昨年2月5日夜、妻花子さんらと、テレビの企画でダンスの練習をしていた。休憩時間、ヘトヘトになって座り込み、水を飲んだ時、頭の中で、ブチッと音がした。

「頭の線、切れた」
異変に気づいたダンスの先生やスタッフが駆け寄ってくる。意識はしっかりしているのに、手、足、顔と左半身がしびれてきた。

すぐ近くに、救急外来のある病院があったことを思い出した。救急車を呼ぶより、歩いた方が早いだろう。一人では立てず、娘の肩に寄りかかり、フラフラと歩き始めた。

「助からないかもしれない。そう思うと、自然と『遺言』が出てきてね」
娘に精いっぱい大きな声で、こう伝えた。「これは誰のせいでもない。わが人生に一切悔いは無し」

夫婦で漫才コンビを結成して30年近く。機関車のように突っ走る忙しい人生だったが、ようやく停車できる駅にたどり着いた。そんな心境になったからか、「闇夜にこうこうと光る救急外来の看板が、天国の入り口に見えた」

医師に言われ、左の手足を動かそうとしたが、できない。画像診断をするまでもなく、脳出血と診断された。
(「脳出血」(1))


脳出血(脳内出血)とは、脳実質内に出血をきたした状態を指します。通常、動脈が破綻することにより生じます。

具体的には、高血圧を基盤として小動脈に血管壊死が生じ、小動脈瘤様となり、それが破綻して出血すると考えられています。高血圧性脳出血が大部分(約4〜8割は高血圧性脳出血)ですが、その他、脳内小血管異常(微小血管腫や微小動脈奇形)による特発性脳出血などがあります。

頻度としては、高血圧性脳出血の大部分は被殻出血と視床出血です。次いで、皮質下出血が多いという順番になってます。橋出血および小脳出血は、あまり多いものでなく、脳出血全体の1割前後となっています(被殻40〜60%、視床20〜30%、脳葉・小脳・橋で各々5〜10%)。

脳出血は2〜3時間で停止しますが、大量の出血が起こった場合、脳ヘルニア(頭蓋内の圧が高まり、脳がすきまに向かって押し出された状態)を起こして死亡してしまいます。5mL未満程度の出血ならば自然に吸収されますが、5〜100mLの血腫では、血腫量に応じて、意識障害、片麻痺などを示し、それに脳浮腫が加わり、頭蓋内圧が亢進し、脳ヘルニアを発生します。

診断や治療としては、以下のような流れで行います。
まず、発症時の自覚症状(日中の活動時に急性発症するのが多い)としては、突発性頭痛、めまい、神経症状として片麻痺、言語障害、瞳孔変化などがあります。また、上記のように高血圧の既往が重要なリスクファクターとなっているので、それを確認することが重要となります。

検査としては、頭部CT検査が重要となります。高吸収域(high density area)として認められる血腫の確認が、確定診断には必須となります(逆に言えば、発症後早期に行ったCTで高吸収域が存在しなければ、否定できる)。また、脳浮腫や血腫の圧排による脳の偏位も確認できます。

このように、CTで発症急性期に高吸収域を認めた場合、診断に迷うことはないでしょうが、慢性期や非定型的な出血で、腫瘍や膿瘍など他の疾患との鑑別がつかない場合には、造影CT、MRI、血管撮影(血管病変の確定診断などに有用)を行います。

治療としては、血圧は150/90mmHgを目安に、これを超えないようコントロールします(下げすぎないことも脳ヘルニアの予防には重要)。気道確保、導尿、体位交換などにより呼吸管理、感染症や褥瘡の予防も行います。脳浮腫対策としては、浸透圧利尿薬(グリセオール、D-マンニトール)、ステロイド薬の投与などを行います。

外科的手術の適応は、神経症状、血腫量を基準とするガイドラインが示されています。被殻、小脳、脳葉出血では良い適応であると言われています。水頭症による頭蓋内圧亢進例では、脳室持続ドレナージが行われることもあります。こうした治療の後は、機能改善や保持のためには、早期からのリハビリテーションが重要です。

宮川さんの場合、もともと高血圧気味であったということもあり、それが関係していたのではないか、と考えられます。現在では無事に舞台にも復帰なさっており、今後もお体に気を付けていただきたいと思います。

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