読売新聞の医療相談室で、以下のような相談がなされていました。
検査で左頸動脈にプラークができていると診断されました。手術以外にどんな治療があるのでしょうか。治療に危険はありますか。(67歳女性)

この相談に対して、東京都済生会中央病院院長である高木誠先生は、以下のようにお答えになっています。
首の左右にある頸動脈は動脈硬化を起こしやすい血管です。動脈硬化の始まりは動脈の壁が厚くなることですが、壁の一部が内腔に向けて局所的に盛り上がった場所はプラークといわれています。壁の肥厚やプラークは動脈硬化が進んでいることを意味しますが、それ自体がすぐに脳梗塞の原因となるわけではありません。

プラークがさらに厚くなり血管内腔の50%以上を占めるほどになると、プラークの表面に血栓(血の塊)ができやすくなり、それが先に流れて脳梗塞を起こすようになります。プラークの進展を予防する上では、まず高血圧、糖尿病、高脂血症などの生活習慣病をしっかりと管理することが重要です。

また、プラークが厚くなってきたら血栓ができるのを予防するためにアスピリンなどの抗血小板薬(血栓をできにくくする薬)を内服します。

動脈硬化とは、広義では「血管壁の肥厚・硬化・再構築・機能低下を伴う動脈病変の総称」を指します。簡単に言ってしまえば、動脈が肥厚し硬化した状態であり、これによって引き起こされる様々な病態を動脈硬化症といいます。

動脈硬化の種類には粥状硬化、細動脈硬化、中膜硬化などのタイプがあります。臨床的に最も重要な粥状硬化を、狭義で「動脈硬化」と呼ぶことが多いようです。

動脈硬化の最大の危険因子は年齢であり、加齢とともに有病率は増加します。特に、45歳以上の男性、閉経後の女性は動脈硬化予備軍です。他の危険因子として、
・高コレステロール血症(>220mg/dl)
・高血圧(≧140/≧90mmHg)
・喫煙習慣
・耐糖能異常(日本糖尿病学会基準で境界型、糖尿病型)
・肥満[肥満指数(BMI)≧ 25kg/m^2]
・低HDL血症(<35mg/dl)
・運動不足

などがあります。

粥状硬化は、若い時から内膜肥厚などの初期病変が形成されます。その病変部分にマクロファージが集積、泡沫化、血管中膜平滑筋細胞の遊走と増殖、脂質の沈着などが起こり、粥状硬化病変が進行していきます。

粥状硬化の好発部位は、大動脈やそれらから分岐する動脈、冠動脈、脳底動脈、四肢の動脈など大・中型の臓器動脈です。これらの動脈では粥状硬化性病変や、それに二次的に血栓や出血を伴って、内腔の狭窄や閉塞をきたします。その結果、冠動脈に起これば狭心症や心筋梗塞、脳動脈では脳梗塞、腎動脈では腎梗塞や腎血管性高血圧症、下肢動脈では間欠性跛行や壊疽を伴う閉塞性動脈硬化症などが起こります。

上記のようなケースでは、頸動脈にできたプラークにより、脳梗塞を起こす可能性があるわけです。その治療としては、以下のようなものがあります。
一度できたプラークは小さくならないので、内科的治療だけでは脳梗塞発症の危険性が高いと判断されれば、厚くなったプラークを摘出する手術(頸動脈内膜剥離術)が行われます。

最近は手術の代わりに動脈の中に細い管を通し、それを介してステントと言われる金網状の筒を入れて血管を広げる治療(頸動脈ステント留置術)も行われるようになりました。

いずれも数%以下の頻度ですが、治療中にはがれた血栓が流れて脳梗塞を起こすことがあるので、治療法の効果と危険性について十分納得した上で治療を受けることが大切です。

動脈硬化は多くの場合無症状であり、プラークの破裂や内出血などの現象が起こると、致死的な結果を招くことになってしまいます。そのため、治療はプラークの安定化、内皮細胞の機能の保持、抗血栓に向けた内科的な管理・予防が基本となります。

高血圧、喫煙などの矯正可能な危険因子をできるだけ除き、血圧は 140/90mmHg 未満(心不全、腎機能障害、糖尿病がある場合は 130/85mmHg 未満)とし、血清LDL-コレステロール値は100 mg/dl未満、血糖正常、HbA1cは 7%未満、BMIは 21〜25kg/m2を目標とします。他にも、アスピリンなどの抗血小板薬、抗凝固薬にて血栓形成を抑制することも重要です。

ただ、一度できたプラークは小さくならないため、上記のような手術を必要とする場合もあります。精査を受けて脳梗塞を起こす可能性が高い、と判断された場合は、手術によって起こる合併症のリスクなどを勘案された上で、受けられることが望まれます。

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