肺の生活習慣病といわれ、最悪の場合は呼吸不全や心不全で死に至る恐れもある「COPD(慢性閉塞性肺疾患)」。世界保健機関(WHO)の調査によると、1990年には世界の死亡原因の6番目だったのが、2020年には3位に上昇するとみられている。
にもかかわらず、自覚症状がほとんどないため、肺機能検査の受診率は低い。日本呼吸器学会では受診を促すため、肺機能を分かりやすく理解するための目安として「肺年齢」を提唱するなど、啓発活動に本腰を入れ始めた。
COPDは、気管支の炎症や肺の弾性の低下により、空気の出し入れが慢性的にできなくなるのが特徴。従来は、慢性気管支炎や肺気腫として診断されていたが、最近はこれらを合わせてCOPDと呼ぶようになった。
検査は「スパイロメトリー」と呼ばれる装置に息を吹き込むことで行う。最初の1秒間で吐き出した息の量(1秒量)を、息を最大限に吸って強く吐き出した息の量(努力肺活量)で割った値で表示する。70%を下回ればCOPDの疑いが強い。
COPDの原因は8〜9割が喫煙によるものとされる。初期症状はせきやたん、息切れといった軽いものだが、本人が気づかないうちにゆっくりと進行する。そのため、重症になるまで受診しないのが大きな問題となっている。
しかも、人間の肺機能は一度衰えると回復することはない。現状ではCOPDにかかった場合の有効な治療法はなく、「吸入抗コリン薬」などの気管支拡張薬投与で症状を抑える対症療法が中心だ。ただし、禁煙すれば肺機能の低下速度は一般と同じレベルに戻る。
COPDの患者数に関する正確な統計はないものの、日本では530万人程度と推定されている。ところが、そのうち肺機能検査を受診する人は22万人程度にすぎないといわれる。世界では05年に年間300万人がCOPDで命を落としているとされ、死亡原因の4位を占めた。今後10年でさらに3割増えるとの見通しもある。
このため日本呼吸器学会では日本でももっと認知度を上げていく必要があると判断、「世界COPDデー」(毎年11月)や「肺の日」(8月1日)とあわせ、5月9日を「呼吸の日」に定めた。自分の肺の状態を把握しやすくするため「肺年齢」の概念を提唱し、検査受診を促す。
肺年齢は、1秒間に吐くことができる息の量から、標準的な人に比べ、自分の呼吸機能がどのくらいのレベルにあるかを推定したもの。「あなたの肺年齢は50歳です」というように、肺機能を年齢で示す。つまり、肺年齢が自分の年齢を上回っているほど肺機能が衰えていると判断できる。学会の取り組みを受け、フクダ電子などの装置メーカーでは今後、検査結果の紙に肺年齢を記載するよう、仕様を順次変更していく考えだ。
有効な治療法が確立されていないCOPDだけに定期検査による早期発見の重要性は高い。学会理事で久留米大医学部の相澤久道教授は「肺機能検査を受けることが大事。ぜひ受けてほしい」と呼びかける。
(自分の「肺年齢」知ろう 呼吸器学会が啓発強化)
慢性閉塞性肺疾患(COPD)とは、「肺気腫と慢性気管支炎が様々に組み合わさって生じる、非可逆性の閉塞性換気障害を特徴とする病態」を総称しています。
この概念が提唱された背景としては、1950年代に人口増加と高年齢化、大気汚染や喫煙の増加などにより、労作時息切れや喀痰の増加を特徴とする患者さんが増加したことがあります。
こうした疾患をイギリスでは「慢性気管支炎」と呼び、アメリカでは「肺気腫」と呼んでいたようです。また、気管支喘息の合併や鑑別が難しく、それぞれの用語の定義などの見直しが必要になりました。
結果、これらの疾患概念を包括する用語として、COPDが用いられるようになってきました。つまり、歴史的には慢性気管支炎と肺気腫のうち、気流制限(簡単に言えば、息が吐きづらくなる状態)を呈する症例に対する用語として生まれました。
後に、2001年4月に発表された国際ガイドラインGOLD(Global initiative for Chronic Obstructive Lung Disease)では、「完全に可逆的ではない気流閉塞を特徴とする疾患である。この気流閉塞は通常進行性で、有害な粒子またはガスに対する異常な炎症反応と関連している」と定義され、肺気腫、慢性気管支炎といった疾患名は見当たらなくなり、COPDとして再定義されました。
