以下は、ザ!世界仰天ニュースで取り上げられていた内容です。

2006年、中国・湖北省、荊州。「荊州花鼓戯劇団」の看板女優・熊麗(ショオン・リー)は次の公演に向けての稽古に汗を流していた。同じ劇団の裏方で働く唐紅剛(タン・ホンカン)とは結婚して5年。二人には5歳になる娘紫薇(ズーウェイ)とお腹には二人目の子供がいた。

2006年12月27日、妊娠26週目。公演は大成功し、その帰り、団員たちはいつも道具運搬用トラックでの移動だったが熊麗には物が多く揺れもあり危ないと、夫にバスに乗るよう勧められた。

熊麗を乗せたバスが潜江市にさしかかると、対向車線に苛性ソーダを積んだ一台のタンクローリーが向かっていた。そしてすれ違おうとした瞬間、バスがスリップし2台が衝突。乗客は投げ出された。バス車内ではタンクローリーに積まれた大量の苛性ソーダが割れた窓から流れ込み、酷い火傷を負っていた。この事故で1人が死亡、9人が負傷、うち3人が重傷という惨事になった。バス前方に乗っていた熊麗は右大腿骨骨折、火傷は頭部、顔、胸、背中、両手足と全身の30%に達していた。

通常、母体を優先するが熊麗は既に6ヶ月。彼女の意思で決めたいが意識不明のまま一週間が経過。夫と両親は決断を迫られ、抗生物質による母体への治療を優先した。そのとき意識を取り戻した熊麗は、夫と両親の考えとは裏腹に、お腹の子供を守るため薬は一切使わないと主張。主治医の田(ティエン・フイ)医師も子を持つ親として全力でサポートすることを決意し、出産までの想像を絶する激痛との闘いが始まった。

赤ちゃんが生まれても大丈夫な状態になったらすぐに取り出すことになった。熊麗の大腿骨骨折の治療は安全な薬を少量使用し、火傷の治療に抗生物質を使わずに表面の腐敗、感染を遅らせ消毒し、それでも腐る皮膚においてはメスで取り除くというもの。

熊麗の覚悟は強かったが、それ以上に痛みが想像以上に強かった。治療を終えても痛みは続き鎮静剤を打とうとする夫の気持ちも拒んだ。事故から20日後、熊麗は40度以上の熱を出し命の危機にさらされた。しかし確かに感じる赤ちゃんの鼓動に励まされ何とか1ヶ月痛みに耐え抜き、2007年02月02日、医師らは出産の促進剤を投与し、事故から37日目の2月2日13時8分。2,700gの元気な男の子を出産。すぐに熊麗に抗生物質が打たれ皮膚移植手術が行われた。

しかし、顔には火傷が残り舞台には二度と立てなくなってしまった。乳首を火傷した熊麗は母乳をあげることができなかったが、自らの命をかけ出産したエピソードは中国で大きく報道され、その年の最も素晴らしい母親に選ばれた。


熱傷とは、高温による皮膚傷害であり、俗にいうやけどです。程度によって、
第1度:紅斑
第2度:水疱、びらん、潰瘍
第3度:壊死
第4度:炭化

に分けられます。また、熱傷の深度によっては(右に行くほど深い熱傷)、表皮熱傷<真皮浅層熱傷<真皮深層熱傷<皮下熱傷に分けられます。

熱傷の原因からは、火炎熱傷、高温液体熱傷、その他(低温熱傷、接触熱傷、凍傷など)に分類されます。患者数では火炎熱傷が最も多く、次いで高温液体によるものです。実際に医療機関で治療を施されている患者は10万人対約400人程度(日本全体で50万人)であり、入院が必要な熱傷患者はそのうち10%(約5万人)ほどだそうです。

上記のようなケースを化学熱傷といいます。これは、強力な刺激性あるいは腐食性を有する物質による急性毒性接触性皮膚炎を指します。原因となるのは強酸、強アルカリ(苛性ソーダは、こちらに含まれます)、有機溶剤など種々の化学・工業薬品類です。アルカリは組織を溶解するため、酸によるものよりも深い病変を形成します。

受傷面積は全身状態に大きく影響するため、算定することが必要です。熱傷面積の判定法としては、
1)9の法則rule of nines
2)5の法則rule of fives(Blockerの法則)
3)Lund & Browderの公式
4)手掌法(手のひらを1%と考える;成人が対象)

