脳卒中は年間約13万人が亡くなっており、日本人の死因の第3位だ。うち、脳の血管が詰まる「脳梗塞」が全体の7割と、最も多い。

埼玉県の会社員、増田計広さん(57)に、その危険な兆候が見られたのは、昨年8月のことだ。

朝6時ころ、寝床から起きると、右腕がしびれて、動きが悪いと感じた。屋外に出て、雨戸を開けようとしたら、体がぐらついた。「何か変だ」と感じ、家族を呼ぶため、玄関に入ろうとした。玄関のたたきと屋内との段差に右足が引っかかって、バランスを崩し、倒れ込んだ。

妻(59)を呼んだが、ろれつが回らず、はっきりとした言葉にならない。まさに脳梗塞が疑われる症状だ。すぐに救急車が呼ばれ、県内の病院に運ばれた。

ところが、症状は数十分ほどで治まり、病院に着いた時にはすっかり消えていた。CT(コンピューター断層撮影)検査などの結果、一過性脳虚血発作と診断された。

これは、脳への血流が一時的に悪くなったもので、症状は脳梗塞と同様だ。しかし、血栓が飛んで一時的に血管が詰まっても自然に溶け、多くは数分、長くても24時間以内に症状が消失する。小さな異変は忘れてしまいがちだが、一過性の発作は、大発作の予兆だ。

最初の発作から5年以内に3割が脳梗塞の大きな発作を起こす。「症状がすぐに治まるからと言って放置すると大変なことになる」。済生会中央病院(東京・三田)院長(神経内科)の高木誠さんは指摘する。

この段階で的確な治療を受ければ、脳梗塞を回避できる。増田さんは心臓から脳へ向かう首の頸動脈が左右2本とも動脈硬化を起こして、約80%ほど詰まっていた。それが発作の原因と見られた。

昨年10月、紹介された同病院を受診。ステントという金網状の筒を頸動脈に入れて、狭くなった血管を広げる治療を受けた。血液の塊をできにくくする薬などを飲んでいる。

脳梗塞の原因には、血管の動脈硬化のほか、不整脈の一種、心房細動がある。心臓上部の心房が不規則に震え、血栓ができ、脳に飛んで脳血管を詰まらせる。この時に前兆はなく、突然、意識を失うなど重い症状が表れることが多い。その場合、できるだけ早い治療が、病後の回復具合を決める。脳卒中が疑われる時には、いち早く、救急車を呼ぶことが大切だ。
(一過性のまひ 放置危険)


脳梗塞とは、脳動脈閉塞などによる虚血により、脳組織が不可逆的な変化(壊死)を起こした状態を指します。

脳は虚血に最も弱い臓器の1つであり、血流に富んだ組織(約50ml/100g脳/分)です。脳代謝の面からみると、代謝が50%以下になると脳神経機能が障害され、15%以下になると梗塞に陥ってしまうと考えられています。

脳梗塞の発症率は10万人に対して100〜150人、死亡率は10万人に対して約70人であり、救命率もさることながら、患者さんの生活にも大きな影響を与えるため、重要な疾患です。また、脳梗塞は脳卒中全体の約60%を占め、最も頻度の高い病型です。年齢が高くなるほど、脳梗塞の占める比率は上昇します。

梗塞によって、壊死した領域の巣症状(その領域の脳機能が失われたことによる症状)で発症するため症例によって多彩な症状を示します。代表的な症状としては、以下のようなものがあります。
1)顔の片側、片方の腕や足がしびれたり、麻痺したりする
2)ろれつが回らない。言葉が出てこない
3)立てない。歩けない。ふらふらする
4)片方の目が見えない。視野の半分が欠ける。物が二重に見える

こうした麻痺(運動障害)、感覚障害、失調(小脳または脳幹の梗塞で出現し、巧緻運動や歩行、発話、平衡感覚の障害が出現)、意識障害(脳幹の覚醒系が障害や広汎な大脳障害で出現)、などがおこることもあります。

