以下は、最終警告!たけしの本当は怖い家庭の医学で扱われていた内容です。

夢のマイホームへの引越しを1ヶ月後に控えた頃、微熱をともなった風邪のような倦怠感を覚えたN・S(37)さん。その後、咳や胸の圧迫感などの症状に襲われた彼は、病院に駆け込んだところ、原因不明のある心臓病と診断され絶望の淵に立たされました。具体的な症状としては、以下のようなものがありました。
1)倦怠感
微熱を伴う倦怠感があり、風邪だと思っていました。市販の風邪薬を飲んだところ、その症状は治まりました。
2)咳
しばらくして、夜間に寝ているときなど、激しく咳き込むようになりました。子供の頃に患った喘息であると思い受診し、症状は再び治まりました。
3)胸の圧迫感
引っ越し後のその夜、胸を締め付けられるような圧迫感があり、咳はひどくなる一方でした。
4)嘔吐
胸の圧迫感を感じてから10日後、朝に激しく嘔吐しました。

「これは喘息などではない」と思ったN・Sさん。病院に駆け込み、胸部のレントゲン写真を診た医師は、心臓の左側が正常の2倍程度に拡大しているのをみつけました。

精査の結果、以下のように診断されました。
N・Sさんの病名は、特発性拡張型心筋症でした。

特発性拡張型心筋症とは、左室あるいは両心室の拡張と収縮不全を呈する心筋疾患です。心臓を覆っている心筋の一部が何らかの原因で変質、血液を送り出す筋肉の力が弱まり、血液が心臓の中に溜まり続けてしまう疾患です。そのため、心室の拡張と収縮不全によるうっ血と心拍出量の減少(心室、特に左心室のポンプ機能障害が起こり、血液を全身に送る機能が障害される)が起こります。

番組中では、拡張型心筋症はおよそ1万人に1人が発症するといわれ、5年生存率は50%であるそうです。

臨床的には、主に心不全および不整脈に起因する症状が問題となります。他にも、左心室内血流うっ滞のため、左室内に血栓が形成されやすく、また心房細動の合併も多いため、血栓・塞栓症状をきたすことがあります。

心不全症状(左心不全、あるいは両心不全の身体的所見が観察される)としては、呼吸困難、心悸亢進、易疲労性、浮腫などが高率に現れます。重症例では安静時呼吸困難、起座呼吸、皮膚蒼白、チアノーゼ、頸静脈怒張、下肢浮腫を認めます頻脈や脈拍の微弱がみられます。

N・Sさんに現れた症状は、こうした心不全によって起こったと考えられます。肺など心臓周りの臓器が圧迫され、喘息に似た症状が出てしまった考えられます。

治療法としては、拡張型心筋症の自覚症状などは心不全と不整脈に起因するものが多いので、その治療も心不全と不整脈に対するものが中心となります。

心不全治療の原則は、まず危険因子の除去と生活指導に始まります。たとえば、高血圧やメタボリック症候群などの危険因子を治療し、喫煙やアルコール摂取の制限を行います。

薬物療法としては、症状がなくても、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)またはアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)の投与、およびβ遮断薬(初期に心不全増悪例があり、注意)の投与を考慮します。浮腫などの症状があれば、利尿薬を投与することもあります。

不整脈治療としては、心房細動、心室性不整脈などの合併例で主だった治療が必要になります。前者ではジゴキシンやワーファリン、後者ではメキシチールやアンカロン使用を考えます。心室頻拍に対しては、植込み型除細動器の有効性が認められています。

こうした治療に反応せず、重症となったケースでは、外科的治療が行われます。拡大した心臓の一部を切除して心室を縮小させることにより、心機能を改善させる左室部分切除術といった方法もありますが、今のところ明らかに有効な治療法は心臓移植しかありません。

N・Sに提示された治療法は、投薬治療か心臓移植のみだったそうです。そんなある日、彼は新聞記事で「バチスタ手術」と呼ばれる治療法の存在を知りました。わらにもすがる思いで湘南鎌倉総合病院を訪れた彼は、一人の医師と出会いました。その医師とは、磯村正先生(現在、葉山ハートセンター心臓外科センター長)です。

「バチスタ手術」とは1980年代、ブラジルのバチスタ博士が考案した外科手術です。治療の第一選択となるのは心臓移植となりますが、ドナー不足が深刻な移植待ちの代替医療としてバチスタ手術が期待されました。心臓が膨れ上がり収縮力が落ちたのなら、その変質した心筋を切り取り小さくしてあげれば、心臓の収縮力は回復するはず。そんな大胆な発想から生まれた手術です。

しかし、当時はまだ全世界で200例ほどしか手術例がなく、日本ではわずか1年前に導入されたばかり。術後1年の生存率も、およそ6割と低く、極めて難易度の高い手術でした。現在でも、予後が悪いといわれており、心臓移植の代替医療にはなりえず、国際的なマイナス評価はほぼ定着してしまったように思います。

主な問題点としては、手術死亡率が高く、左室拡張障害、心不全の再発が高率であるといわれています。一部の施設では施行されていますが、適応となる症例も限られてきています。また、左室縮小手術など別の方法も試されています。

家族の後押しもあり、バチスタ手術にかけてみることを決意したN・Sさん。1998年4月27日、磯村先生による運命のバチスタ手術が始まりました。磯村先生は、心臓を通さず全身に血液を循環させることができる人工心肺装置を用い、肥大した左心室の切除を開始。心臓を動かしたまま、指先でじかに変質部分を確認しながら切除していきます。

午後3時30分。最後のヤマ場、縫合にかかります。心臓を包んでいる心膜を切り取り、この心膜を切除部分にあてがうようにして縫合。こうすることで縫合部分の強度を上げることができ、力強く甦った心臓を守ってくれる、とのこと。手術開始から3時間、バチスタ手術は無事成功。N・Sさんは半年後には仕事に復帰し、元気に働いています。

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