こうした変遷を辿る中で、「気流閉塞を呈する慢性非特異性肺疾患」といった意味合いになり、疾患名というよりはむしろ(個々の疾患概念に分類したりせずに)、『症候群』としての扱いとなったように思われます。
COPDの最大の危険因子は、喫煙です(80〜90%がこの理由による)。喫煙開始年齢、総喫煙量、現在の喫煙状況からCOPDによる死亡率を予測することができるといわれています。
喫煙に匹敵する肺気腫の危険因子として、α1-アンチトリプシン(α1-AT)欠損症がありますが、頻度は欧米でも1%以下であり、やはり喫煙によるリスクを除いて考えることはできません。
日本呼吸器学会のCOPDガイドラインによれば、その診断基準としては以下のようになっています。
にもかかわらず、自覚症状がほとんどないため、肺機能検査の受診率は低い。日本呼吸器学会では受診を促すため、肺機能を分かりやすく理解するための目安として「肺年齢」を提唱するなど、啓発活動に本腰を入れ始めた。
COPDは、気管支の炎症や肺の弾性の低下により、空気の出し入れが慢性的にできなくなるのが特徴。従来は、慢性気管支炎や肺気腫として診断されていたが、最近はこれらを合わせてCOPDと呼ぶようになった。
検査は「スパイロメトリー」と呼ばれる装置に息を吹き込むことで行う。最初の1秒間で吐き出した息の量(1秒量)を、息を最大限に吸って強く吐き出した息の量(努力肺活量)で割った値で表示する。70%を下回ればCOPDの疑いが強い。
COPDの原因は8〜9割が喫煙によるものとされる。初期症状はせきやたん、息切れといった軽いものだが、本人が気づかないうちにゆっくりと進行する。そのため、重症になるまで受診しないのが大きな問題となっている。
しかも、人間の肺機能は一度衰えると回復することはない。現状ではCOPDにかかった場合の有効な治療法はなく、「吸入抗コリン薬」などの気管支拡張薬投与で症状を抑える対症療法が中心だ。ただし、禁煙すれば肺機能の低下速度は一般と同じレベルに戻る。
COPDの患者数に関する正確な統計はないものの、日本では530万人程度と推定されている。ところが、そのうち肺機能検査を受診する人は22万人程度にすぎないといわれる。世界では05年に年間300万人がCOPDで命を落としているとされ、死亡原因の4位を占めた。今後10年でさらに3割増えるとの見通しもある。
このため日本呼吸器学会では日本でももっと認知度を上げていく必要があると判断、「世界COPDデー」(毎年11月)や「肺の日」(8月1日)とあわせ、5月9日を「呼吸の日」に定めた。自分の肺の状態を把握しやすくするため「肺年齢」の概念を提唱し、検査受診を促す。
肺年齢は、1秒間に吐くことができる息の量から、標準的な人に比べ、自分の呼吸機能がどのくらいのレベルにあるかを推定したもの。「あなたの肺年齢は50歳です」というように、肺機能を年齢で示す。つまり、肺年齢が自分の年齢を上回っているほど肺機能が衰えていると判断できる。学会の取り組みを受け、フクダ電子などの装置メーカーでは今後、検査結果の紙に肺年齢を記載するよう、仕様を順次変更していく考えだ。
有効な治療法が確立されていないCOPDだけに定期検査による早期発見の重要性は高い。学会理事で久留米大医学部の相澤久道教授は「肺機能検査を受けることが大事。ぜひ受けてほしい」と呼びかける。
(自分の「肺年齢」知ろう 呼吸器学会が啓発強化)
慢性閉塞性肺疾患(COPD)とは、「肺気腫と慢性気管支炎が様々に組み合わさって生じる、非可逆性の閉塞性換気障害を特徴とする病態」を総称しています。
この概念が提唱された背景としては、1950年代に人口増加と高年齢化、大気汚染や喫煙の増加などにより、労作時息切れや喀痰の増加を特徴とする患者さんが増加したことがあります。
こうした疾患をイギリスでは「慢性気管支炎」と呼び、アメリカでは「肺気腫」と呼んでいたようです。また、気管支喘息の合併や鑑別が難しく、それぞれの用語の定義などの見直しが必要になりました。