脳梗塞は、脳血栓症と脳塞栓症に分類できます。上記にも説明がありますが、
脳血栓症
動脈硬化巣を基盤として血栓が生じ、その末梢部組織が壊死に陥ったものを脳血栓症
脳塞栓症
他の部位に生じた血栓が剥離し、末梢部の動脈閉塞をきたし脳に虚血性変化が生じたものを脳塞栓症という。原因は大部分が心臓由来(弁膜疾患,心内膜疾患,心房細動)

このように分類することができます。上記のケースのように、脳血栓症は発症以前に、一過性脳虚血性発作(TIA)をみとめることが多いようです。症状は階段状に徐々に進行していきます。発症は急激で、就眠時には特に変わった症状などはありませんが、朝起きようとして片麻痺に気づくことも多いようです。

一過性脳虚血性発作(TIA)とは、以下のようなものを指します。
一過性脳虚血発作(TIA)は、「24時間以内に消失する局所性脳虚血症状」と定義されます。発作の多くは1時間以内であり、典型的な持続時間は2〜15分であるといわれています(30秒間以内の発作は否定的)。

TIAの中でも、微小塞栓によるものは、頸部動脈や脳動脈のアテローム血栓、心腔内の塞栓源などから、微小な栓子が剥がれて脳の末梢に流れ、脳に小塞栓を起こすことによります。ですが、脳に虚血によって不可逆性のダメージを受ける前の短時間内に、栓子が溶解したり、細かくこわれて流れ去り、回復すると考えられています。

発作回数は1日数回起こるものから、数年に1回というものまで多様です。1〜2回のTIA発作後、完成型脳梗塞を発症することもあるし、多くの発作を繰り返して、その後は自然に消失してしまうこともあります。

上記のように、発作は脳梗塞の警告徴候として重視され、脳梗塞への移行は5年間の累積で20〜30%とする報告が多いようです。特に、初めの1ヶ月以内は高率に脳梗塞が起こります。

TIAは内頚動脈系と椎骨動脈系に分類され、それぞれの特徴があります。そこで、診断としては、以下のような症状の問診によって行われます。
1)TIAの局所神経症候は24時間以内(多くは1時間以内)に完全に消失する。

2)発作の起こり方は急速(多くは2〜3分以内にピークに達する)である。

3)TIAの症候
a)内頸動脈系のTIA
‐標は身体の半側にあらわれる(運動・感覚障害、一眼視力消失、失語など)
発作回数は少なく、発作ごとの症候は同じことが多い。
将来、脳梗塞を起こしやすい。

b)椎骨・脳底動脈系のTIA
‐標は身体の半側、両側など多彩。
脳神経症候(複視、めまい、嚥下障害、両側視力消失、半盲など)
H作回数は多く、発作ごとに症候は変動する。

こうしたものの他に、脳出血や硬膜下血腫が類似症候を呈することもあります。

内頸動脈系の場合、全片麻痺(しばしば部分的で顔と上肢のみなど)、単麻痺(手だけなど)、片側の感覚異常、構語障害および運動性失語、書字・言語理解の困難、読字や計算の困難、一側眼の失明、同名性半盲などを呈することが多いようです。

椎骨脳底動脈系の場合、症候は多様で、最も多いのはめまい、ことに回転性めまいが起こりやすいようです。そのほか、両側性の視力消失、同名性半盲、構語障害、嚥下障害、半身または両側の筋力低下、失調歩行、などが起こることもあるようです。

治療としては、TIAの再発や、TIAから脳梗塞症への発症を防ぐ目的で、抗血小板薬(アスピリン)が用いられます。また、上記のように、頭蓋外動脈の手術可能な部位に60〜70%以上の狭窄がある場合、ステントの挿入や動脈の内膜剥離術、バイパスグラフトなどを行うことがあります。

放っておくと、脳梗塞を起こす可能性もあり、ぜひとも上記のような症状が現れた場合、神経内科などを訪れることが勧められます。

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