人気作家の栗本薫さん(55)は昨年末に突然、膵臓がんに見舞われました。以前に乳がん手術を受けた栗本さんですが、「比べものにならないくらいに大変でした」と苦労を振り返ります。手術、入院という経験を経て、「本当に自分にとって必要なことの優先順位をつけられるようになった」と話します。
 
がんが発覚したのは昨年11月中旬。
化粧中に鏡を見ていて、目の中の白い部分が黄色いことに気づいたのがきっかけです。「もしや黄疸では」と思って、かかりつけの医者に行ったら大学病院を紹介され、そのまま入院となりました。

少し前から、体中がかゆくなる症状があり、ベッドで一晩中、体をかきむしるほどだったんですが、その時は何かのアレルギーかと思っていました。黄疸の症状にかゆみがあると知っていたら、もっと違っていたのでしょうが。

そのころは割と「不健康」な生活を送っていました。10月末に(自身が出演する音楽の)ライブがあり、リハーサルやら何やらで忙しかったんですよ。しかも、9月には母親の引っ越しもあり、手続きやなんやでストレスがたまっていた時期でした。

大学病院に行ったらカンファレンス室に呼ばれて、「膵臓に腫瘍がありますね。悪性です」と宣告されました。炎症を起こしていたら大変だったそうですが、それがなかったのが不幸中の幸い。12月に国立がんセンターに入院。20日に手術を行いました。

16年前に乳がんにかかったので、がんに対しての恐怖はそれほどなかったんです。
術後5年生存率といいますが、本人にとってみれば、ゼロか100かしかない。それより、3年前に肝臓の数値が悪くなってからは食生活は節制していたつもりだったので、「なぜなんだろう」とは思いました。

乳がんと比べて、手術とその後は大変でした。医師から「何か大きな病気をしたことがある?」と聞かれ、「昔、乳がんを」と答えましたが、「それは、今回と比べたら手術のうちに入らないよ」と言われました。

乳がんでは、若かったこともあって手術した半年後にはお酒を飲んだり、ずいぶん不摂生もしました。けれど、今回は消化器に手をつける。「1年たったら中華料理も食べていいよ」と言われましたが、そのくらい大変なんですね。

約8時間の手術が終わり、しばらくは麻酔が効いていたので、痛くはなかったのですが、のどが死ぬほど渇きました。のどがかすれて声が出ないのに、水を飲ませてもらえない。綿棒で唇を少し湿らせてくれるんだけど、飲み込んではいけないんです。これが一番きつかったですね。結局、水が飲めたのは1週間後、食事は10日後でした。

手術後は生活が一変しました。遅くても夜は8時半には寝るようになったし、食べ物も脂っこいものは気持ち悪い。もう、お酒も一生飲まないかもしれません。もっと変わったのは、物事に対する考え方ですね。いつ病気になるか分からないと思うと、今やるべきことの優先順位を考えてやるようになったかな。

以前は大事なもの、おいしいもの、好物を最後に取っておくほうでした。例えば、着物が好きでよく着るのですが、以前なら「よそ行き用」と「普段用」を分けていました。でも今は、そんなもの関係なく、着られるあいだに全部着ちゃおう、と(笑)。これまでならためらうようなこともできるようになりました。

物が捨てられるようにもなりましたね。これだけ生きていると、いろいろ物がたまってくるのに捨てられなくなる。思い出の品とかなら、なおさらです。

でも、人間はいつ死ぬか分からない。私よりも元気だった人が事故にあって死んだりする。そう思うと、「自分にとって余分なものはどんどんそぎ落としていこう」という気持ちになりましたね。
(作家・栗本薫さん、「膵臓がん」を語る(上))


膵癌は、膵臓から発生した悪性腫瘍(上皮性悪性腫瘍)です。進行が早く、きわめて予後が悪いとされています。発生率は約1,000人に1人で、60〜70歳代の高齢者に多く、増加傾向にあるといわれています。

膵臓は膵液を産生する腺房、膵液を運ぶ膵管、および内分泌腺であるランゲルハンス島などからなりますが、膵癌の約90%は膵管から発生する膵管癌(ductal cell carcinoma)で、通常「膵癌」といえば膵管癌を指します。膵臓の中でも、膵頭部癌が約2/3で多く、周囲組織へ浸潤していきます。見つかりにくく(検診などでは普通、あまり膵臓癌を疑って検査をする、ということも少ないため)、診断時にはほとんどが進行癌です。

初発症状としては無痛性の黄疸が多く、皮膚黄染とともに右上腹部に胆嚢を触知します。基本的に、黄疸は,血中のビリルビン濃度が2−3mg/dLを超える程度になると気づかれるようになります。黄疸では、黄色調の白目や皮膚と同時に褐色尿を訴え、患者さんによっては尿の色の変化を主訴に来院することもあります。栗本さんのように皮膚の痒みを訴える場合もあり、黄疸の重要な徴候の1つとなっています。

他にも、腹痛、体重減少、黄疸、耐糖能異常などがありますが、初期には無症状のことが多いため、発見が遅れやすいとされています。進行癌になると背部痛、腹痛、下痢が出現します。中でも、膵臓の障害による2年以内の糖尿病発症、急激な体重減少は有力な診断の手掛かりとなります。

上腹部痛、背部痛が続き、他の上腹部疾患が除外できた場合では、膵癌を念頭に置いて検査を進める必要があります。

必要な検査としては、以下のようなものがあります。
まず血液生化学検査では、黄疸の程度と並行して血清総ビリルビン値の上昇を認めます。閉塞性黄疸か否かは、直接ビリルビンが優位に増加しているかどうかで鑑別できます。

スクリーニングとして腹部エコーが有用であるといわれています(∞溝,ら十二指腸に消化液を送るための主膵管の直径が2.5mm以上(通常2mm以下)、∝溝,膨招3cm以下の小さな袋がある、といった特徴など)。

また、局在診断、手術適応を判定するにはCTが有用です。乏血性(血管に乏しい)の腫瘍であるため、造影CTにて低吸収域として鮮明に描出されます。CTでは、膵前面、後面への腫瘍の浸潤の程度、門脈や上腸間膜動脈への浸潤の有無、転移リンパ節の有無も判定できます。

腫瘍マーカーとしては、CA19-9があり、約80%のケースで陽性化(陽性率は60〜80%と高い)し、有用な腫瘍マーカーといわれています。特に、術前に腫瘍マーカーが高値の症例では腫瘍の切除により腫瘍マーカーは低下するので、術後に再発のモニターとして有用となります。ですが、腫瘍径が1.0cm以下の膵癌での陽性率は低く、早期診断の有用性は低いと考えられます。

他にも、内視鏡的逆行性膵胆管造影(ERCP)が行われ、膵管の狭窄や閉塞を認めます。鑑別するべき疾患としては、慢性膵炎、特に腫瘤形成性慢性膵炎が鑑別の対象となります。

確定診断としては、膵液細胞診で癌細胞が検出されます。また、各種の画像診断で腫瘤の浸潤所見が明らかとなり、特に胆管、胃十二指腸壁、脈管への浸潤所見も参考になります。

乳癌、そして膵癌の発症という大病を患いながらも執筆を続けていらっしゃり、しかも前向きに生きていらっしゃる様子に、非常に心打たれました。「自分が癌になったら…」と考えた場合、栗本先生のように果たして捉えられるのか、前を向いていられるのか、様々なことを考えさせられるインタビューでした。

【関連記事】
有名人の症例集

乳癌になった記者−医学書と闘病記