アメリカ・オハイオ大学の研究者は、98人の被験者の腕に小さな火傷をつけ、8日間観察するという実験を実施。被験者には事前に「怒りっぽさ」を測定する心理テストを受けてもらった。なお、被験者には特殊な薬を服用している人、喫煙している人、コーヒーなどカフェインを大量に摂取している人、肥満または痩せ過ぎの人は含まれていないという。

観察の結果、怒りの感情をストレートに表してしまう人は、火傷の傷が治るまで4日以上の時間を要した。性格が穏やかな人と比べると、3倍近く長い時間がかかっていたという。

これまでの研究では、怒りっぽい人、特に男性は心臓病や高血圧、脳卒中にかかる率が高くなるとされていたが、具体的な時間が示されたのは今回が初めて。研究者は、短気な人は副腎皮質ホルモンcortisolの分泌量が多く、これが傷の回復を遅くしているのだろう、と分析している。
(「短気な人は怪我が治りにくい」実験で証明)


コルチゾールとは、脳下垂体の副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)によって産生される、糖質副腎皮質ホルモンです。細胞質内のステロイド受容体と結合し、mRNAの転写を介して特定の蛋白質の合成を調節して、さまざまな作用を示します。

たとえば、血糖上昇作用、抗炎症作用、免疫抑制作用、蛋白異化作用、脂肪分解促進作用などの糖質コルチコイド作用と、アルドステロンの1/400と小さいながら鉱質コルチコイド作用(ナトリウム保持、カリウム排泄)をもちます。

正常では、コルチゾールは真夜中に最低値を示し、午前2時頃から上昇し始めて午前5〜9時にピーク値となり、その後漸減していく日内変動があります(午前8時は5〜24μg/dL、午後4時には3〜12μg/dL)。また、運動やストレスがある時にも増加します。

ストレスを受けたとき、視床下部から副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)が分泌すると言われています。CRHは脳下垂体前葉から副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)を分泌し、ACTHは副腎皮質からコルチゾールを分泌し、全身反応を引き起こすといわれています。ですが、ストレスを受けた時の反応は複雑であり、こうした単純なホルモンによる応答だけでなく、神経・免疫系との相互作用も示唆されています。

外傷による影響としては、以下のようなものがあると言われています。
外傷によるストレス状態に合併して、上部消化管に急性の病変(たとえば出血やびらん、潰瘍)が生じることがあります。特に、中枢神経系の傷害におけるクッシング潰瘍、熱傷におけるカーリング潰瘍、AGML(急性胃粘膜病変)などが有名です。頭頸部外傷と熱傷では頻度が高く、外傷を負った1〜2日後に消化管出血が起こることがあります。

また、外傷は代謝系へも影響を及ぼします。たとえば、ホルモンの分泌は各代謝系を刺激します。結果、代謝が亢進して酸素不足が起こると、代謝性アシドーシスなどがおこることがあります。こうした循環障害と低酸素状態が原因となり、正常状態での代謝過程が破壊されることも起こりえます。

さらに進んで、外傷によるショック状態に陥ると、インスリンの分泌抑制、カテコールアミンの分泌増加、遊離脂肪酸の増加が起こってきます。結果、血糖値は上昇し、アミラーゼ値も高値を示すことがあります。

たしかに、外傷を負った後にストレスを溜め続けることは、こうした全身状態に悪影響を及ぼすかも知れないと、考えられます。慣れない病院での入院生活や、環境の変化、将来への不安などもストレスとなり、外傷などの治療において障害となりかねません。

もしかしたら、病院内の環境や、医療従事者が真摯に患者さんの悩みに向き合い、話を聞いているかどうか、といったことは、病院の治療結果や成績に大きく関わっていることなのかも知れませんね。

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