分子標的薬と呼ばれる新しいタイプの抗癌薬に属するアバスチン(一般名:ベバシズマブ)が腎障害を引き起こす機序が明らかにされ、医学誌「New England Journal of Medicine」3月13日号に掲載された。

アバスチンは、癌への血液供給を遮断するようデザインされた薬剤 (血管新生阻害薬)の最初のもので、血管の新生を促進する蛋白である血管内皮増殖因子(VEGF)の作用を阻害することで効果を発揮する。この薬剤の副作用の一つに尿蛋白(腎障害の指標となる)があるが、その原因機序が腎臓の毛細血管の成長が阻害されるためであることが今回の研究で判明したと、研究を率いたカナダ、トロント大学医学部助教授Susan E. Quaggin博士は述べている。

アバスチンは肺癌および大腸(結腸)癌への使用において最初に米国食品医薬品局(FDA)の承認を受けた。その後、進行乳癌への使用について、諮問委員会では5対4で否決されたにもかかわらず承認されたことで物議をかもした。委員会のメンバーによれば、この薬剤が腫瘍の進行を抑える能力は、血栓や心血管障害などの副作用を凌駕するものではないという。

さまざまな研究から、アバスチンを使用した患者の21〜64%が尿蛋白を発症することがわかっているが、重篤な腎障害がみられるのは1〜2%にとどまり、「腎障害の正確な発生率はわからない」とQuaggin氏はいう。尿蛋白が極めて多くみられるのは事実だが、必ずしも使用を中止するべきではなく、今後もこの薬剤について慎重に追跡し、研究を重ねる必要があると同氏は述べている。

米スケペンス眼研究所Schepens Eye Institute(ボストン)のPatricia D'Amore氏によると、アバスチンをはじめとするVEGF阻害薬を使用する患者は、身体のどの部位にでも副作用が生じる可能性があることを知っておく必要があるという。

同氏は、アバスチンがマウスの脳損傷を引き起こすことを示した研究を行っており、脳室から脳への脳脊髄液の漏出を防ぐための内膜細胞がアバスチンによって損傷される可能性が示されている。脳室内の細胞もVEGF蛋白を発現しており、VEGFが血管の成長以外にも関与していると考えられるとD'Amore氏はいう。

高齢者の失明の原因となる黄斑変性症の治療にこの薬剤を使用する医師もいるが、使用を拡大する際にはこのような副作用の可能性を考慮に入れる必要があり、「あらゆる正常組織がアバスチンの標的となりうる」と同氏は述べている。
(新しいタイプの抗癌薬による腎障害のメカニズムが明らかに)


アバスチン(一般名 ベバシツマブBevacizumab)は、血管内皮細胞増殖因子 (VEGF)という蛋白質を抑制するモノクローナル抗体です。

VEGFは、強力な腫瘍血管新生因子であるといわれており、VEGFの発現程度は、腫瘍組織内微小血管密度と正の相関を示すそうです。VEGFはその受容体が血管内皮細胞表面に特異的に存在していて、なおかつ多種の腫瘍細胞で発現しているので、最も重要な血管新生因子と考えられています。

つまり、血管の細胞を増殖させる働きを持っており、VEGFの分泌が起こる部位に血管が伸びたり、新しい血管が形成されます(この現象を血管新生といいます)。

この血管新生とがんは深く関連しています。がん細胞は通常の細胞に比べて増殖速度が速く、多くの栄養分を必要とします。そのため栄養分を吸収するために、がん細胞はVEGFを分泌して血管をがん細胞のところまで誘導します。

こうしたことを押さえることで、癌の発育や浸潤などを押さえることが出来るのはないか、ということでアバスチン(抗VEGF ヒト化モノクローナル抗体)が使用されるようになってきたわけです。アバスチンは、血管新生阻害をターゲットとした世界で最初の抗癌剤、ということができるでしょう。

上記でも触れられていますが、ヒト乳癌において高頻度に発現し、進行乳癌例では循環血液中にVEGFの発現が認められると報告されています。そのため、この働きが抑えられれば、その進行を押さえられるのではないか、と考えられるわけです。抗癌剤としては、非小細胞肺癌や大腸癌に点滴静注で使用したりされています(国内では、適応は治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌などに限られています)。

また、抗癌剤として使用されるほか、加齢黄斑変性や糖尿病性網膜症(こちらも病態に新生血管が大きく関わっています)の治療薬として期待されています。

副作用としては、以下のようなものがあります。
まず、アバスチンの点滴静注により過敏性反応(アナフィラキシー様反応)起こす方がいます(3%以下)。重篤な場合、ショック状態に陥いることもあるようです。

また、VEGFは創傷治癒(傷を治すことに関しても、血管新生は関わっている)に関わることから、アバスチン使用により創傷治癒の遅延がみられることがあります。そのため、外科的治療後28日以内はアバスチンの投与は控え、逆にアバスチン投与後は28日間、手術を行うことは避けるべきであると推奨されています。

投与中に腫瘍が壊死・出血を起こすこともあり、非小細胞性肺癌に対する投与では、喀血や肺出血などがみられています。消化管出血、くも膜下出血、脳出血などの出血傾向も報告されています。

さらに、胃腸穿孔を引き起こすことが指摘されており(1.5%)、胃潰瘍や十二指腸潰瘍の既往がある場合は慎重投与することが求められています。

上記にあるように、アバスチンの投与で、蛋白尿が発生することがあります(26%)。中には、ネフローゼ症候群を引き起こしたり、透析導入をせざるをえなかったケースもあるようです。そのため、アバスチン投与中には定期的な尿検査が必要となるようです。

薬における主作用と副作用は、表裏一体のようなところがあります。もちろん、その利益(benefit)とリスクを天秤に掛け、利益が大きい場合に用いるべきであると思われます。ですが、今後、また副作用が報告されることも考えられ、その選択は患者さんにとって、難しい選択となると思われます。

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