不妊治療を行う全国21の民間医療機関で構成する日本生殖補助医療標準化機関(JISART)は1日、理事会を開き、友人と姉妹から提供された卵子で体外受精を行うことを決めた。

病気などのため自分の卵子で妊娠できない女性が第三者から卵子提供を受けて体外受精を行う不妊治療については、平成15年に厚生労働省の審議会が匿名の提供者に限定する報告書をまとめたが、法制化は進んでいない。

JISARTは昨年6月に友人と姉妹の卵子提供を受ける2例の治療を承認したと発表。日本産科婦人科学会、日本学術会議、厚労省に承認を求める申請書を提出した。

このうち、日本産科婦人科学会から「日本学術会議の結論を待つべきだ」と回答があった。一方、日本学術会議の「生殖補助医療の在り方検討委員会」は議論を代理出産に集中させ、卵子提供は「しかるべき委員会で検討が必要」と判断したため、JISARTは治療に踏み切ることを決めた。

今後は6月までに独自のガイドラインをまとめる。その上で治療を希望する患者は倫理委員会で承認して順次、治療を行うとしている。
(友人・姉妹の卵子で体外受精 民間団体、治療に踏み切る)


生殖医療における体外受精(IVFと略されます。In Vitro Fertilizationのことです)とは不妊治療の一つで、通常は体内で行われる受精を体の外で行う方法です。受精し、分裂した卵(胚)を子宮内に移植することを含めて体外受精・胚移植(IVF-ET)といいます。

体外受精・胚移植(IVF-ET)を始めとするARTは、生理的に卵管が担う機能をバイパスする治療として考えることができます。つまり、卵子を採取し(採卵)、体外で精子と受精させ(媒精,顕微授精)、培養した胚を子宮腔に戻します(胚移植)。

重症男性不妊(乏精子症や無精子症)の場合は、顕微授精法(卵子に精子1個を注入する卵細胞質内精子注入法 ICSI)が行われます。

卵胞発育モニター法が正確に行われるようになり、採卵法も経腟超音波法を用いることが多く、入院せずに外来のみで診療している施設も多くなっています。胚移植は通常、採卵後2日目の4細胞胚になった頃、子宮腔内に移植されます。

最近では、移植される胚の数を巡って、日本産科婦人科学会は東京都内で理事会を開き、体外受精して子宮に戻す受精卵を原則1個にする見解案を承認しています。ただし、35歳以上か2回以上続けて妊娠しなかった患者は、2個まで戻すことを容認する、とされています。残りは凍結保存されると思われます。

こうした胚移植法の適応となるのは、以下の場合です。
1.絶対的適応
 1)両側卵管の器質的障害
 2)精子過少症:500万〜2,000万/ml

2.相対的適応
 1)両側卵管の機能障害:薬物療法、卵管形成術の奏功しないもの
 2)精子異常:2,000万〜4,000万/ml、数回のAIH(人工授精)で妊娠しないもの
 3)子宮内膜症:薬物療法、手術療法の奏功しないもの
 4)頸管因子による不妊
 5)原因不明不妊:抗卵・抗精子抗体を含む。
  不妊期間が3年以上で数年間の積極的治療にても妊娠しないもの

こうした卵管の異常や精子異常、不妊症などに対して適応となります。胚移植後は黄体ホルモン(プロゲステロン)の補充か、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)の補充を行い、胚が着床するのを助けます。

体外受精の副作用ともいうべきものとして、卵巣過剰刺激症候群(OHSS)があります。卵巣過剰刺激症候群(OHSS)とは、無排卵症に対して排卵誘発や体外受精−胚移植などを行うことで発症するもので、卵巣肥大や腹水が起こってきます。不妊症治療の排卵誘発時に生ずる副作用(排卵誘発の約5.3%で発生)であるといえると思われます。

排卵誘発により多くの卵胞が同時に腫大し、局所あるいは全身の血管透過性が亢進し、血管外に蛋白および液性成分が漏出してきます。その結果、血管内脱水で血液濃縮、血圧低下をきたしてしまいます(卵巣中の高エストロゲン状態により局所の血管透過性が亢進し、卵巣より液の漏出をきたしているものと考えられています)。

重症の場合には大量の腹水や胸水貯留をきたし、血清電解質異常、さらには循環血液量減少に伴う血液濃縮、血栓、重篤な場合には循環不全に陥る場合があります。

他にも、卵管性不妊では子宮外妊娠が起こりやすいと考えられています。

日本生殖補助医療標準化機関(JISART)と日本産婦人科学会の意見が、今後も食い違いがみられることも予想されます。その議論の中で、どうか不妊症で悩む方々の存在が置き去りにされないことが望まれます。

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