読売新聞の医療相談室で、以下のような相談がなされていました。
乳首がへこんでいて悩んでいます。手術をすると、傷跡が残るのではないかと心配です。手術後に子供が生まれた場合、授乳はできるのでしょうか。(20歳女性)

この相談に対して、東京慈恵医大病院形成外科准教授である武石明精先生は、以下のようにお答えになっています。
乳首がへこんでいる状態を「陥没乳頭」と言います。陥没乳頭は、正常の人に比べて、乳頭の中を通り母乳を運ぶ「乳管」が短いために起こります。治療の仕方は、症状の程度などによって異なります。

症状が軽い場合、陥没乳頭を治療するための吸引器で乳頭を吸い上げれば、治ります。また、出産後に、授乳で赤ちゃんに吸ってもらって、治ることもあります。

吸引しても治らない場合や、「乳腺炎」や「乳輪下膿瘍」と言って、乳輪の下に膿みがたまってしまう状態を繰り返す場合には、手術が必要です。

陥没乳頭とは、乳頭が乳輪部よりくぼんだ位置に陥没しているもので、乳頭の平滑筋組織の発育不全を伴うものを指します。生まれつき乳頭が陥没している状態で、乳腺内に発生した病変が原因で、乳頭が陥凹する乳頭陥没とは異なります(乳頭陥没の場合、原因を明らかにすることが重要で、一番多いのは硬癌によるひきつれによるものであるといわれています)。

陥没乳頭で問題となるのは、授乳の支障となったり、乳管開口部の清潔保持不十分のため、感染の原因となりうることです。ただ、大多数の例では手指により乳輪部を圧することで乳頭を突出させることが可能であるといわれています。

ただ、高度の陥没例に対してや、感染を繰り返すような場合では、乳頭形成手術を行うことがあります。手術としては、以下のようなものがあります。
乳頭を引っ張り出す手術で、これには乳管を切る方法と切らない方法とがあります。

将来、出産して授乳を希望しているのであれば、乳管を切らない方法を選択します。ただ、乳管を切る方法に比べ、再び乳頭が陥没してしまう可能性が高くなります。手術後も吸引器を使った治療を続けることで、再発する可能性が低くなります。

いずれにしても手術をすれば、乳頭や乳輪を切ることになり、傷跡は若干、残ります。ただ、乳頭部の傷跡はほとんどわかりません。乳輪部の傷跡は、乳頭に比較してやや目立ちますが、月日がたてば目立ちにくくなります。

乳腺炎など、ほかの病気を併発する前に治療するのが良いでしょう。治療や手術の方法を選ぶ時は、形成外科の診察を受け、よく相談することをお勧めします。

乳頭形成手術には、上記のように乳管を切らずに乳管周囲を剥離し、皮膚を形成することで突出を図る方法や、乳管を切離し、乳頭を突出させる方法があります。

前者は、乳頭周囲を何ヶ所かで切開し、立体的に持ち上げて縫合するものや、乳頭基部で2枚の真皮弁を交差させて乳頭基部を引き締めるように縫合する方法があります。後者では、乳頭の基部に平行な上下切開を行い、必要があれば癒着組織、乳管を切離し、切開線の端と端を引き寄せて縫合します。

一般的に、手術を受ける際には、しっかりと起こりうる合併症などを聞いておくことが重要であると思われます。また、自分の状態が手術を受ける必要があるのかなど、しっかりと把握しておくことも必要です。

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