以下は、ザ!世界仰天ニュースで扱われていた内容です。

2007年7月アメリカ・フロリダ州オーランド。この町に住むウィル・セラーズは、スポーツが大好きで活発な11歳の少年である。ある日、友達と遊んでいる時に突如、全身がだるくなり息苦しく感じた。しっかり寝れば熱もひくだろう…そう思っていた。しかし、ウィルの症状は、一向に良くならず、もっと深刻になっていく。熱、頭痛に加え、激しい吐き気…心配になった両親はウィルを小児病院へ連れて行った。

そしてウィルは髄膜炎の可能性があると診断された。髄膜とは頭蓋骨と脳の間にあって、脳を保護するクッションのような役目をしている膜。この髄膜に細菌やウイルスが入ると、髄膜炎を起こす。検査の結果、やはり髄膜炎と診断された。ウィルには、病状を安定させる点滴が打たれた。これで落ち着くはずだった。

しかし翌日、容態は急変しウィルは、意識障害を起こした。MRI検査の結果、ウィルの脳が膨張している事が分かり、すぐ手術を行った。緊急手術。頭蓋骨に穴を開け、脳の圧迫を防ぐと同時に髄液をサンプルとして採取した。ウィルの症状は悪化する一方。一体、からだの中で何が起こっているのか?手術の翌日…体調不良を訴えてからわずか10日あまりでウィルは亡くなった。

死因を探るため、サンプルとして採取した髄液を検査した結果、アメーバが検出された。名称をフォーラー・ネグレリアといい、河川、湖、池などに生息し、特に水温が26〜34℃くらいの温かい淡水を好む。このフォーラー・ネグレリアにより、原発性アメーバ性髄膜脳炎が起こった。

鼻から進入し、鼻粘膜から頭蓋骨に進みそこで急激に増殖して脳を破壊する。また感染から死亡まで、わずか1〜2週間ほどで、ほぼ100%の死亡率である。亡くなった人数は、2004年までの9年間で、アメリカ国内では23人。水遊びした人数からすると、1億分の1以下という少ない割合である。だが、突然2人もの被害者がでた。この事実は、フロリダ州の保健局に報告された。

保険局の人間がウィルの両親から話を聞くと、体調を崩す4日程前、家族でジェサミン湖に遊びに行き、湖でウェイクボードを楽しんだとのこと。そこで保険局は、各湖に警報を出し、水質調査を行った。

同年8月、10歳のリチャード・アルメルダが、頭痛に始まり、後に吐き気、そして、意識障害を起こし亡くなった。リチャードの死因もウィルと同じだった。保健省ではフロリダ州の各湖に警報を出した。水質検査の結果、なんと、どの湖でも感染する危険性があることが分かった。

そして、湖や川で遊ばなければ大丈夫…そう人々が信じている時、驚愕の事実が明らかになった。実はもう一人2ヶ月前の6月にアメーバ性髄膜炎が原因で亡くなったアンジェル・バスケスという少年がいた。しかもその少年が感染した場所、それはプールだった。個人所有のプールでは、塩素で消毒されていないものもあり、気温の上昇もあって増殖した可能性があった。

結果、6件の髄膜炎患者が出現し、フロリダ州・テキサス州に続き、アリゾナ州にまでその被害は拡大した。

専門家によると、温暖化で水温が上昇し、アメーバにとって理想的な環境が出来上がってしまった、とのこと。その後、保健省などの警告が功を奏したか、気温が下がったためか、被害は確認されなかった。地球温暖化が進めば、こうした状況が繰り返して起こる可能性がある。


髄膜炎とは、細菌やウイルス、真菌その他の病原体による感染性疾患によるものと、化学的刺激、悪性腫瘍の浸潤、膠原病などによって生じた非感染性疾患による、髄膜(中でもくも膜と軟膜)の炎症を指します。

代表的なものでは、細菌感染による化膿性髄膜炎と、ウイルス感染による無菌性髄膜炎があります。細菌性髄膜炎は年齢により原因菌の頻度が異なり、新生児では大腸菌、B群レンサ球菌、成人期には肺炎球菌、髄膜炎菌、高齢者では肺炎球菌、大腸菌などが問題になります。無菌性髄膜炎は小児に多く、またエコー、コクサッキーなどのエンテロウイルス、ムンプスウイルス、麻疹ウイルスなどによることが多いです。

上記のように、脳や髄膜に感染したアメーバに起因する疾患を脳アメーバ症といいます。赤痢アメーバによる脳膿瘍や、自由生活性アメーバによる髄膜炎や脳炎があります。アカントアメーバ属や、上記のようなネグレリア(Naegleria)属が髄膜炎や脳炎を起こす、代表的な自由生活性アメーバです。

ネグレリア・フォーレリNaegleria fowleriは、ヒトの鼻腔粘膜から感染した場合、原発性アメーバ性髄膜脳炎を発症します。生活環は、栄養型、鞭毛型、シスト型の3型から構成されています。

臨床症状は、上記のように頭痛や発熱、意識障害、精神錯乱、嘔吐などがあらわれます。発熱は、ウイルス性髄膜炎では38〜39℃を超えることは少なく、逆に細菌性髄膜炎でしばしば39〜40℃以上の高熱がみられます。

髄膜刺激症状は、髄膜炎では必発の症状で、最も早期から出現するのは頭痛です。他にも、悪心・嘔吐が生じることもあります。頭痛は、髄膜の血管透過性が刺激により亢進して浮腫を生じ、結果、ブラジキニンやセロトニン、ヒスタミンなどの発痛物質が生成遊離され、その刺激が原因となるといわれています。

その他、項部硬直、Kernig(ケルニッヒ)徴候などもみられます。項部硬直とは、他動的に首を前に曲げようとすると抵抗があり、首が硬くなる兆候のことです。ケルニッヒ徴候は、仰向けの状態で足を持ち上げた時、腰や背中にかけて痛みを生じると陽性となります。

診断や治療は、以下のように行います。
頭痛、悪心・嘔吐などの自覚症状がある場合では、髄膜刺激症候を特に念入りに調べます。頭痛の発症が突発で激烈ならくも膜下出血、発熱や感染が先行したり緩徐発症なら髄膜炎が疑わしくなります。

髄膜刺激症候が十分考えられれば、CT(くも膜下出血のチェック)や髄液検査(髄膜炎のチェックが必要となります。ただし、頭蓋内圧亢進があったり、穿刺部に感染があれば髄液検査は行えず、眼底検査などで検査前にチェックする必要があります。

上記でも行っていますが、髄液検査は鑑別診断上、最も簡単でかつ重要です。細胞数や細胞の種類、蛋白量、糖などから化膿性か結核性かウイルス性(無菌性)かなどの判断ができます。

原発性アメーバ性脳髄膜炎は、池などで泳いだ後、1週間以内に急性髄膜炎様の症状で発症し、出血性の脳炎で1〜2週間で死に至ってしまいます。髄液の生鮮標本でアメーバが検出されます。病理学的には、急性出血性壊死性髄膜脳炎で、病変は前頭葉や側頭葉底部、小脳に強いです。

治療としては、アムホテリシンBが奏効するといわれています。アムホテリシンBは、真菌症の治療の基準薬であり、カンジダ属、アスペルギルス属などの病原真菌に対し抗菌力を示します。治療的投与は、静注で行います。

池や自宅のプールで泳ぐ、といったシチュエーションは日本では少ないとはいえ、絶対に起こらないとは言えないでしょう。致死率も高く、医療者側も素早い対応が必要とされると思われます。

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