福島県立大野病院で04年、帝王切開手術中に女性(当時29歳)が死亡した医療事故で、業務上過失致死と医師法違反の罪に問われた同病院の産婦人科医、加藤克彦医師(40)の論告求刑公判が21日、福島地裁であった。

検察側は論告で、加藤医師が手で胎盤を子宮壁から剥離できなかった時点までに「癒着胎盤」を認識していたとし、「大量出血で生命に危険が及ぶことを予見できた」と指摘。そのうえで「産科医の基本的注意義務に違反し、過失は重大。医師への社会的信頼も失わせた」と述べた。

閉廷後に会見した弁護側は、「検察側は現実の診療行為をまったく理解していない。検察側の鑑定医も(自分たちが執刀した手術では)癒着胎盤をはく離させている。胎盤はく離を中断した他の事例を(検察側は)公判で明らかにしていない」と反論した。

起訴状によると、加藤医師は04年12月17日、帝王切開手術中、「癒着胎盤」と認識しながら子宮摘出手術などに移行せず、クーパーで胎盤をはがし患者を失血死させた。また、医師法が規定する24時間以内の警察署への異状死体の届け出をしなかった。
([帝王切開]手術中に死亡、産婦人科医に禁固1年求刑)


癒着胎盤とは、胎盤娩出時に胎盤の一部が、子宮壁に癒着して娩出されないものを指します。中でも、以下のように分類されています。
楔入胎盤(狭義の癒着胎盤):絨毛組織が筋層面で癒着し、子宮筋層内までは侵入していないもの
嵌入胎盤:胎盤絨毛が子宮筋層内にまで侵入しているもの
穿通胎盤:絨毛がさらに子宮漿膜面にまで貫通しているもの

胎盤が、用手剥離可能な付着胎盤とは異なります。臨床的には、胎盤癒着の軽度なものを第1群、さらに高度のものを第2群とし、用手的にも剥離できないものを第3群としています。第3群では、大量の子宮出血があり重症となります。

癒着胎盤は、既往帝王切開創部付着の前置胎盤が最も多く、子宮手術や子宮内感染既往、多産婦に多い傾向にあります。癒着胎盤は母体死亡の重要な原因の1つです。前置胎盤や既往帝切前置胎盤では、大量出血、輸血の可能性があり子宮摘出の可能性を、あらかじめ妊婦さんに説明することが必要です。

分娩に立ち会った医師や助産師が、「胎児娩出後に胎盤が娩出されていない」と認識して疑われます(胎盤の娩出があっても、不完全で一部子宮腔内に残り、娩出胎盤に欠損部がみられる)。子宮底は高く、子宮収縮が不良な状態となります。超音波断層検査やカラードプラ検査、MRI検査で診断することもあります。

胎盤が全面にわたり癒着している場合、胎盤剥離はないので、その付着部から出血はなく、比較的出血が少ないです。一方、最も出血の多いのは一部剥離し、一部癒着して未娩出のときです。ただ、分娩後に数日を経て、強度の子宮出血がみられることもあります(この場合、胎盤の一部の遺残が原因となる)。

癒着胎盤の場合、以下のような対処を考えます。 
対処としては、子宮収縮薬と輸液を準備の上、用手剥離を試みます。具体的には、片側の手、前腕を腟内から子宮内に挿入し、指尖を用いて胎盤を剥離する用手剥離が通常行われます。ただ、用手剥離も困難で、大出血や子宮穿孔を伴う時は子宮全摘術を要することもあります。

胎盤鉗子で癒着胎盤を除去する方法が行われる場合、上記のケースでも分かるとおり、強出血を招く危険も高いです。故に、出血に対する十分な対応策を準備したうえで行い、もし止血困難なときには、直ちに子宮摘出術(Porro手術)も行えるようにする必要があります。

上記のケースでは、「大量出血で、生命に危険が及ぶことを予見できたかどうか」ということが争点になっているようです。予見できた、と主張する場合、その根拠がどこにあり、しっかりと臨床の現場を反映しているのかどうかなど、しっかりと説明する義務があると思われます。

こうしたさらなる「責任」を産科医に課すことで、今後の出産の現場がどう変化するのか、といったことも踏まえ、判断していただきたいと思われます。

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