以下は、最終警告!たけしの本当は怖い家庭の医学で扱われていた内容です。

今から6年前、長年働いていた経理部から営業部へと異動になったK・Yさん(53)。慣れない仕事と人間関係に戸惑い、帰宅時間も以前よりかなり遅くなったため、明らかに疲れているように見えました。

人事異動から1ヶ月後、妻のTさんが目を覚ますと、何やら寝言を言っていたK・Yさん。仕事で疲れているのだろうと、妻のTさんは特に気に留めていませんでしたが、その後もK・Yさんの異変は続いたのです。

具体的には、以下のような症状が現れました。
1)寝言を言う
まずは、ぼんやりとした何かを話すような声で寝言を言っていました。
2)隣で寝ている妻の足を蹴る
妻が寝ていると、突然、足に何かが当たるような衝撃を感じました。みると、K・Yさんが足を蹴りつけていました。翌日、そのことを確認してみると、K・Yさんは「何かを蹴っている夢をみた」と話していました。
3)大声ではっきりした寝言
以前とは異なり、はっきりとした言葉で怒鳴りつけているような寝言を話していました。夢の中でも、同様に誰かと言い争うような状態だったそうです。
4)隣で寝ている妻を殴る
妻が寝ている、横からK・Yさんが何度もパンチをしていました。起こして確認してみると、やはり何かと闘っている夢をみていました。

こうした症状を不安に思った奥さんは、あるとき新聞で同様の症状に困っている患者さんの記事が掲載されていました。そこで、K・Yさんに睡眠外来を受診するように勧めました。

受診の結果、K・Yさんに告げられた病名は以下のようなものでした。
K・Yさんの病名は、「レム睡眠行動障害」でした。
「レム睡眠行動障害」とは、レム睡眠中の夢見に続いて、その内容を行動に移そうとして殴る、蹴る、跳ねる、ベッドから飛び出すなどの粗暴な行動が起きるものです。傍らに寝ている奥さんなどが、怪我をすることもあります。つまり、夢で体験している事をそのまま言葉として発したり、行動に移してしまったりする疾患です。

レム睡眠行動障害の原因はまだはっきりとはわかっていませんが、真面目でストレスを溜めやすいタイプの人が、この病を発症しやすいと言われています。その患者の8割が50代以上の男性(50〜60歳以上の男性に多い)だと報告されています。日中は健常ですが、脳神経系疾患の既往や合併をみることもあります。

レム(REM)睡眠とは、覚醒しているかのように急速眼球運動(rapid eye movement)が起きている状態の睡眠です。その英語の頭文字REMのある睡眠という意味で、夢を見るのはほとんどこの状態のときです。この睡眠では身体にもっと大きな変化がみられ、手足はだらっとしており、顎の筋肉はゆるんでいますが、血圧、心拍数、呼吸数は不規則に変動しています。

夢を見ているレム睡眠中には、脳からの命令が遮断され、寝言も身体を動かすこともありません。通常、寝言を言ったり身体を動かしたりするのは、夢を見ていないノンレム睡眠の時だけです。

ところが、この病を発症すると、何らかの原因で脳幹部の機能が低下し、レム睡眠中にも関わらず、脳の命令がそのまま身体に伝わり、夢の中で発した言葉や行動が、実際に寝言や身体の動きとなって現れてしまう、というわけです。そのため、夢の内容と一致した寝言や行動をとるようになります。つまり、レム睡眠行動障害の鑑別では、悪夢による寝言・行動をしているかいないかが重要なポイントとなります。

治療としては、抗てんかん薬であるクロナゼパムが用いられます。0.25〜0.5mgを就眠1時間前に服用したりするようです。K・Yさんは、薬による対処療法を続けており、異常な行動を起こすことはほとんど無くなったと言います。

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