パスカルさんはパリ近郊のArgenteuilという町で生まれた。生まれたときは目鼻立ちの整ったきれいな子供だったという。

しかし6歳の誕生日を過ぎたころ、神経線維腫症という珍しい遺伝性の病気を患った。その後、彼の顔には大きな球状のこぶができるようになった。次第に大きくなるこぶはパスカルさんの目や鼻も覆うようになり、彼は話をすることも食事をするのも困難になってしまった。

今回パスカルさんが受けた顔移植手術は世界で3例目、フランスでは2例目だという。また顔全体の移植手術としては世界初の事例で、もしパスカルさんの体が拒否反応を示したとしたら彼は命を落とす可能性もあったとのことだ。

手術から1年、パスカルさんは会計士の仕事に就くことができ、友人とテニスやバスケットボールをして遊ぶこともできるようになった。彼は今、女性と結婚して子供を持ちたいという夢も描いている。
(世界初、顔の交換手術に耐えて生き延びた男性)


神経線維腫症は、皮膚・神経を中心に人体の多くの器官に神経線維腫をはじめとするさまざまの異常を生じる遺伝性疾患です。リッカルディ(Riccardi VM)らは、神経線維腫症を8型に分類しましたが、その内の神経線維腫症1型(NF1:レックリングハウゼン病)と神経線維腫症2型(NF2)が代表的です。

神経線維腫症儀燭録牲仞維腫と呼ばれる腫瘍や色素斑(褐色調で、カフェオレ斑と呼ばれる)など皮膚症状が強く、神経線維腫症況燭藁沼Δ猟或牲仄鞜腓鮗臑里鉾乕翩楕僂両ないタイプです。

NF1とNF2の原因遺伝子はクローニングされ、異なる染色体に位置し、異なる機能を有するものと考えられており、両疾患は異なるものであるとされています。

神経線維腫症儀燭蓮17番染色体の上に存在するneurofibrominと呼ばれる蛋白質をつくる遺伝子に変異があることが分かっています。この蛋白質は、細胞の増殖シグナルを阻害する機能があるとされ、この蛋白質が変異したため、細胞の増殖シグナルが消されなくなり、神経線維腫症儀燭鉾爾色々な症状が起こるとされています。

NF2の原因遺伝子は、22番染色体長腕上にある遺伝子で、その蛋白産物はmerlin(moesin-ezrin-radixin-like-protein)と呼ばれます。merlinとは、細胞膜上の蛋白質と細胞骨格蛋白質を結びつける役割を担う癌抑制蛋白質であると考えられています。

疫学調査により、NF1は出生3,000について1人の頻度であり、NF2は出生37,000〜40,000に1人に出現し、NF1の10分の1以下の頻度であると言われています。NF1はほぼ100%の浸透率を示す常染色体優性の遺伝性疾患ですが、患者さんの半数は孤発例であり、突然変異率が高いといわれています。

上記の「顔には大きな球状のこぶができるようになった」といった症状から、1型の方ではないか、と考えられます。

神経線維腫症儀燭糧乕羮評としては、カフェオレ斑、小von Recklinghausen斑、神経線維腫などがあります。

カフェオレ斑とは、境界明瞭なミルクコーヒー色の限局性色素斑です。生下時ないし乳幼児期から出現してきます。6個以上出現することがほとんどだそうです。小von Recklinghausen斑とは、雀卵斑様小色素斑が腋窩、鼠径部などに多発するものを指します。

神経線維腫とは、全身の皮膚に出現する大小様々な柔らかい腫瘤を指します。皮膚面から半球状あるいは乳頭状に隆起するものや、盛り上がらずに柔らかく触れるものなど多様なものがあります。

中には、大きく弁状もしくは懸垂状に下垂するびまん性蔓状神経線維腫と呼ばれるものがあります。これは進行性に増大・増加してきてくることもあります。以前、頭と顔に重さ15Kgの腫瘍がある31歳の中国人男性が、切除手術を行ったと報じられていました。

こうした症状の他に、以下のようなものがあります。
中枢神経症状として、腫瘍性病変、脳波異常、軽度の知能障害、痙攣発作などが起こる可能性があります。頻度は低いですが、聴神経腫瘍、髄膜腫、脳実質内腫瘍などの脳脊髄腫瘍が問題となることがあります。

骨病変も生じ、側彎や後彎などの脊柱変形が全患者の約20%に出現し、四肢骨の変形や骨折、頭蓋骨・顔面骨の骨欠損も生じる可能性があります。

眼にも病変が起こり、無症状ながら虹彩結節(Lisch nodule)は乳幼児期から出現して、思春期以降急速に数が増えることがあります。さらに、約3%に悪性末梢神経鞘腫瘍を生じ、生命的予後への影響が大きいといわれています。

こうした症状を元に、診断がおこなわれます。その基準としては、
<診断基準>
以下の所見の内、2つ以上を有すること。
1. 5mm以上のカフェオレ斑が6個以上(思春期前)
  15mm以上のカフェオレ斑が6個以上(思春期後)
2.2つ以上の神経線維腫か、末梢神経内に1つ以上の神経線維腫
3.腋窩あるいは鼠径部の色素例
4.眼窩内の神経線維腫
5.2個以上のLisch結節
6.骨の異常
7.NF-1の家族例

このようなものがあります。NF1の場合でも、中枢病変などを疑ってCTやMRI検査を施行することがあります。

NF1の患者さんは、生活上に大きな支障なく、普通に社会生活を送る場合も多く、病気自体やその治療に過敏になる必要はないようです。ただ、神経線維腫などの主としてコスメティックな問題が生じる可能性があり、上記のように切除術などが施行されることがあります。

たしかに、顔面の移植手術は拒絶反応など、リスクは伴いますが、前向きに人生を送れるようになるため、検討してみる価値は十分にあるのではないか、と思われます。

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