「興奮から失神に至る仕組みをはっきり記した文献はないのですが、おそらく『過換気症候群』、つまり過呼吸が原因だと思います」と教えてくださったのは失神に詳しい寺田病院の湯澤斎先生。

「簡単に説明すると、息を吸いすぎると血液中の酸素濃度が高まりますよね。これ以上、脳に酸素を送らないようにと血管が収縮して、逆に酸欠に陥って気を失うというわけです。意識を失っている間は寝ている状態に近いです」

過呼吸からの失神はレアケースで、かつ発症しやすい人には「几帳面」「女性」「10代〜20代」などの傾向があるとか。K‐1のリングドクターも務める先生によると、試合会場の観客席でも失神者がチラホラ。

「過呼吸での失神は放っておけば、数分もすれば意識が戻ります。後は紙袋を口にあてがい、袋の空気で何度か呼吸させれば、血液中の酸素濃度も回復しますよ」

ついでに格闘技の絞め技で落ちるような失神は、どんな仕組みなんでしょうか?

「それは首の頸動静脈がピンポイントで押さえつけられることで、血流が止まり脳虚血で気を失っている、いわゆる“落ちた”という状態ですね。なおボクシングの頭部打撃によるダウンは脳しんとう。この場合は非常に危険な状態ですので医師の受診が必要です」

ちなみにテレビドラマや映画なんかでよく敵や女子を一時的に気絶させるため、延髄チョップやみぞおちパンチをしますが、人を安全に失神させる方法ってあるの?

「いえ、どちらも命を失う危険があります。人を安全に気絶させる方法はありません」
(興奮しすぎてなることも…“失神”ってどんな状態なの?)


失神とは、血圧低下(その結果、一過性に全脳虚血が起こる)による一過性の意識障害です。脳の循環不全から生じていると考えられています。筋緊張を失うため、転倒してしまうことが多いです。そのため、失神で転倒した場合には、頭部外傷の有無もチェックする必要があります。

また、患者さんが失神状態で倒れた場合、脳血管障害やてんかん、心臓性失神、ヒステリーなどとの鑑別が必要になります。失神ならば何の障害も残さず、通常2〜3分で正常に回復しますが、それ以外ですと適切な処置が必要になることもあります。

原因としては、
/看拏栖機消化管出血・感染症などの急性器質的疾患
起立性低血圧
神経起因性失神(NMS)
ぬ物(血管拡張薬)や化学物質(アルコール)

など多岐に渡ります。最も多いのは、神経起因性失神(NMS)であり、生命予後としては問題となることは少ないですが、再発して繰り返したり、転倒時に受傷する危険があります。

上記のように、不安,恐怖などの強い情動変化や精神感動が強く関与して失神が起こる可能性もあります。また、過換気症候群においてアルカローシスと脳血管収縮のため失神が生じる場合があります。

神経起因性失神NMSは、血管迷走神経性失神、頸動脈洞過敏症候群、状況失神(咳嗽,排尿失神など)の3つに分類できます。これらは、起こった状況により、だいたい察しがつきます。

たとえば、採血や、痛みや不快な光景や会話、長時間の立位の後に失神が発症した場合には血管迷走神経性失神を疑います。頸部の回旋や伸展の直後に失神した場合には頸動脈洞過敏症候群を疑います。排尿や排便、咳嗽など特殊な状況の後に失神が発生した場合には状況失神を疑います。

上記のように、頸動脈、ひいては頸動脈洞の刺激によっても失神が起こります。そのメカニズムとしては、以下のような説明ができると思われます。
総頸動脈が外頸動脈と内頸動脈に分岐する内頸動脈の基部に膨れた部分があります。これを頸動脈洞といいます。

頸動脈洞には、舌咽神経の分枝である頸動脈洞神経終末が分布しており、動脈血圧の変化による血管壁の伸展度を感知します(ちなみに、組織学的に動脈の中で、最も伸展されやすいため、動脈血圧の検出に適しているといわれている)。これにより、循環調節に関与しています。

首を圧迫することで、頸動脈洞が過剰に刺激されます。これにより、体の反応としては「血圧が上がっている」と判断され(実際には、頚動脈洞の圧迫によって刺激されているだけなのだが)、迷走神経の過剰な反射が生じ、反射的に徐脈、血圧低下および呼吸抑制が起こってきます。これを頚動脈洞反射といいます。結果、頸動脈性失神を生じることもあるわけです。

ちなみに、発作性上室性頻拍という若い人に比較的多い不整脈に対しては、この頚動脈洞反射を利用して落ち着かせることがあります。ですが、不用意に強く刺激すると、迷走神経の過剰な反射によって失神を起こしてしまい、注意が必要です。

必要な対処としては、その場に横になってもらうだけで、意識が急速に回復する場合には、それ以上の処置は必要ないことが多いです。ところが、血圧の回復が完全ではない状態では、すぐに立ち上がると失神が再発する危険性があります。

こうした場合では、しばらく安静臥床が必要となり、場合によっては生食水の輸液や必要に応じて酸素吸入を行います。こうした処置により、回復がより速やかになることもあります。

反射性失神や起立性低血圧の場合では、失神の起こる原因を考え、発作の誘因となる脱水や飲酒、蒸し暑い環境などを避けることが重要となります。また、前兆が出現したときには、直ちにその場へしゃがんだり、横になったりする(外では難しいですが)ことなどを心がけます。

たまには羽目を外し、騒ぎたいという気持ちも分かりますが、大事に至ってしまっては他の人の興を削ぐことになりかねません。節度ある楽しみ方を守るのが、重要であると思われます。

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