ケロイドや肥厚性瘢痕を目立たなくする治療が本格化し、あきらめていた患者の朗報になっている。近く学会も発足する予定だ。傷跡ケアへの関心は世界的な傾向で、南アフリカ産の美容オイルも輸入されている。一方で保険外のレーザー照射で高額治療費を払いながら、効果がない場合も多いという。

「ケロイド体質は黒人に多く、白人は比較的少ない。黄色人種は中間だが、研究面では日本が一番進んでいる」と話すのは、瘢痕・ケロイド治療研究会の事務局長で日本医科大病院形成外科・美容外科の医局長、赤石諭史さん(33)。

研究会は第1回国際会議が開かれた一昨年に発足。「従来の傷跡分類の見直しや、より効果的な治療法の検討などに取り組んでいる」といい、来年以降、正式な学会に発展する予定だ。

赤石さんによると、手術などの傷跡は
1)白くきれいな成熟瘢痕
2)赤く盛り上がる肥厚性瘢痕
3)肥厚部が周囲ににじみ出すように広がるケロイド

に分かれ、病的なのは2)と3)。同じ部位に両方混在する人も。ケロイドは、皮膚内側の真皮を構成し、線維質の元になるコラーゲンを分泌する線維芽細胞が増殖したものだ。

「帯状疱疹の跡やブラジャー金具で擦れた傷がケロイドになる人も意外に多い。ケロイド体質の人はわずかな傷でも悪化する」と赤石さん。体質自体は未解明だが、胸中央、腹部へそ下の下半部、肩から肩甲骨にかけての3カ所にできやすい。

治療法は効果がゆるい順に
1)線維芽細胞の活動を抑える抗アレルギー薬の内服や保湿クリームの外用など
2)ステロイドテープやシリコンジェルシートの張り付け
3)ステロイド注射やレーザー照射
4)切除と放射線(電子線)照射

の4段階ある。

「傷跡は周囲に引っ張られることで悪化するが、シリコンシートは引っ張り力を緩和する。レーザーは、線維芽細胞が分泌したコラーゲンの束を分解する酵素を、照射の刺激で分泌させるとみられる」

患者によって、これらの治療法を組み合わせる必要があるが「レーザー治療だけ行う施設があり、保険適用外なので計百数十万円払ったがよくならず、日本医科大病院を訪れる患者さんも多い」と赤石さん。同大でのレーザー照射は研究の位置付けなので、自己負担はないが患者は限定される。

かつてケロイドは、切除しても再発・悪化するため手術できないとされたが、近年は悪性腫瘍にも使われる電子線照射やステロイド注射の併用で再発防止が可能になった。日本医科大のほか、北大、東京女子医大、京大、神戸大、広島大、長崎大などでも同様の治療を行っている。

日本医科大病院では肥厚性瘢痕、ケロイドとも切除手術費用の自己負担額(3割)は、局所麻酔で日帰りだと3万円ほどだが、美容目的の場合は全額自己負担となる。

赤石さんが治療を始めた7年前、治療した患者数は年間1000人ほどだったが、近年は4000人ほどに急増し、手術は1年3カ月待ち。「治療後は患者さんの表情が明るく一変する。温泉で人の目が気にならなくなった、かゆみや痛みが取れたのが一番うれしい、といわれる」という。

問い合わせは日本医大付属病院(電)03-3822-2131
(「傷跡」手術や電子線 薄くする医療、加速)


ケロイド、肥厚性瘢痕はいずれも創傷治癒過程が正常に終了せず、瘢痕組織が過剰に増殖した結果に結節性病変を形成したものです。

それぞれの違いは、肥厚性瘢痕は「組織の過剰増殖が一時的で、皮膚損傷部の範囲内に限局するもの」であり、ケロイドは「緩徐ながらも持続的・進行性で皮膚損傷部を越えて周囲に拡大するもの」といった違いがあります。

要するに、肥厚性瘢痕は発症後数年以内に軽快して萎縮性瘢痕となりますが、これに対し瘢痕ケロイドは軽快傾向がなく、さらに真性ケロイドは受傷部位を越えて拡大して進行性に腫瘤状に隆起するようになるという違いがあります。

具体的には、肥厚性瘢痕は創傷治癒後2〜3ヶ月以内に生じ、比較的急速に増大します。周囲の健常皮膚を圧排するように増大するため、辺縁部は急峻な隆起を示し、周囲の皮膚に発赤を伴いません。

ケロイドは発症も緩慢であり、周囲の皮膚には発赤を伴うことが多いです。辺縁部はなだらかに隆起し、自発痛・側圧痛やそう痒を伴います。肥厚性瘢痕と異なり根治的治療はきわめて困難であると考えられています。再発、増悪傾向が強く、病悩期間は10年以上と長くなることが多いようです。

治療としては、以下のようなものがあります。
治療法には、上記のように
1)線維芽細胞の活動を抑える抗アレルギー薬の内服や保湿クリームの外用など
2)ステロイドテープやシリコンジェルシートの張り付け
3)ステロイド注射やレーザー照射
4)切除と放射線(電子線)照射

があります。つまり、薬物療法、圧迫療法、手術療法、放射線療法があります。

薬物療法としては副腎皮質ステロイド薬の局注が効果的ですが、病変が広範囲の場合にはステロイド薬や、時にヘパリン類似物質(ヒルドイド)の外用を行います。また、必要に応じトラニラスト(抗アレルギー薬)の内服を併用します。トラニラストは抗アレルギー薬の中で唯一適応があり、線維芽細胞のコラーゲン合成を抑制し効果を発揮し、痛みや痒みを軽減させます。

圧迫療法はスポンジ、シリコンゲルシート・クッションなどを局所にあて、サポーター、包帯、粘着テープなどで圧迫する方法です。

拘縮を伴う場合などでは、手術療法が適応になります。ですが、単なる切除術では再発するため、これを防止するための専門的な術式が必要となります。特に、真性ケロイドでは手術後の再発は必至であり、術後放射線療法を併用する必要があります。

生命や健康的には問題がないとはいえ、美容・精神面での問題が生じて悩まれている方もいらっしゃると思われます。こうした技術により、少しでも患者さんの心理的な負担が軽減されれば、と望まれます。

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