友人とのランチが趣味という主婦I・Eさん(55)は、最近ちょっと太り気味。美味しいものは食べたいけど痩せたいと願う彼女のもう一つの悩みは、歯を磨くと必ず血が出ることでした。

そんなある日、少しは身体にいいことをしようとフラダンスを習い始めたI・Eさん。ところが、それから間もなく、なぜか頻繁に尿意を覚えるように。年のせいと片付けていたI・Eさんですが、その後も次々と気になる異変が現れました。具体的には、以下のような症状が現れてきました。
1)頻尿
以前と比べてトイレに行く回数が増えていましたが、「年齢のせい」と思い、あまり気にしてはいませんでした。
2)喉の渇き
一緒に食事に行った友人も驚くほど、冷水をがぶ飲みしていました。頻尿もあり、異常に喉が渇いて仕方がありませんでした。
3)食べ物が歯に挟まる
食事をしている最中にも、物が歯に挟まって気になるようになりました。
4)こむら返り
階段を上ろうとしたところ、急にこむらがえりが起こって、その場に座り込んでしまいました。
5)歯磨きしてないのに歯茎から出血
歯磨きをしている時に出血することはありましたが、次第に歯磨きをしていないにも関わらず、歯茎から出血してしまいました。
6)強い倦怠感
フラダンスを習っているとき、強い倦怠感を感じ、その場にうずくまってしまいました。そのまま病院に運ばれ、精密検査を受けることになりました。

検査の結果、I・Eさんは病名を告げられ、そのまま入院することになりました。I・Eさんの病名は、以下のようなものでした。
I・Eさんの病名は、糖尿病でした。
糖尿病とは、インスリンの絶対的もしくは相対的不足により引き起こされる、持続的な高血糖状態を指します。自己免疫的機序により発症する1型糖尿病と、それ以外の原因による2型糖尿病に大別できます。

1998年の厚生省による全国調査では、糖尿病患者数は690万人であり、40歳以上では10人に1人が糖尿病である計算になります。いわば国民病ともなった病気です。最近では、糖尿病性腎症により慢性腎不全に陥り、血液透析導入のトップになっています。

2型糖尿病とは、生活習慣が大きく関わっており、慢性的な高血糖状態やインスリン抵抗性(インスリンが多く分泌されていても、効かない状態)により、相対的なインスリン不足状態を指します(分泌自体はあっても、作用が追いつかない状態)。その後、インスリン分泌不全も起こってくる可能性があります。

糖尿病患者の90〜95%は2型糖尿病に属しています。こちらは、遺伝的素因に加齢、過食、肥満、運動不足やストレスなどの環境因子が後天的に加わって発症する疾患です。

原因としては、遺伝的因子と環境的因子の両方がいわれています。多因子遺伝疾患と考えられており、現在は多数の候補遺伝子が報告されています。環境因子としては、肥満、過食、ストレス、薬剤、ウイルス感染などがあります。

症状としては、高血糖により口渇、多飲、多尿、脱水を生じ、重症例では昏睡などの意識障害をきたします。インスリン作用の不足により、体重減少、筋萎縮などをきたすこともあります。

ただ、I・Eさんの糖尿病は初期のものでしたが、たった半年で緊急入院するほど病状を悪化させてしまいました。その原因として、歯周病の存在があると考えられます。

歯周病は、全身疾患(心臓血管系疾患,呼吸器系疾患,糖尿病,妊娠時の合併症,肥満など)との関連性を示す研究結果が報告されており、注目されています。中でも、歯周病が糖尿病を悪化させることが指摘されています。

歯周ポケットに歯周病菌がたまると、免疫細胞である白血球が集まってきます。この時、白血球が歯周病菌の出す毒素に触れることで、TNF-αと呼ばれる物質を放出します。TNF-α(カケクチン)とは、細菌のエンドトキシンによりマクロファージが産生する、分子量1万7000の単純蛋白質です。抗腫瘍効果があり、実験的腫瘍に出血性壊死を起こします。強い発熱物質としても知られています。

このTNF-αには、血液中のインスリンの働きを妨げてしまう作用があると考えられているそうです。そのため、インスリンの働きが低下し、糖尿病が一気に進行してしまったと考えられます。結果、血糖値が高くなり、今度は歯茎の毛細血管の血流が悪くなります。すると、血液が行き渡らず、歯周病菌を退治できなくなってしまいます。つまり、歯周病の悪化をもたらしてしまうわけです。

こうして歯周病による歯茎の炎症が悪化するにつれて、さらにTNF-αが多く放出され、糖尿病もますます悪化してしまうという悪循環が生まれてしまいます。よって、急激に糖尿病が進行し、上記のような症状が現れてきたと考えられます(「食べ物が歯に挟まる」という症状は、歯周病が悪化したことを示しています)。

単に歯周病だけの問題だけでなく、全身にも影響があります。日頃からしっかりとブラッシングを心がけ、定期的に歯科での治療を受けられることが重要であると思われます。

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