結果、これらの疾患概念を包括する用語として、COPDが用いられるようになってきました。つまり、歴史的には慢性気管支炎と肺気腫のうち、気流制限(簡単に言えば、息が吐きづらくなる状態)を呈する症例に対する用語として生まれました。
後に、2001年4月に発表された国際ガイドラインGOLD(Global initiative for Chronic Obstructive Lung Disease)では、「完全に可逆的ではない気流閉塞を特徴とする疾患である。この気流閉塞は通常進行性で、有害な粒子またはガスに対する異常な炎症反応と関連している」と定義され、肺気腫、慢性気管支炎といった疾患名は見当たらなくなり、COPDとして再定義されました。
こうした変遷を辿る中で、「気流閉塞を呈する慢性非特異性肺疾患」といった意味合いになり、疾患名というよりはむしろ(個々の疾患概念に分類したりせずに)、『症候群』としての扱いとなったように思われます。
COPDの最大の危険因子は、喫煙です(80〜90%がこの理由による)。喫煙開始年齢、総喫煙量、現在の喫煙状況からCOPDによる死亡率を予測することができるといわれています。
喫煙に匹敵する肺気腫の危険因子として、α1-アンチトリプシン(α1-AT)欠損症がありますが、頻度は欧米でも1%以下であり、やはり喫煙によるリスクを除いて考えることはできません。
日本呼吸器学会のCOPDガイドラインによれば、その診断基準としては以下のようになっています。
・診断の手引き
・診断基準
比較的高齢で喫煙歴があり、慢性的な咳・痰,進行性の息切れを伴う場合には、COPDを疑って肺機能検査を行うことが大切となります。
上記の診断基準にあるように、診断にスパイロメトリーは必須であり(定義の中に気流閉塞を特徴とする疾患とあることからも分かるとおり)、気管支拡張薬投与後の検査でFEV1/FVC<70%であれば、気流制限が存在すると判定されます。
スパイロメトリーとは、肺から出入りする空気の量を測定する検査です。 息をもらさないようクリップで鼻をつまみ、マウスピースを口にくわえ、検査を行います。肺活量や1秒率(最初の1秒間に何%の息をはき出すことができるか測定するもの)が測定できます。FEV1/FVCは1秒率示しており、COPDではこの値が低下します。
確定診断には、画像診断や呼吸機能精密検査により種々の疾患を除外することが必要となります。多く問題となるのは気管支喘息です。
COPDの定義では、"完全には可逆性ではない"とあります。
喘息などとは、この点で異なります(喘息では、発作後も元に戻ります)。そして、気流制限があることが特徴的です。気流制限とは、息が吐きづらくなる状態です。COPDとは、「元に戻らない(可逆性ではない)息切れが、徐々に進行する疾患」ということができると思われます。
検査としては、胸部X線所見や胸部CT検査などが重要となります。肺気腫では、肺過膨張所見(横隔膜低位、平低化)と肺野の透過性亢進の増加が認められます。肺野の透過性亢進は、気腫化による肺胞破壊・消失、肺血管影の減少と肺過膨張による含気の多さを反映しています。慢性気管支炎の場合、50%以上は正常と診断され、除外診断が重要となります。胸部X線検査により他疾患を除外し、肺機能検査により機能的に診断することが重要となります。
胸部CT所見、とくに高分解能CT(high resolution-CT; HR-CT)が、X線検査より感度も特異度もはるかに優れているといわれています。低吸収領域(low attenuation area;LAA)が病理学的な肺気腫を反映するとされ、これにより肺気腫と診断されているものが増えているようです。
重症度は予測値に対する1秒量の割合(%1秒量=1秒量÷予測肺活量×100)で決定されます。80%以上がステージ1(軽症)、50%以上80%未満をステージ2(中等症)、30%以上50%未満をステージ3(重症)、30%未満をステージ4(最重症)と定義します。
症状としては、慢性の咳、喀痰、労作時の呼吸困難などがあります。重症になるに従い、労作時に増悪する呼吸困難感が出現してきます。呼吸困難、低酸素・高炭酸ガス血症により、意識障害をおこして死に至ることもあります。また肺炎、気管支炎をおこしやすく、重症化しやすいともいわれています。
