老眼鏡をかけても、細かい字が読みにくい。目がかすみ、まぶしい――水晶体が濁る白内障の症状だ。

水晶体は、目のレンズの役割をする器官。高齢とともに濁り、見えづらくなる。濁りは治せないため、水晶体を取り除き、代わりにアクリル素材などの人工レンズ(眼内レンズ)を入れる手術が普及している。「視力が戻り、車の運転ができる」「新聞の文字がくっきり見える」などの声の一方、「思ったほど視力が戻らなかった」との切実な訴えもある。

神奈川県の主婦(60)は5年前、近くの眼科クリニックで、右目の白内障手術を受けた。以前から、視力検査では両目に弱い乱視があったが、日常生活に不自由はなく、眼鏡は使わないでいた。ところが、手術後、右目の乱視が強くなった。眼鏡を作っても、矯正視力は右が0・7にとどまり、見づらい。「白内障手術を受けた割には、すっきりしない」と話す。

北里大眼科教授の清水公也さんは「白内障手術は、痛みもなく、非常に安全」としながら、次のような課題をあげる。

まず、この主婦のように、手術後に乱視が起きる可能性があることだ。乱視は、角膜にゆがみがあるために起こる。白内障手術で角膜を切り開く時にできる傷により、ゆがみがひどくなり、乱視が起きたり、従来あった乱視が強くなったりする恐れがある。

事前に角膜の表面を調べて、乱視が起こらないようにメスを入れる場所を決める、乱視を矯正する手術を同時に行う、といった工夫が求められる。だが、医療機関によって対応が異なり、事前に確かめたい。

眼内レンズの度数が合わない、挿入位置が悪いなどの理由で、見えづらくなることもある。そして、白内障手術の最大の課題は、ものを見る時にピントの調節ができないことだ。

遠くや近くを見る時に、水晶体は厚みを調節して焦点を合わせる働きがある。しかし、保険が適用される人工レンズは、遠くなら遠くだけ、近くなら近くだけといった具合に、1か所にだけ焦点を合わせた単焦点レンズだ。どの距離に焦点を合わせるかによって、近くが見づらい、遠くが見づらいといった事態が起きる。手術後に、「運転で遠くを見る」「手元を見る」といった用途に応じた眼鏡が必要になることが多い。

明るい視界を取り戻すには欠かせない白内障手術だが、限界があることも知っておきたい。
(限界もある白内障手術)


白内障とは、水晶体が混濁した状態の総称です。大きく分けて、生まれつき水晶体の混濁が認められる先天白内障と、生後何らかの原因で水晶体に混濁が生じた後天白内障があります。

後天白内障は、代謝異常、その他の全身疾患に伴う白内障、老人性白内障、眼疾患に伴う併発白内障、外傷性白内障、薬物・毒物による白内障、白内障嚢外摘出後に起こる後発白内障、実験白内障に分類されます。

高齢者では加齢に伴うものが多く、若年者ではアトピー性皮膚炎患者に多く、その約1〜2割が白内障を生じるといわれています。

症状は混濁の部位と程度により異なりますが、霧視(視野に霧がかかったように見える状態)、羞明(過度にまぶしい状態)、視力障害などがあります。視力障害は、白内障では一般的に徐々に進行します。全体的にまんべんなく「かすむ」症状(霧視)が特徴的です。羞明では、日当たりの強い場所や、車のヘッドライトに対し強い「まぶしさ」を感じます。

必要な検査や治療としては、以下のようなものがあります。
白内障の診断は、散瞳薬を用いて散瞳後に細隙灯顕微鏡にて水晶体を観察し混濁の有無を確かめることで行います。混濁部位により、核、皮質、前・後嚢下白内障に分類されます。

核が褐色を帯びてくる核硬化白内障では、近視化(水晶体中央部[核部]の硬化により屈折力が強まり、近視が進行すること)し、後嚢下白内障では、近見視力の低下や羞明を初期には訴えることが多いです。

手術に踏み切るかは、症例によって大きく異なりますが、目安として矯正視力がだいたい0.6くらいになると手術を考慮します。手術は局所麻酔で行うことが多く、外来もしくは短期間の入院によって行います。成人に対する一般的手術方法としては、無縫合小切開超音波乳化吸引術および眼内レンズ挿入術を行います。

具体的には、水晶体の基底膜である水晶体嚢の角膜寄りのところを円形に切除し、ここから水晶体内容物を超音波で破砕し、吸引しながら除去します。中身のなくなった水晶体嚢に、プラスチック製の眼内レンズを挿入します。

眼内レンズは、保険が適用されのは、遠くなら遠くだけ、近くなら近くだけといった具合に、1ヶ所にだけ焦点を合わせた単焦点レンズですが、遠見と近見とも一定の視力が得られる多焦点レンズも存在します。左右眼の度数を調整し、軽い近視となるように選択することが多いようです。

白内障手術には、視力が低下してしまう例や、術後も老眼・乱視が治らず眼鏡や老眼鏡が必要になることもあります。そうしたことをしっかりと認識し、手術されることが勧められます。

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