山梨大は28日、ネットワークを利用して眼科検診用の顕微鏡を遠隔操作し、診断する「眼科遠隔診療システム」の実証実験を報道陣に公開した。

同システムを使うと、山間地や離島の患者が離れた病院に行かなくても適切な初期診断が可能となり、同大医学部の柏木賢治准教授は「眼科医不足や地域間格差の解消に貢献できるのでは」と話している。

実験は山梨大の会議室で行われ、患者の目を写す高解像度カメラを付けた顕微鏡がケーブルでつながれたパソコンと、柏木准教授のパソコンを専用ネットワークで接続。柏木准教授がパソコンで顕微鏡を遠隔操作すると、患者役の目の画像が転送された。

現在はまだ試作機で、山梨大は機器の小型化やインターネット利用を目指す方針。平成21年度中には市販できるようにしたいという。
(遠隔地から眼科診断 山梨大が実証実験公開)


同様の「遠隔医療」が行われていることを、ガイアの夜明けで紹介していました。旭川医大では、国内42ヶ所、国外4ヶ所の医療機関とネットワークを結び、全国に先駆けて遠隔医療に取り組んで来たそうです。

放送では、稚内市から250Km離れた旭川医科大学病院の専門医が、テレビ画面に映る稚内に住む50代女性の眼底をみて、診断している様子が映しだされていました。糖尿病網膜症により、左目の視力は0.04、右目も0.3という状態でした。

糖尿病網膜症とは、糖尿病の3大合併症の内の一つです。長期間の糖代謝異常により、網膜血管の異常と血液性状の変化をきたし、網膜や硝子体中に病変を呈する疾患です。罹病期間が10年以上の糖尿病患者の約50%が何らかの網膜症を発症し、全糖尿病患者の少なくとも1%が失明しているといわれています。

糖尿病網膜症の分類としては、単純網膜症、増殖前網膜症、増殖網膜症に分けられます。上記の女性では、すでに増殖網膜症となっていました。

それぞれに関しては、以下のような説明ができます。
単純網膜症とは、血液網膜柵の破綻のため、出血や血漿成分の血管外漏出を引き起こしている状態です。そのため、眼底には点状、斑状の出血や毛細血管瘤が形成され、血漿成分に含まれるリポ蛋白が網膜内に沈着して硬性白斑を作ります。これらの病変は可逆的で黄斑部に血漿漏出による浮腫(黄斑浮腫が及ばない限り視力は良好のことが多いです。この時期の治療としては、血糖コントロールが基本となります。眼科的には循環改善薬や血管強化薬を処方することもあり、黄斑や網膜の浮腫がある場合にのみ網膜光凝固術を行います。

増殖前網膜症期になると、網膜血管などの細小血管の基底膜の肥厚や血液性状の異常により網膜細小血管内に血栓を形成し、網膜無血管領域となります。この時期では網膜静脈の拡張や蛇行、口径不同などの異常もみられるようになります。この時期の治療法としては、血糖コントロールに加え、網膜光凝固術が必要となる場合が多いです。

増殖網膜症期になると網膜血管床閉塞領域より放出される蛋白の中に、血管新生因子が含まれており、それにより派生した新生血管は硝子体中および網膜と後部硝子体の境界面に這うようにのびたりするようになります。新生血管は網膜の正常血管に比べて破綻しやすく、硝子体出血を起こしやすいです。この時期になると、汎網膜光凝固術を施行し、さらに硝子体出血や網膜剥離を伴う場合などは、硝子体手術の適応となります。

もちろん、手術治療に関しては旭川医大に出向いて受ける必要がありますが、患者さんにとっては診断を受けに遠出をする手間が省けたり、専門医がいないところでは非常に有用な試みではないか、と思われます。

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