腎臓がんを克服、昨年12月に1年半ぶりのカムバックを果たした人気プロレスラー、小橋建太さん(41)。これまでも、大きな故障を乗り越え、「鉄人」と呼ばれる小橋さんも、「今回は、さすがにプロレスはできなくなってしまうのかと思った」。その一方、病気になったことでファンの応援をより一層実感。「またリングに立ちたいという気持ちを後押ししてくれた」と話します。(佐久間修志)

腎臓がんが分かったのは平成18年です。前年の中ごろから体がだるく、風邪が治らないような症状が続きました。あまり風邪はひかない人間でしたが、毎日、体がだるくて鼻がずるずるしていました。

普段は風邪なんて、体を動かしているうちに治っていましたが、そのときはいったん収まっても、しばらくすると症状が始まる。おかしいなとは思いましたが、まさか重い病気とは思いませんでした。

ところが18年の6月、定期検診のエコー検査で腫瘍が見つかった。終わった後に、診察室に呼ばれて、「腫瘍があります。紹介状を書くので、日を改めて、近くの病院で検査してください」と言われました。

3日後、病院でCT検査。さらに2日後に結果を伝えられました。先生が画像を見ながら、「腫瘍には良性と悪性があります」と、遠回しに言おうとする。「はっきりしてくれ」という気持ちだったので、こちらから「がんなんですか」と聞いたら、そうだと言われました。

それまで、がんというのはもっと高齢の人がかかる病気だと思っていました。少なくともプロレスを引退して、もっと年数がたってなる病気というイメージですね。だから、「なんで今なんだ」という気持ちになりました。

7月の試合が決まっていたので、がんといわれても出ようと思っていました。「7月まで持たせる抗がん剤とかレーザーとかないのか」と聞いたら、できませんと。それで「がん」「プロレスができなくなる」「死」という3つが頭の中で、イコールで結ばれるような感覚でしたね。
 
医師から告知を受けた後、三沢(光晴)社長には「試合は出たい」と話して、いろいろ病院を当たりました。それで今の主治医とも出会ったのですが、いずれも「試合は考えられない」と言われました。「何らかのアクシデントで破裂したりしかねない」と言うんです。

腎臓は膜に覆われていて、そのままでは調べられないんですね。だから、実際に摘出して病理検査に出してみないと、状態が分からない。進行が早い可能性もあるし、それだと取り返しがつかない。で、どの病院でも「手術をしないとだめ」と言われました。

今の主治医からは「まず、生きましょう。生きていれば何でもできますよ」と言われました。もちろん、主治医はプロレスラーとしての復帰は頭になかったと思います。手術方式も、私は復帰のため、腎臓の部分切除をお願いしましたが、主治医は「生存率が低くなる」と言ってましたから。

その時は、生きるということに全力投球でした。生きていれば復帰の可能性も出てくるし、まずは生きないとだめだと思いました。それで全摘出を了承しました。
(腎臓がんからの生還…プロレスラー小橋建太さん)


腎癌とは、腎臓に発生する悪性上皮性腫瘍の総称です。腎癌の中には、腎細胞癌、腎盂癌、腎芽腫(ウィルムス腫瘍)が含まれます。成人では、腎細胞癌と腎盂癌がほとんどで、約90%は腎細胞癌となっています(小児では、ウィルムス腫瘍が多い)。

腎細胞癌は、癌全体の約2%を占め、最近のがん・統計白書では、腎細胞癌による死亡数は増加傾向にあるといわれています。40歳以降(特に60代から70代にかけて好発)に生じ、男性に多い(女性のおよそ3倍)といわれています。

腎細胞癌において、腫瘤形成、血尿、疼痛が古典的な三大症状とされていますが、これらはいずれも、腫瘍がきわめて大きく進展した場合です。他にも、全身的症状として発熱、体重減少、貧血などをきたすことがあります。

腫瘍の最大径が5cm以上になってくると症状が現れてきますが、それまでは無症状のことが多いです。上記のケースのように、検診時の超音波検査やCTで偶然発見される例が70%以上を占めるそうです。

稀なケースですが、腫瘍が産生する物質によって、赤血球増多症(エリスロポエチン産生による)や高血圧(レニン産生による)、高カルシウム血症(ビタミンD産生による)などが引きおこされることがあります。

診断や治療は、以下のように行います。
画像診断により、大部分の症例は診断可能となります。超音波と造影CT(腎癌の標準的画像診断)で診断される実質性腎腫瘍の大半は、腎細胞癌といわれており、通常は生検は行いません(針生検は他臓器癌の腎転移や、悪性リンパ腫を疑う場合に行われることがある)。

病期診断では、腫瘍血栓の診断にエコーとMRI(腎癌の特徴である腎静脈や下大静脈への腫瘍血栓の進展の有無については、CTより診断能が優れている)を行います。転移巣の検索に胸部CTと全身骨シンチグラフィーを行います。エコーでは、カラードプラ法やパワードプラ法の有用性が認められつつあります(腎細胞癌は、典型例ではhypervascular)。

治療としては、腎細胞癌の治療の主体は外科療法です。病期に関わらず、摘出できる場合は腎臓の摘出、あるいは腎臓を部分的に摘出することが最も一般的です。というのも、腎臓を摘出する手術がそれほど侵襲性が高くなく、摘出後に転移巣に対して免疫療法、外科療法などを行うことにより抑えられる、といったことが理由としてあげられます。現在では、腹腔鏡下手術が行われている病院もあり、腹部を大きく切らないため傷が目立たず、術後早く退院できるといったこともあるようです。

最近では、各種画像診断の普及から、腫瘍サイズが小さい腎癌が発見される機会が増加しています。このような小さい腎癌に対しては、腎臓を全部摘出せず、腎部分切除が行われています。上記のケースでも、小橋さんは「腎部分切除ができないか」と提案していますが、医師は難しいと判断し、結果的には全摘出を行いました。

手術後、小橋さんは昨年12月、試合復帰されています。リハビリや食事制限に取り組み、見事復活なさいました。

【関連記事】
有名人の症例集

腎細胞癌を乗り越え、再びリングへ 小橋建太さん