2〜3%の高率で小児期に起きる斜視。先天性の9割は外側を向く外斜視だが、今では30分ほどの日帰り手術で完治し、費用も2万円台と手軽だ。成人になってからでは見え方に後遺症が出ると一部に指摘があるが、専門医は「まったく問題ない」。患者本人には治療後の表情の変化が、何よりの満足感なのだという。

日大医学部で神経眼科学が専門の石川弘医師(60)によると、斜視は一方の目が内側を向く内斜視と、外側を向く外斜視に大きく分かれ、その比率は1対9。内斜視は上下にずれる上下斜視の合併が少なくない。

「内斜視は弱視や遠視による極端な視力差が原因の場合が多く、この場合は眼鏡で視力矯正すれば治る」内斜視の一部と外斜視は「眼球を動かす眼筋のバランスが発育異常などで崩れているのが原因」で、この場合は手術の対象になる。

正面から光を当てた際、瞳孔の中央にくるはずの反射点が、瞳孔の直径程度以上ずれていれば手術の対象。「これ以下なら見た目も目立たないので、手術の必要はない」。また、小学高学年以上なら局所麻酔での手術が可能だが、低学年以下は全身麻酔となり本人の負担も大きいので「高学年以上になってからの手術を勧めている」。

手術は、眼球につながる眼筋を、6〜10ミリの範囲で付け替えるなどする。30分ほどで終わり、当日だけ眼帯を着け、首から下なら入浴も当日から可能。1週間後に抜糸すれば、スポーツもできる。保険適用で、費用は自己負担3割でも2万円台で済む。

タレントのテリー伊藤さん(58)が手術を受けたことも話題になったが、伊藤さんの斜視はけがが原因。「けがなど後天性の斜視は、眼筋マヒなどとして区別し、手術も難しいものになる」という。

一部で「斜視を放置すると2つの目に入る映像を合致させる両眼視が発達せず、成人になって手術してもモノが二重に見える複視になる」という指摘があるが、石川さんは否定する。「両眼視は脳の後頭葉で機能する。特に外斜視は、大半が斜視側の眼も利き目として視力を使っているので、治療後も脳が順応して複視にはならない。ただ手術直後は、視線を移すと、かすかに残像が出るという人はいる」

石川さんは同大の板橋、駿河台両病院で斜視をはじめ眼瞼下垂や眼瞼内反症(逆まつげ)などの治療を担当。斜視の手術だけで約500例に上り、うち8割は成人で、この半数以上は50〜70代だ。

「わずかなずれを意識下で正常にしている斜位という症状は、近視のほぼ全員にあるが、加齢で外斜視に進行する場合がある。軽度の外斜視も加齢で重度化する」。このため「孫の“おじいちゃんの目、こわい”の一言がショックで手術を受ける人もいる」。また斜視の子供は、友達からの言葉に傷つくこともある。

斜視治療によって、「仕事で目が疲れなくなった」という会社員はもちろん多いが、「治療の効果はむしろ容貌のコンプレックス解消など精神的満足の方が大きい」。

「自分の目を人に見られるのがイヤ」と髪で目を隠し、うつむいたまま受診した30代女性は、術後は髪をアップにし、明るく顔を上げて再診に訪れた。

「年齢に関係なく、本人が斜視を負担に思ったときに手術を受ければいい」と石川さんは話している。
(「斜視」負担に思ったら…中高年でも手術で完治 日帰りで2万円台)


斜視とは、眼位の異常をきたして、両眼の視線が目標に向かわず、一眼の視線が目標とは別の方向へ向かっている状態を指します。こうした眼位の異常のほかに、両眼視機能の異常や、弱視を伴うこともあります。

種類としては、内斜視、外斜視、上斜視、下斜視、回旋斜視があります。原因によっても分類され、遠視、両眼視異常、視力障害、眼筋麻痺などがあります。起こり方によっては、恒常性、間歇性と分けられ、発症時期では先天性、後天性と分けられます。

治療の意義としては、小児では視覚の感受性期間内に、眼位の矯正とともに両眼視機能の獲得を行うこと、成人では眼精疲労や複視の改善、整容的改善といったことがあげられます。

治療の基本方針としては、屈折異常の矯正をしたうえで、斜視角の大きなものには手術療法を行います。手術以外では、プリズム療法、視能訓練があります。遠視による調節性内斜視の場合は、矯正眼鏡を使用します。麻痺性斜視の場合、手術のほかにボツリヌス治療(ボツリヌス毒素の局所注射)も行われることがあります。

手術としては、非麻痺性斜視では両眼の対称手術(内斜視では両眼の内直筋の後転、外斜視では両眼の外直筋の後転)、もしくは斜視眼の前転・後転手術を選択することが多いようです。また、麻痺性斜視では、麻痺筋の拮抗筋の減弱手術が第一選択となり、次いで麻痺筋のともむき筋の減弱を行います。

具体的な手術の方法としては、以下のように進んでいきます。
斜視の手術は、眼球の回りについている筋肉の位置を後方に動かして筋の力を弱める後転法、短くして縫いつけることによって筋肉の働きを強める前転法など幾つかあります。どちらの眼を手術するかということや、どれだけ眼球の向きを変えるかという手術量は、斜視の種類や術前の診察での斜視角の検査、両眼視機能、眼球運動の状態等によってそれぞれの患者さんに最善の結果が得られるように決定します。

術量の決めかたとしては、手術前にプリズムを用いて偏位を矯正(中和)して決定します。偏位に増減がみられる場合は、プリズムで偏位を中和します。その中和時のプリズム度数が、手術術量の基準となります。

効果に多少の個人差があり手術効果の判定には数ヶ月〜数年の観察が必要になります。斜視の種類によっては手術効果が持続しないこともあります。ですが、斜視の手術では手術前と比べ見かけ上は必ず改善されます。斜視の術後新しい角度に調整できるまでの間は以前と見え方にずれがあるため複視が生じますが、多くは次第に改善します。

手術における合併症としては眼位の低矯正、過矯正の他に虚血、結膜嚢腫、屈折異常の変化、テノン嚢脱、眼瞼位置の変化などがあります。手術操作中に筋を見失うこと(いわゆるlost muscle)が起こった場合、筋の作用方向への運動に制限がみられます。また手術における一般的な合併症として感染、穿孔、縫合糸に対するアレルギー反応などがあり、筋の操作を行う際に反射的な徐脈を生じる場合もあります。

もちろん、手術ですから合併症をともなうリスクはありますが、もしお困りのようでしたら、眼科専門医を受診して相談されてはいかがでしょうか。

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