病気の発症には生活習慣などの環境因子が大きく影響する。が、同じ環境で生活していても発症しやすい人もいれば、しにくい人もいる。その根本的な違いとしてあるのが、両親から受け継ぎ、一生変わることのない遺伝子、つまり体質だ。

現在、判明している病気に関係する遺伝子のタイプを調べることで、病気に対してどのぐらいリスクが高い体質なのか判定が可能。この「体質遺伝子検査」を行っている機関は現在数社ある。ディーエヌエーバンク・リテイル(本社・東京)は8年前、国内で初めて遺伝子リスク診断を始め、今や年間6、7000もの検体を扱う。

現在、肥満体質をはじめ、虚血性心疾患、脳梗塞、高血圧、動脈硬化、糖尿病、喫煙による肺がん、飲酒による咽頭がん・食道がん、アルツハイマーなどのリスク解析を契約する医療機関(全国約100施設)を通して受け付けている。

「たとえば肥満体質の人は倹約遺伝子と呼ばれる遺伝子をもっていて、普通の人より200キロカロリー分体にため込みやすい」と話すのは伊藤憲一郎CEO。もし倹約遺伝子をもつとわかれば、年齢に合った標準的な1日の必要摂取カロリーよりも少し抑えておこうと一応の目安になる。またたばこの吸い過ぎを内心気にしている人も心疾患、脳梗塞、肺がんなどがハイリスクとわかれば、より禁煙の動機づけに重みが増すはずだ。

「リスクが高くても必ず病気にかかるというわけではないし、低いといっても油断は禁物。医師からリスク検査の説明を十分に受けて、自分の生活習慣に照らし合わせて病気予防に役立ててもらえれば」(伊藤氏)

検査自体はいたって簡単。看護師に専用綿棒を使ってほおの内側を左右20回ぐらいずつ擦ってもらう(口腔細胞を採取)だけ。リスク結果は低、中、高の3段階。検査料は医療機関によって異なるが、相場は1つの遺伝子を調べるのに約1万円。糖尿病は4−5万円、肺がんなら2万円ぐらいと、疾患によって調べる遺伝子の数が違ってくる。

実際に取り扱う「水道橋クリニック」の高山研一院長は「事前にハイリスクとわかれば、食生活や運動であるていど予防できるし、早期発見にもつながる」と利用価値を認める。すべて調べると20−30万円はかかるが、結果は一生もの。気になる疾患があったら1度受けてみてはいかが。
(あなたの病気危険度は…簡単リスク診断で発症前に判定)


最近では、病気の原因となる遺伝子異常の情報が飛躍的に増加しているそうです。近い将来、多くの遺伝性疾患では患者の遺伝子を解析することで、確実な証拠に基づく診断ができるようになり、さらには全く症状がない時期に将来の発病リスクを予測することも可能になると予想されます。

上記にもありますが、あらかじめ自分の発病リスクがわかれば、早期発見や早期治療、さらには生活環境の改善などによる予防につながります。また、原因の解明により、治療困難だった難病に対する画期的な治療法、治療薬の開発も期待されるわけです。

具体的な例としては、(家族性)乳癌や卵巣癌における原因遺伝子の検査があります。両親や兄弟姉妹らの血縁者内で多く発症している癌は、特に「家族性腫瘍」と呼ばれます。このうち、乳癌や卵巣癌の一部には、BRCA1、BRCA2(BRCAは、乳癌、すなわちBreast Cancerからきている)という遺伝子の変異が原因で起こるものがあります。

BRCA1遺伝子から作られるBRCA1蛋白は、放射線感受性蛋白Rad51と複合体を形成することから、DNA損傷時の組換え修復に関与し、ゲノムの安定性を制御していると考えられています。また、転写活性化能を有する領域が存在し、転写因子としても機能していることが推測されています。簡単に言ってしまえば、こうしたゲノムの安定性などの機能が障害され、癌が発生すると考えられるわけです。

この遺伝子を血液から採取し、変異の有無を調べる検査は、アメリカでは既に約10年前から一般に行われ、のべ約100万人が受けているそうです。変異がある場合、5〜8割が乳癌に、1〜3割が卵巣癌になるとされています。

BRCA1遺伝子、BRCA2遺伝子の変異がみられる家系では、ともに若年性乳癌と両側乳癌が多く、特にBRCA1では卵巣癌の頻度も高く、乳癌と卵巣癌を発症している家系の約80%にBRCA1遺伝子変異が検出されているそうです。

国内では、検査会社ファルコバイオシステムズ(電話075-257-8541)が検査の特許をもつ米企業と提携し、遺伝カウンセリングの態勢がある医療機関にサービスを提供するという形になっています。遺伝子検査の費用は1人38万円、血縁者は6万円となっています。すでに関東、東北、中部地方の6医療機関が同社と契約しているといい、検査を受けたい方は上記電話番号で、その医療機関を訊かれるといいかと思われます。

こうした遺伝子検査に関しては、上記のような恩恵があるのと同時に、以下のような問題点も存在します。
上記の検査を受けたことにより、将来の発症におびえることにもなりかねません。そのため、精神的サポートを含めた遺伝カウンセリングが必須条件となります。

また、特定の病気のリスクが判明した場合、そのデータが明らかとなってしまった場合、就職や結婚、保険加入などに際して不利益を被る可能性もあります。さらに、出生前診断が一般的に行われるようになった場合、命の選別が行われるという可能性も出てくると思われます。

そのため、遺伝子検査は社会的倫理的に複雑な問題を抱えていることもまた事実です。そこで、適正に遺伝子解析研究がなされるよう、2001年3月には文部科学省、厚生労働省、経済産業省の三省合同で「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」が公表されました。

このことを皮切りに、2003年8月には日本の遺伝医学関連学会が共同で遺伝学的検査に関するガイドラインを公表しています。他の検査でもそうですが、遺伝子診断を受けるかどうかは被検者自身がそれによる利益、不利益をよく理解したうえで(十分なインフォームドコンセントが行われる)決定することが基本となり、そうした原則が守られる必要があるとされています。

さらに、遺伝子検査で重要なことに、情報の厳密な管理が挙げられます。原則として試料、遺伝情報は匿名化され、匿名化されていない試料などを使用する場合には個人情報が漏洩しないように管理する必要があります。

今後、遺伝子検査の予防的・診断的意義は増加していくことと思われます。一方で、そのデータを患者さんがどう活かすのか、などまだ発展途上の所があります。そうしたことを理解された上で、検査されるかどうかをお考えいただくのが重要であると思われます。

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