2007年3月、ニューヨーク州に住む15歳の少年アレックス・コーエン君は髄膜炎でこの世を去った。家族は彼の遺志を汲み、肝臓、膵臓、そして2つの腎臓をそれぞれ4人の患者に提供した。しかし1ヶ月後にもたらされた検査報告によって、アレックス君の本当の死因は髄膜炎ではなく、滅多にないタイプの悪性リンパ腫であることが判明した。

移植されていった臓器のがん細胞は患者の体内で迅速に拡散し、4人の被提供者のうち2人が悪性リンパ腫で死亡、残る2人は化学療法を受けている最中だ。このレアケースの医療事故が、いま全米を震撼させている。愛するわが子の遺志を実現したいと願っていたアレックス君の両親にとっては、青天の霹靂ともいえる衝撃だっただろう。まさに愛する息子が2度死んだのだ。

2007年2月、むかつきや嘔吐、複視などの恐ろしい症状がアレックス君を襲った。また首と背中の痛さは耐え難いほどで、彼は現地の病院に運ばれた。十数日にわたり抗生物質治療を行ったが症状は好転せず、同州ストーニー・ブルック大学の医療センターに移る。同30日、アレックス君は突然の高熱を発し亡くなった。当時医師は死因としてウィルス性髄膜炎を疑っていた。

遺児の志を継ごうと、アレックス君の両親は息子の体から損傷のない肝臓と膵臓、2つの腎臓を提供した。数時間後、アレックス君の肝臓と腎臓の一つはニューヨーク大学医療センターへ、膵臓はミネソタ大学へとそれぞれ輸送された。腎臓の残り1つはストーニー・ブルック大学医療センターに残された。最終的に肝臓は52歳の男性、膵臓は36歳の女性、2つの肝臓は46歳の男性と64歳の男性へと移植された。

だが1ヶ月後、アレックス君の本当の死因は髄膜炎ではなく、珍しいタイプの悪性リンパ腫であることが判明した。つまりがん細胞が提供した臓器にも及んでいた可能性があり、しかもそれが被提供者の体内で拡散している恐れがあるということだ。病院は直ちに4人の被提供者から臓器を再摘出するよう緊急手配を行った。

しかし全ては遅すぎた。肝臓を移植された52歳の男性は、手術116日後に悪性リンパ腫で亡くなった。膵臓を移植された36歳の女性も、手術より40日後に腎臓を再摘出したにもかかわらず、同様に悪性リンパ腫で亡くなった。腎臓を移植された46歳と64歳の男性も悪性リンパ腫を発症、現在化学療法を行っている。
(提供した臓器にがん細胞、善意が「死の贈り物」に)


悪性リンパ腫は、リンパ節や全身のリンパ組織(胸腺、脾臓、扁桃腺、リンパ管など)に存在する、リンパ球系細胞の悪性腫瘍です(腫瘍の起源や、腫瘍化の過程も単一ではありません)。

病理組織学的所見から、Hodgkin(ホジキン)病と非Hodgkinリンパ腫(NHL)とに大別されます。ホジキン病は、リード-ステルンベルグ(Reed-Sternberg)細胞の出現する特徴のあるリンパ腫です(ただ、その起源はまだ分かってません)。

Hodgkin病のリンパ節腫脹は、頸部、腋窩、鼠径部の順に多くなっています。非Hodgkinリンパ腫では、これらの表在リンパ節以外にも、眼瞼、鼻腔、扁桃、皮膚、甲状腺、乳房、睾丸、皮下軟部組織などに腫瘤をつくることがあります。

深部への侵襲は発見が遅れ、上大静脈症候群(縦隔リンパ節や胸腺の腫脹)、下腿浮腫(下大静脈の圧迫)、胸・腹水(胸・腹腔内播種)、血球減少(骨髄浸潤)、神経症状(脊髄や神経根の圧迫,髄膜浸潤,頭蓋内浸潤)などの症候をきたすことがあります。

上記のケースでは、髄膜・頭蓋内浸潤をきたし、神経症状が現れていたと思われます。本来は悪性リンパ腫により症状が現れていたのにもかかわらず、ウィルス性髄膜炎、と診断されてしまったようです。

非ホジキンリンパ腫の大多数は、Bリンパ球あるいはTリンパ球の腫瘍であることが判明しています。そこで、非ホジキンリンパ腫は、形態学的特徴(病理学的分類)、細胞系質的特徴(B細胞性、T細胞性、NK細胞性)、染色体・遺伝子情報などをもとに分類されます。また、発症してからの病気の進行速度によっても分けることができます(年単位で進行する低悪性度、月単位で進行する中悪性度、週単位で進行する高悪性度など)。

一般的に低悪性度のものには、濾胞性リンパ腫、MALTリンパ腫などが該当し、中悪性度のものにはびまん性大細胞性B細胞性リンパ腫や未分化大細胞リンパ腫など、高悪性度のものにはリンパ芽球性リンパ腫、バーキットリンパ腫などが該当します。

上記のように、「悪性リンパ腫」という病名は、さまざまなリンパ系組織の悪性腫瘍を大きくまとめて呼んでいます。それぞれ性質が異なるため、最適な治療を選択する上では、「悪性リンパ腫の中のどのようなタイプなのか」ということが非常に重要になってきます。

国内の悪性リンパ腫の年間死亡率は、人口10万人に対して約4人であり、ホジキン病と非ホジキンリンパ腫の発症比率は、約 1:10 であると言われています(小児悪性リンパ腫のなかでも、Hodgkinリンパ腫の発生頻度は約10%、非Hodgkinリンパ腫90%を占める)。

症状としては、首、腋の下、足のつけ根などのリンパ節の多い部位に無痛性のリンパ節腫脹がみられます(頸部が多いようです)。発熱、盗汗(ひどい寝汗)、体重減少がみられることがあり、この3つは病期分類でB症状と呼ばれ、重要視されています。

全身掻痒感などがみられることもあります。場合によっては、腫瘍による圧迫や浸潤による症状、部位により浮腫、嚥下障害、呼吸困難、食欲不振などがみられることもあります。

必要な治療としては、以下のようなものがあります。
標準的な治療法の選択肢としては、
1)放射線療法
3)化学療法(抗がん剤)
3)生物学的製剤:抗CD20抗体(成熟B細胞の性格を示す悪性リンパ腫に効果的)
4)経過観察
5)造血幹細胞移植:自家移植、同種移植

などがあります。標準療法としては、化学療法や放射線療法が中心です。ホジキン病の化学療法は4剤併用のABVD(アドリアマイシン,ブレオマイシン,ビンブラスチン,ダカルバジン)療法が用いられます。

未治療の小児非ホジキンリンパ腫に対する外科的手術、放射線治療、造血細胞移植はいずれも化学療法に対する優位性は証明されておらず、初発のケースでは、まず化学療法のみで治療が行われます。現在、日本小児白血病リンパ腫治療研究グループ(JPLSG)の治療プロトコールに基づいた治療が行われています。

悪性リンパ腫の組織による分類によって治療が異なり、Burkittリンパ腫・び漫性大細胞型B細胞性リンパ腫を対象とした治療法や、リンパ芽球型リンパ腫を対象とした治療法、未分化大細胞型リンパ腫を対象とした治療法などがそれぞれ決められています。

ドナーのご家族も、善意でやったことが、逆にこうした事態を引き起こしてしまったことに、非常に悲しく思っていらっしゃると思われます。臓器移植のリスクとして、感染症や腫瘍発生の問題など、しっかりと認識することが重要であると思います。

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