきます。数年で治る場合もありますが10年以上かかることもあるので、根気が必要です。

爪のメラノーマが進行すると、盛り上がったかたまり(結節)ができたり爪が割れたりしますが、早期のうちは爪の色の変化だけです。良性の色素沈着とメラノーマの違いは、色が鮮やかかぼんやりしているか、線の形が鮮明か不鮮明か、爪の根元側と先端側で線の太さに差があるか、線が連続性か途切れているか、といったところです。

ご質問者の場合、11歳でしたら、いきなり爪を全部取ってしまう必要はないと考えます。どうしても心配なら、爪を短冊状に細長く切り取り、顕微鏡で細胞を調べることもあります。

メラノーマ(悪性黒色腫 malignant melanoma)は、メラニン色素を作る細胞であるメラノサイトが癌化によって生じる悪性腫瘍です。日本では、足底(足の裏)や手足の爪部などの四肢末端部が好発部位であるといわれています。

年間1,500人〜2,000人が発症し、転移すると90%が5年以内に死に至るといわれており、悪性度の高い腫瘍です。世界的に増加傾向が著しいがんの1つであるともいわれ、その原因の1つに、オゾン層破壊による過度の紫外線照射が挙げられています。

ただ、小児では稀な疾患であり、上記の「幼少期の爪にみられる線状・帯状の色素沈着は数年の経過で自然に消えることが多い」とある、爪甲色素線条が鑑別として挙がります。

爪甲色素線条とは、爪廓や爪下の黒子(ほくろ)、または母斑細胞母斑由来のメラニン色素が爪甲に沈着することにより生じるものです。こちらの場合は、自然に消えることがほとんどのようです。

ただ、爪甲色素線条も一定の期間は色素の幅が広がって、色調も増強したり(この期間は2〜3年のことが多い)、なかには短期間で急に拡大することもあり、鑑別が難しいということもあります。

悪性黒色腫の危険性が高いと判断される場合は、生検で確認して外科的に切除します。この悪性を示唆する所見としては、以下のようなものがあります。
?色素線条の幅が爪甲全体に拡大する場合
?近位爪廓(爪の周りを囲んでいる皮膚)に、黒色の色素班の染み出し(Hutchinson徴候という)や指先の皮膚に色素斑が出現してきた場合
?色素線条にそった爪甲の萎縮や破壊、線条基部に肉芽様の腫瘤が生じた場合

?の所見は、思春期を過ぎてもなお拡大する場合は生検を行い、?の所見は、思春期以降では悪性黒色腫を示唆する所見です。?は、最も注意が必要な所見であり,早急に皮膚科専門医を受診する必要があります。変化がない場合は、半年に1回程度のフォローアップで十分ですが、こうした悪性の所見が現れた場合は、注意が必要です。

ただ、自己判断は危険です。大原先生は以下のように警告なさっています。
メラノーマは皮膚のがんの中でも、悪性度が高く再発・転移しやすいものですが、小さいうちに切除すれば完治します。ただし、早期のメラノーマと良性の色素沈着の区別はやさしくはありません。自己判断せず、少しでも異常があれば皮膚科を受診しましょう。

「爪の黒い筋」が気になる方は、一度、皮膚科をお尋ねになってはいかがでしょうか。

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