寝たきりの諸症状を改善する「うつぶせ療法」の輪が広がっている。普及活動を初めて3年余のNPO法人「腹臥位療法研究会」によると、短時間で呼吸や誤嚥が改善したり、排痰を促したり、初期の肺炎さえ治った症例もある。仮性認知症の解消や、排泄の自立が劇的に進んだ人も多い。血行やリンパの不良も改善し、健常者のドロドロ血予防にもなるという。

「初期の肺炎で入院してきた寝たきりの82歳男性は、呼吸がぜこぜこして、肺のX線写真も痰で真っ白だったが、うつぶせにしただけで、大量の痰がドッと出て3日後には解熱して退院できた」

研究会員で国立病院機構南横浜病院(横浜市)呼吸器外科医長、大内基史さん(46)はこう説明する。「動物は腹ばい姿勢が基本で尿や便が自分にかからないようできている。人間も同じ」とも。

うつぶせ療法は、うつぶせで眠るわけではなく、うつぶせの体位を朝夕15分ずつとるだけで効果があるという。「長期間、仰向けでいたために関節がこわばって屈曲した手足が、うつぶせにすると筋肉がほぐれて伸びてくる。首が反って狭まっていたのどが広がり飲み込みが改善するので、気管に誤嚥して肺炎になる危険が減る」

呼吸も楽になり血中の酸素濃度が増し、炭酸ガス濃度は減る。「肺炎が悪化した84歳女性をうつぶせにして10分ほどで、大きく低下した酸素濃度が正常値以上になり、3倍近かった炭酸ガス濃度が正常値以下になった」

同じく研究会員で泉ケ丘病院(福井県敦賀市)の作業療法士、橋爪伸幸さん(38)は「肺にたまった痰も、自然の重力などで排出しやすくなる。1日4回のチューブ吸引が必要なくなった90代男性もいる」と話す。

福岡県内の病院では、寝たきりでオムツを着けた84人のうち6割が、2〜6週間で自分で排泄ができるようになったという。「寝たきりでオムツを着けると、無口で無表情の仮性認知症になりやすいが、呼吸や排泄などが改善されると笑顔が戻り、発語も増える」と橋爪さん。

内臓の圧迫がなくなるため血行やリンパの流れが良くなり、脳や肺などの血栓予防として寝たきりではない人の健康法としても有効だという。

うつぶせ療法には「決まった作法や用具はない」と大内さん。基本は布団やベッドの上で全身をうつぶせにして、顔を横に向ける。「関節痛などがある人は、横向きに近い半うつぶせにするといい。枕や丸めた毛布などにもたれると楽。脇の下に指3本分の厚さにたたんだタオルを敷くと、下の腕がしびれない」。腰や背中の曲がりが大きい人は「座った状態でテーブルなどに枕を置き、突っ伏すだけでも効果は同じ」という。

注意点は
1)寝返りさせる際はゆっくり。決して勢いをつけない。
2)痛がる姿勢は避け、向きを変えたりクッションを入れたりして、リラックスできる体位にする。
3)初めは痰が大量に出るので、かき出してあげる
4)体の前面は床ずれしやすいので、慣れても最長2時間にする。


会員らは各地で講習会を続けており、うつぶせ療法を導入する病院や施設は徐々に増えている。ただ、「看護師が行おうとしても知識のない医師に止められてしまう病院が少なくない」と大内さん。橋爪さんも「家庭では家族に体力がない場合はヘルパーなどに頼むことになるが、介護・看護施設側に理解がないと協力してもらえない」と指摘する。

2人は「費用がかからず、いつどこでもでき、何より患者が楽になるので、介護する側の負担も減る。普及を進め、地域でのネットワーク構築にもつなげたい」と話す。
(うつぶせ療法に注目 寝たきりの諸症状に効果も)


気道内に貯留した分泌物(痰)を除去する方法のことを、排痰法といいます。主に呼吸器感染症、気管支拡張症、慢性気管支炎などの慢性気道疾患、術後の患者さんの無気肺の予防などに用いられます。

中でも、肺理学療法である喀痰ドレナージの主な方法として、体位法があります。これは、各気管支の解剖学的区分に基づいて体位を変え、重力によって喀痰の排出を促進します。簡単に言えば、姿勢の変換によって生じる重力方向の変化によって痰などの分泌物を移動させ、自力で排出可能な大気道まで誘導することが目的で行います。意識的咳嗽法、叩打法、振動法、努力性呼気法などを併用して行います。

具体的には、体位は一般に10〜20°頭を低くして体の回転を加えます。時間は10〜30分かけて1日2回程度行うのがよいとされ、事前の気道内加湿、去痰剤および気管支拡張剤の吸入は排痰効果をあげるといわれています。

基本的には、体位排痰法は喀痰の1日量が30mL以上あり、自力での喀出が困難な場合が適応となります。

ただ、注意点としては以下のようなものがあります。
肺の換気血流分布に影響を与えるので、重篤な呼吸不全や心不全を伴う患者さんの場合は、禁忌となると思われます。また、脳圧が20mmHg以上の例や循環動態が不安定な例は避けるべきであるとされています。

さらに、吸入や体位排痰法にあたっては、必要に応じてSpO2をモニターし、体位変換時、変換後の状態や施行後の改善度を記録して、その有益性とリスクの兼ね合いを考えたりすることも必要です。バイタルサインの変動が大きい場合も、避けるべきであると考えられます。

吸入器具に関しては共用を避け、スタッフは適切な個人防護用具(マスク・グローブなど)を用いて、基本的な感染対策を行うことも重要です。

上記の方法が、これからも増え続けるであろう高齢の患者さんにとって朗報であれば、と思われます。

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