兵庫県立尼崎病院の外科チームが、手術の際の出血量が少なく、傷跡が小さいなど患者の身体的負担が軽減される胃がんの手術方法を考案した。長崎市で開かれる日本外科学会で17日に発表する。

約2年間で行った44件の施術例を解説。患者の負担軽減とともに、医師にとっても手術の難度が低くくなる効果があったという。考案したのは、同病院外科の篠原尚医長(43)らのチームで、手術方法は「トロッカー併用小開腹手術」(TMS)と名付けられた。

腹部を7cm程度切ったうえ、別の小さな穴1ヶ所から医療用の筒「トロッカー」を挿入して胃を動かしながら、開腹部から直接施術する。平成18年1月から始め、これまでに計44件施術した。

胃がん手術は、腹部を15〜20cm切って患部を摘出する「開腹式」が主流だが、出血量が多く傷跡が目立つため患者の身体的な負担が大きい。このため十数年前から5〜15mmの小さな穴5、6カ所から超音波メスなどを入れて治療する「腹腔鏡式」が増えてきた。

しかしこれもモニターを見ながら医療用器械を操作することから、医師には難度が高く、また傷跡も残るため患者の負担は軽減されなかった。トロッカー併用小開腹手術は腹を切る長さが開腹式より短く、出血量は3分の1に抑えられる。

また患部を直接見て切断できるため腹腔鏡式より難度も低く、手術時間も約1時間短いという。篠原医長は「多くの医師に紹介して、患者負担の軽減につなげたい」と話している。
(患者負担の少ない胃がん手術方法を考案 兵庫・尼崎病院)


胃癌の根治的治療としては、外科切除に加え、内視鏡的治療や腹腔鏡下手術による低侵襲の治療法が行われるようになってきました。上記のニュースによれば、これらに加えて、「トロッカー併用小開腹手術」が有効なのではないか、と示されています。外科的治療の他に、遠隔転移を有する例や他臓器への浸潤が強く切除不能の例に対しては、化学療法が行われますが、有効性はまだ不十分な状態です。

簡単にいってしまえば、
早期胃癌:内視鏡的もしくは胃局所または分節切除などを行う。
進行胃癌(根治切除可能):リンパ節廓清を含めた外科的切除を行う。
進行胃癌(根治切除不能):姑息的手術、化学療法、放射線療法などを行う。
こうした分類ができ、早期発見が有効な治療を選択するうえで最も重要であるといえると思われます。

具体的には、胃癌の治療方針は、「胃癌治療ガイドライン」などにより、腫瘍の大きさ・部位・拡がり、病期、全身状態、あるいは患者の希望など様々な要素を勘案し決定されます。

深達度がM(粘膜内)で、N0(リンパ節転移なし)、分化型、2cm以下、潰瘍形成なしであれば、内視鏡的粘膜切除術(EMR)を行います。内視鏡的粘膜切除術で切除された範囲より水平断端に癌浸潤を認める例に対しては、レーザー、マイクロ波やヒートプローブなど、ほかの熱性凝固法を追加して病変を焼灼することや、外科治療が行われます。

StageIIもしくはIIIAなら、2群リンパ節郭清を伴う胃切除術(これが標準的な手術法であり、定型手術と呼ばれます)を行います。胃の切除は、部位によって胃全摘術、幽門側胃切除術(十二指腸側2/3程度の胃切除)、噴門側胃切除術(食道側1/2程度の胃切除)などに分けられます。

切除が終わったら、食物の通り道をつなぐために消化管再建が行われます。様々な再建法があり、個々の患者の状態に応じて選択されますが、代表的なものはBillroth I法(胃-十二指腸吻合)、Billroth II法(胃-空腸吻合)、Roux en Y法(食道or胃-空腸吻合)、空腸間置法(空腸で置換)などがあります。

外科的切除を行った場合、術後の経過観察が必要となります。術後の経過観察としては、胃内視鏡検査による残胃癌の早期発見、腹部CT、腹部エコーなどによる転移・再発の早期発見、血液腫瘍マーカー(CEA、CA19-9、CA72-4)による再発の予測を行います。

StageIV(遠隔転移を伴う)なら、姑息的手術を行ったり、化学療法などを行います。

胃癌に関する症状としては、以下のようなものがあります。
胃癌は、自覚症状による胃癌の早期発見は難しいです。ほとんどの場合、早期癌の段階では無症状であり、癌が進行してからでないとはっきりとした自覚症状が出てこないことが多いからと言われています。そのため、放置されてしまったり、逆に内視鏡検査などで早期発見されるケースもあります。

症状としては、胃癌病巣からの出血による吐血、下血、貧血、低蛋白血症が比較的多いといわれています。腹痛や腹部〜胸部の不快感、吐き気や嘔吐を伴ったり、食欲減退、食事後の胃部膨満感や急激な体重減少などが起こってきます。他にも、下血や黒色便(血液中のヘモグロビンが胃酸によって酸化されて黒くなる)がみられることもあります。

胃癌の転移には、血行性転移、リンパ行性転移、腹膜播種があります。胃壁内での深達度が進むほど転移率は高くなり、血行性転移では肝や肺、さらに骨、脳、皮膚、腎などへ転移します。リンパ行性転移は所属リンパ節から始まり、遠隔リンパ節へ転移をきたしていきます。腹膜播種は、漿膜を越えて胃壁を浸潤した癌細胞が、腹膜に播種して癌性腹膜炎を起こして腹水を生じます。

肝転移すると肝腫大、黄疸などが起こってきます。腹膜に転移すると腹水、後腹膜に転移すると強い背部痛を認めます。その他、左鎖骨上窩リンパ節転移(Virchow転移)、Douglas窩への転移(Schnitzler転移)、卵巣転移(Krukenberg腫瘍)などがあります。

高度な進行胃癌となると、体重減少、食思不振、貧血、腹部腫瘤触知、嚥下困難などの所見を認めることがあります。末期では、播種性血管内凝固症候群(DIC)を合併することが多くなります。

上記の方法が有効であるならば、患者さんの負担が減り、より早期に元の生活に戻れるなどメリットがあるのではないか、と考えられます。

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