以下は、最終警告!たけしの本当は怖い家庭の医学で扱われた内容です。

水道修理の会社に勤めるO・S(58)さんは、丁寧な仕事が評判ですが、自分の事にはてんで無頓着。お腹はぽっこり出ており、医者から注意されてもタバコもやめないまま。さらに10年も前から歯を磨くたびに歯茎から出血しているのに、お構いなしでした。

そんなある日、娘から口が臭いと言われてショックを受けたO・Sさん。以来、毎食後きちんと歯を磨くようになったものの、すでに彼の体内では、ある恐ろしい病が進行していました。具体的には、以下のような症状が現れました。
1)歯磨きすると歯茎から出血
歯を磨くとき、歯ブラシや吐き出した水に血が混じるようになり、歯茎から容易に出血するようになっていました。
2)口が臭い
口臭を初めて娘に指摘され、それ以来は自分でも感じるようになっていました。以前は夜に晩酌をし、そのまま歯磨きをせずに寝ていましたが、それ以降はしっかりと歯磨きするようになっていました。しかしながら、それでも口臭はなかなか消えることがありませんでした。
3)胃のむかつき
いつもなら、しっかりと朝食を摂っていましたが、その日は胃の辺りがむかついてしまい、なかなか満足に食事がとれず、そのまま仕事に向かいました。
4)激しい胸の痛み
胃のむかつきを感じながら、それでも水道管工事に向かって依頼人の元を訊ねたところ、急に激しい胸痛を感じ、そのまま倒れ込んでしまいました。

救急車で運ばれ、救命処置がとられましたが、O・Sさんはそのまま帰らぬ人になってしまいました。O・Sの死因は、以下のようなものでした。
O・Sさんが亡くなった原因は、心筋梗塞でした。
心筋梗塞とは、心臓を栄養している血管である冠状動脈が、何らかの原因(冠状動脈粥状硬化巣の破綻による血栓形成など)により閉塞し、その結果として心筋が虚血に陥り、壊死に陥る状態を指します。

心筋梗塞の大きな原因は、動脈硬化です。O・Sさんも、長年の喫煙や高カロリーな食事などの生活習慣によって、動脈硬化を起こしていたと考えられます。また、もう一つの原因として、O・Sさんの場合は歯周病が関係していたと思われます。

O・Sさんの血管の詰まった箇所から、歯周病原性細菌が発見されました。歯周病原性細菌とは、歯周疾患の各病型の成立に重要な役割を演じていると考えられている菌種の総称です。たとえば、成人性歯周炎の原因となるPorphyromonas gingivalis、若年性歯周炎にはActinobacillus actinomycetemcomitans(たしか、古畑任三郎で何度も連呼されてましたね)、妊娠性歯肉炎にはPrevotella intermediaなどがあります。

菌歯周病菌が引き起こす歯周病とは、歯と歯茎の間にある溝(歯周ポケット)で歯周病菌が繁殖、歯茎に炎症が起きる疾患です。日本人のおよそ7割がかかっていると考えられている国民病の一つです。

この歯周病は、全身疾患(心臓血管系疾患,呼吸器系疾患,糖尿病,妊娠時の合併症,肥満など)との関連性を示す研究結果が報告されており、注目されています。特に、重度の歯周病を患っていると心筋梗塞のリスクが高まる、ということがいわれています。

歯磨き不足などがきっかけとなり、歯周ポケットに歯周病菌がたまり始めると、その毒素で歯茎が破壊され、歯周ポケットは徐々に深くなり出血を伴うようになります。さらに、この状態を放置すると「口臭が発生する」などの症状となって現れます。

ここまで来ると、歯周病菌の一部はリンパ管を経て、血管の中に侵入して血中内に入ることになります。もちろん血管に入った歯周病菌の大部分は、白血球によって退治されます。ところが、一部の歯周病菌は、白血球から逃れ、血小板に入り込むことがあります。

歯周病菌が入り込んだ血小板は異常を起こし、互いに集まり固まりやすくなり、簡単に血栓を作ってしまうと考えられています。O・Sさんも長年歯周病を放置した結果、歯周病菌が入りこんだ血小板が体内で増加し、血栓がつくられてしまいました。そして動脈硬化が起きていた場所に、次々と付着し、冠状動脈を塞いで、心筋梗塞を引き起こしてしまったと考えられます。

口臭を指摘されて以降、歯磨きを心がけていましたが、歯周ポケットの浅いうちは歯磨きでもかき出せますが、ある程度歯周ポケットが深くなると、歯ブラシが届かなくなってしまいます。そのため、歯周病は進行してしまったと考えられます。

こうなってしまうと、歯科医による治療が必要です。治療により、プラークが増加したり,除去することが困難な部位を除去・改善し、さらに歯肉縁下プラークや歯石の除去を行う必要があります。場合によっては、外科治療により歯周ポケットの除去に歯肉切除術やフラップ手術などが行われることもあります。

「たかが歯周病」と侮らず、全身疾患と関連していると認識し、しっかりとブラッシングをこころがけ、定期的な診察を受けるようにするといいと思われます。

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