大阪府泉佐野市の市立泉佐野病院が年額報酬3500万円で麻酔科医の募集を始めたことが話題だ。年収は、自治体病院勤務医の2.5倍。さぞ申し込み殺到と思いきや……。

「問い合わせは、今のところ数件です。新聞やテレビなど多くのマスコミで取り上げられて話題になりましたが、逆の効果もあった。『高額報酬でないと医師が集まらない激務な病院』『麻酔科医が一度に3人も辞めるなんて、人間関係など何か問題があるに違いない』といった反応がありました。医師にとっても、仮に今の病院から当院に移るとなると『カネが目的か』なんて言われかねない。いつごろ採用が決まるかは公表していません」(市立泉佐野病院総務課)

地元医療事情通が言う。
「泉佐野病院の年間手術数は2100件程度でそれほど多くないし、麻酔科担当症例数も1カ月120〜150件でフツー。それなのに人が集まらないのは、大阪市から離れている地の利の悪さと、人間関係のトラブルを恐れてのこと。医師の世界は狭いし、手術はチームで行う。手術中に『なんだ3500万円もらっているのにその程度の技術か』なんてやっかみの声が周りから出たらやりにくくて仕方ないでしょう」
高すぎる報酬も考えものだ。
(年収3500万円 麻酔医募集)


産婦人科医が不足している地域では、同様に高額報酬で全国から募集するという試みがなされたそうです。ですが、こちらは「いつ呼び出されるかも知れない」といった状況にあり、体がもたないといった理由でなかなか集まらない、ということのようです。

上記のような場合、「地の利の悪さに加え、より大きい人間関係の問題」で勤務を敬遠するという、興味深い理由が背景にあるようです。外科医などとの連携が重要である麻酔科ならでは、ということもあると思われます(収入を既に周囲に知られている、という特殊な状況ということも関係していますね)。

日本の一般病院には、麻酔科医だけでなく、病理医、抗がん剤、放射線、緩和ケアなどの専門医が常勤しているところは少ない状況にあります。

麻酔医は、日本麻酔学会の調査では一般病院725施設中、常勤麻酔科がいるのは35%と非常に少ないようです。国立がんセンターでさえ、麻酔医不足で手術を待たなければいけない、といった現状があるそうです。

まず、麻酔科標榜医になるには麻酔科での臨床経験を2年以上積んで資格を取得し、さらに日本麻酔学会が認定する麻酔指導医になるには、5年以上の臨床経験を積んだ上で口頭試問や実地試験にパスする必要があります。その専門性や他科とは異なる特殊性から、麻酔医を志す人はやはり少ないという背景があるようです。

不足を示す具体的なケースとしては、石川県の救命救急センターに指定されている病院で2007年07月、麻酔医が不在のため、来院した5歳の女児の緊急手術ができず、約60キロ離れた金沢市内の病院へ搬送されていたことが分かっています。

また、アメリカなどでは、全身麻酔手術を開業医が行うことを厳しく規制しているようですが、日本では現在でも外科医が手術の傍らで麻酔を行うといったことがあるようです。

麻酔医の不足が問題とされる理由としては、以下のようなものがあると思われます。
以前では、外科医が手術の傍らに麻酔業務を行っているという状況も珍しくなかったと思われます(2005年以前、一般病院の3分の1程度だったそうです)。そのため、麻酔科医は、大病院に勤務するか、一般民間病院では合併症を持ったリスクの高い患者、心臓血管や小児などの特殊な麻酔を担当することが多かったようです。

現在、麻酔方法が多様化し、医療の高度化に伴い、高い技術が求められる全身管理が必要になっています。そのため、今後は多くの病院で麻酔科医の需要が高まると思われます。また、患者さんの医療に対する意識も高まっており、専門医による麻酔を求める、といった社会的な要請もあると思われます。

麻酔科医が常駐しているという状況ならば、麻酔事故に関する対処も変わってくると思われます。日本麻酔科学会による麻酔関連偶発症例調査では、死亡や植物状態などの重篤な合併症の原因は、換気・気道に関するもの、薬剤投与、輸液・輸血、監視不十分が主なものだそうです。

最近では、不適切な換気と食道挿管の事故はモニターの普及により、上記のような問題は減少しているそうですが、挿管困難による重大な偶発症は一定して発生しているとのことです。

ですが、こうした事柄もヒューマンエラーは必ず起こることを前提として、麻酔環境を整えることや、術前の患者さんの状態評価をしっかり行い、代替法も考えて麻酔計画を立てることで避けられる可能性があると思われます。

産婦人科医、麻酔科医など、特に不足が問題化している科の人員をいかに確保するのか、もう一度考え直す必要があると思われます。

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