禁煙化やパスポ導入などが進んでいるとはいえ、健康維持のため、こうした啓蒙活動は今後も続けていって欲しいものであると思われます。
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受動喫煙で肺癌のリスクが2倍に
下記1〜3の臨床症状のいずれか、あるいは、臨床症状がなくてもCOPD発症の危険因子、特に長期間の喫煙歴があるときには、常にCOPDである可能性を念頭に入れて、スパイロメトリーを行うべきである。スパイロメトリーはCOPDの診断において最も基本的な検査である。
1. 慢性の咳嗽
2. 慢性の喀痰
3. 労作性呼吸困難
4. 長期間の喫煙あるいは職業性粉塵曝露
・診断基準
診断の手引きを参考にした上で、
1. 気管支拡張薬投与後のスパイロメトリーで
FEV1/FVC<70%を満たすこと
2. 他の気流制限を来しうる疾患を除外すること
比較的高齢で喫煙歴があり、慢性的な咳・痰,進行性の息切れを伴う場合には、COPDを疑って肺機能検査を行うことが大切となります。
上記の診断基準にあるように、診断にスパイロメトリーは必須であり(定義の中に気流閉塞を特徴とする疾患とあることからも分かるとおり)、気管支拡張薬投与後の検査でFEV1/FVC<70%であれば、気流制限が存在すると判定されます。
スパイロメトリーとは、肺から出入りする空気の量を測定する検査です。 息をもらさないようクリップで鼻をつまみ、マウスピースを口にくわえ、検査を行います。肺活量や1秒率(最初の1秒間に何%の息をはき出すことができるか測定するもの)が測定できます。FEV1/FVCは1秒率示しており、COPDではこの値が低下します。
確定診断には、画像診断や呼吸機能精密検査により種々の疾患を除外することが必要となります。多く問題となるのは気管支喘息です。
COPDの定義では、"完全には可逆性ではない"とあります。
喘息などとは、この点で異なります(喘息では、発作後も元に戻ります)。そして、気流制限があることが特徴的です。気流制限とは、息が吐きづらくなる状態です。COPDとは、「元に戻らない(可逆性ではない)息切れが、徐々に進行する疾患」ということができると思われます。
検査としては、胸部X線所見や胸部CT検査などが重要となります。肺気腫では、肺過膨張所見(横隔膜低位、平低化)と肺野の透過性亢進の増加が認められます。肺野の透過性亢進は、気腫化による肺胞破壊・消失、肺血管影の減少と肺過膨張による含気の多さを反映しています。慢性気管支炎の場合、50%以上は正常と診断され、除外診断が重要となります。胸部X線検査により他疾患を除外し、肺機能検査により機能的に診断することが重要となります。
胸部CT所見、とくに高分解能CT(high resolution-CT; HR-CT)が、X線検査より感度も特異度もはるかに優れているといわれています。低吸収領域(low attenuation area;LAA)が病理学的な肺気腫を反映するとされ、これにより肺気腫と診断されているものが増えているようです。
重症度は予測値に対する1秒量の割合(%1秒量=1秒量÷予測肺活量×100)で決定されます。80%以上がステージ1(軽症)、50%以上80%未満をステージ2(中等症)、30%以上50%未満をステージ3(重症)、30%未満をステージ4(最重症)と定義します。
症状としては、慢性の咳、喀痰、労作時の呼吸困難などがあります。重症になるに従い、労作時に増悪する呼吸困難感が出現してきます。呼吸困難、低酸素・高炭酸ガス血症により、意識障害をおこして死に至ることもあります。また肺炎、気管支炎をおこしやすく、重症化しやすいともいわれています。
禁煙化やパスポ導入などが進んでいるとはいえ、健康維持のため、こうした啓蒙活動は今後も続けていって欲しいものであると思われます。
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