などがあります。全体表面積に対して2度で10%以下、3度で2%以下を軽症とし、2度30%以上、3度10%以上を重症とします。

また、重症度の判定には、以下のようなものがあります。
Artzの基準
1)総合病院に入院加療が必要(重症)
・凝30%以上,慧10%以上
・顔面,手足,会陰部,気道の熱傷
・呼吸・循環器疾患,代謝疾患を合併しているもの
2)一般病院で加療ができる(中等症)
・凝10〜30%,慧截押10%
3)外来通院でもよい(軽症)
・凝10%以下,慧截押鶲焚

burn index(熱傷指数)
burn index(BI)は、burn index=慧拏傷面積+(1/2)凝拏傷面積
で計算され、10〜15以上が重症と考えられる。

熱傷予後指数(prognostic burn index:PBI)
PBI=熱傷指数(BI)+年齢
で計算され、年齢+burn index(BI)が100以上になると予後は不良であるとされている。

受傷面積からみると50%以上の受傷面積の患者では約半数が死亡してしまいます。年齢を加味したPBIからみた死亡率は、90台で50%、100台で80%、120で95%以上です。死因はショック、臓器不全、敗血症、気道熱傷であるが、気道熱傷が合併すると死亡率は著しく上昇します。

上記のケースでは30%以上の熱傷であり、非常に重篤であると思われます。成人では20%以上、幼小児では10%以上の熱傷を受けた場合、放置すると血圧低下、尿量減少、頻脈、末梢のチアノーゼや脈圧の減少、意識障害などを起こし、いわゆる「熱傷ショック」といわれる激しい全身的な反応を引き起こしてしまいます。

こうした重症熱傷の場合、以下のような経過をとると考えられます。
ショック期(受傷直後〜48時間まで)
この時期は循環血液量の低下と主要臓器の血流障害が主体となる。尿量の低下や血圧低下という病態が観察され、血管の透過性亢進により電解質や血漿蛋白の漏出も大量に起こる。

最も障害を受けやすい臓器は腎臓であり、循環器系では心拍出量の減少が著しくなります。呼吸器系では胸部の深部熱傷の場合、胸郭制限が加わり、換気不全を認めることがあります。消化器系では、いわゆるCurling ulcerという、熱傷患者の上部消化管にみられる出血性のびらんならびに潰瘍が現れることもあります。

ショック離脱期(受傷48時間〜7日前後)
受傷直後に組織間に浮腫の形で貯留した非機能的細胞外液量が、血管内に再吸収される時期を指す。循環血液量の急激な増加による尿量増加と心肺系に対する負荷として肺浮腫を併発する。

感染期(受傷1週間〜3週間前後)
免疫系の異常による感染防御機構の破綻や、低栄養という悪条件が加わり、局所の感染が容易に全身に拡大し、敗血症や肺炎、膿胸など重大な感染症を合併しやすい。

回復期(3週間以後)
創治癒が完成される時期

こうした経過をとるため、初期にはまず第1に、とりあえず輸液路を確保して輸液を開始します。次いで概算で受傷面積の測定を行い、目標輸液量(Baxter法などにより計算される)を決定します。

また、上記のように感染治療も重要になります。熱傷においては、熱傷が重症であればあるほど感染は必発であり、熱傷面積が30%を超えると感染の発生は防ぎようがないと考えられます。

ただ、抗生物質の予防投与はしないのが一般的であり、耐性菌を広めないためにも、発生した感染の原因菌の抗生物質に対する感受性を検索して、適切な抗生物質を投与すべきであると思われます。

原因菌としては、緑膿菌、黄色ブドウ球菌、真菌などがあります。最近は耐性菌であるMRSAによる感染が多く、結果としてこの菌による敗血症で死亡する症例が増加しているとのことです。

妊婦への抗生物質投与として、ペニシリン系製剤やセフェム系製剤が使用可能であると考えられています(上記のケースでは、こうした薬剤も使用していなかったようです)。

局所治療としては、免疫不全や感染症に対する対策を考えるうえで、できるだけ早期に化膿した創面を切除し(デブリドマン)、創面を植皮などで被覆し、これらを全身的な治療と平行しながら行うべきであるといわれています。

熱傷の痛みに耐えながら、出産を待つという非常に過酷な状況は、想像を絶するものがあると思われます。しかし、それに耐え抜くことができたのは、やはり「母は強し」といったことなのでしょうかね。

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