野生のスイカなどウリ科の植物に多く含まれるアミノ酸の一種「シトルリン」。もともと医薬品として用いられていた成分だが、昨年8月に厚生労働省から食品としての使用が認められたことで、血管拡張・血流改善効果や抗酸化効果に期待が集まっている。すでにサプリメントが発売されているほか、夏前にはシトルリン入りの飲料やお菓子が発売される予定で、新しい健康食品素材として注目されている。
 
シトルリンは昭和5年、日本人によってスイカの果汁中から発見され、スイカの学名「シトルリン・ブルガリス」からシトルリンと名付けられた。体内に吸収されると、一酸化窒素(NO)を作り出すメカニズムに関与して、血管を拡張し血液の流れを改善する効果が確認されており、動脈硬化予防や冷え性改善などの効果が期待されている。

名古屋大学医学部附属病院老年科の林登志雄講師は、動脈硬化とNO、シトルリンの関係を研究している。ウサギを用いた実験では、シトルリンが動脈硬化を抑制する作用があることが分かっているといい、林講師は「人間でも同様の効果があるかの研究はこれから。シトルリンには細胞老化を抑える働きがあることも指摘されており、今後の検討課題として興味深い」と話す。

シトルリンが欠乏する先天性代謝異常症に、小児で発症する「リジン尿性タンパク不耐症」がある。この病気になると骨粗鬆症や自己免疫疾患、動脈硬化による合併症を起こすリスクが高い。熊本大学大学院医学薬学研究部の遠藤文夫教授(小児科)は、こうした患者の治療に約20年間、薬としてシトルリンを使用し、症状の改善を図ってきた。

遠藤教授はシトルリンの血流改善効果には以前から着目してきたが、「最近の研究では、シトルリンには優れた抗酸化作用があることや、肥満の人ではシトルリンが欠乏していることなどが分かってきている。健康維持に貢献する成分として大きな期待が寄せられている」と話す。

サプリメントを販売する協和発酵工業(東京都千代田区)が行った健康な男女36人を対象にした調査では、シトルリンが「体の冷え」や「手足のむくみ」など血流改善に効果があることが確認されている。

食品素材としてすでに使用されている米国では、動脈硬化予防や精力増強などを目的にサプリメントを利用する人が多いという。

健康な人の場合、摂取の目安は1日800ミリグラムで、スイカなら7分の1個、メロン1・3個、キュウリ56・5本に相当する。スイカが手に入りやすい夏を除けば、一般の食品だけで目安となる量を摂取するのは難しい。

遠藤教授は「バランスのよい食事をしている人でも、シトルリンは不足しがちになる。生活習慣病や冷え症など身近な健康との関係も指摘されており、食品として入手できるようになったことは意義深い」と話している。
(血流改善、抗酸化作用に期待 「シトルリン」食品の使用許可で注目)


シトルリンとは、アルギニン合成または尿素合成系の中間体アミノ酸(アルギニンは、アルギナーゼの触媒作用によってすぐに尿素とオルニチンに分解される)です。

オルニチンとカルバモイルリン酸から転移反応によって生じます。また、アルギニンから一酸化窒素が合成される反応の、もう1つの生成物として知られています。

一酸化窒素(NO)は、最初は陰茎勃起を誘発する物質として見出されましたが、後になって内皮細胞由来血管弛緩因子でもあることが確認されました。つまり、血管を弛緩(拡張)させる作用をもつ、ということです。

上記のように、細胞内においては、L-アルギニンがL-シトルリンに変わる過程で生じます。生体内のほとんどの器官や組織で産生されており、血管を弛緩の他、中枢神経系における神経興奮抑制、消化管における運動抑制,気道拡張など,主に抑制作用をもたらす作用をもっていると言われています。

この作用を用いて、血管の拡張をもたらすものとして、ニトログリセリンがあります。これは、直接血管平滑筋に作用し(低用量では静脈、高用量では静脈及び動脈)の拡張作用を示します。

ニトログリセリンが細胞内で一酸化窒素に変換され、グアニル酸シクラーゼを介してcGMPを増加することにより、細胞外へCaが排出されること、そして収縮蛋白のCa感受性が低下するなどして、血管拡張作用があると考えられています。この作用により、狭心症(冠動脈の狭窄が原因となる)の治療などに用いられているわけです。

上記では、動脈硬化との予防が可能に関連性があるのではないか、と指摘されていますが、動脈硬化については以下のように説明できると思われます。
動脈硬化とは、広義では「血管壁の肥厚・硬化・再構築・機能低下を伴う動脈病変の総称」を指します。簡単に言ってしまえば、動脈が肥厚し硬化した状態であり、これによって引き起こされる様々な病態を動脈硬化症といいます。

動脈硬化の種類には粥状硬化、細動脈硬化、中膜硬化などのタイプがあります。臨床的に最も重要な粥状硬化を、狭義で「動脈硬化」と呼ぶことが多いようです。

動脈硬化の最大の危険因子は年齢であり、加齢とともに有病率は増加します。特に、
45歳以上の男性、閉経後の女性は動脈硬化予備軍です。他の危険因子として、
・高コレステロール血症(>220mg/dl)
・高血圧(≧140/≧90mmHg)
・喫煙習慣
・耐糖能異常(日本糖尿病学会基準で境界型、糖尿病型)
・肥満[肥満指数(BMI)≧ 25kg/m^2]
・低HDL血症(<35mg/dl)
・運動不足

などがあります。動脈硬化の成因を説明したものとして、「反応傷害説」があります。

反応傷害説とは、高血圧、乱流などの血行力学的因子や高LDL血症、過酸化脂質、喫煙などにより内皮細胞が傷害・活性化すると、細胞表面に接着分子が発現され、単球やTリンパ球が内皮下に侵入します。

単球は、サイトカインの作用でマクロファージに成熟・分化し、酸化LDLを取り込んで脂質に富んだ泡沫細胞を形成します。こうしてできた脂肪斑から、さらに平滑筋細胞増殖、結合組織増生によりプラークが形成されます。結果、動脈硬化が進行していくと考えられています。

一方で、不安定なプラークが破綻することにより、血栓が形成され、心筋梗塞などが起こされるのではないか、といったことも言われています。

こうした動脈硬化を防ぐため、もしかしたらシトルリンが大きな役割を果たすことになるのかも知れません。今後の研究が待たれます。

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