読売新聞の医療相談室で、以下のような相談がなされていました。
「特発性間質性肺炎」と診断され、7年近くたちました。今まで特別な治療はしていませんが、最近、時々せきが出ます。最新の治療法を教えてください。(男性67歳)

この相談に対して、複十字病院院長である工藤翔二先生は、以下のようにお答えになっています。
肺は「肺胞」という小さな袋が集まってできている臓器です。「特発性間質性肺炎」は、肺胞同士のすき間や壁に傷ができるなどして炎症を起こし、呼吸が苦しくなる難病です。

特発性間質性肺炎は7種類あり、患者の半数はこのうちの肺が硬くなる「特発性肺線維症」です。種類によって、病気の性質や治療法は異なります。まず、どの種類なのかを診断してもらうことが重要です。

特発性間質性肺炎(idiopathic interstitial pneumonia; IIP)とは、原因が不明で、年余にわたって慢性の経過で進行する間質性肺炎を指します。罹患率は人口10万人に対して3〜6人でやや男性に多く、ほとんどの患者は50歳以上で、罹患率のピークは70歳代にあります。

肺胞腔、気管支腺上皮を実質と呼ぶのに対して、間質とは血管内皮細胞と基底膜に囲まれた部分を指します。ここには線維芽細胞や免疫系細胞などの間葉系細胞が存在し、結合組織に富んでいます。

特発性間質性肺炎では、肺胞壁を主な病変部位とする間質の炎症で、肺胞壁が肥厚します。これに加えて、肺胞上皮の脱落とその基底膜の断裂も生じます。

これらの組織傷害の修復過程で間質の線維化が進むと同時に、断裂した基底膜を越えて線維芽細胞が肺胞腔内に入り込み、肺胞腔の線維化、肺胞の虚脱を生じます。結果、蜂巣化や肺容積の減少など組織の再構築が起こります。

こうした組織学的な変化に伴い、症状があらわれてきます。緩徐に進行する息切れ(特に労作時)や乾いた咳を伴うことが多く、全身倦怠感やるいそうを認めることもあります。

上記のように特発性間質性肺炎(IIP)の一型である特発性肺線維症(idiopathic pulmonary fibrosis;IPF)では自覚症状に先行して胸部X線写真で線維性変化を指摘されていることが多いです。

7亜型の中で50%生存期間3〜4年とされる最も予後不良な病態です。厚生労働省特定疾患に指定される進行性の難病です。50歳以上の喫煙者に多く、乾いた咳、労作時の息切れを主症状とし、ばち指(太鼓のバチのように指先が丸く大きくなる)をしばしば認めます。

聴診では、両側背部に捻髪音を聴取します。血液検査に特異的な所見はありませんが、間質性肺炎マーカー(血清KL-6、SP-D、SP-A)が上昇します。呼吸機能検査では、拘束性換気障害と拡散能障害を呈します。

画像診断では、両側下肺野・背側・辺縁優位の分布を示す網状・輪状影が重要で、いわゆる蜂巣肺を呈します。病変部位と正常肺とが斑状に分布する特徴をもちます(高分解能CTで明らかな蜂巣肺を認める場合にはIPFの可能性が高い)。診断にはまず原因既知の疾患である膠原病肺、過敏性肺炎、サルコイドーシス、じん肺、薬剤性肺炎などを除外する必要があります。

治療としては、以下のようなものがあります。
特発性肺線維症以外は、ステロイドホルモン剤による治療が有効ですが、特発性肺線維症の進行を確実に止める薬はありません。

特発性肺線維症の治療に必要なのは、
1)傷の原因となる活性酸素への防御力を高める
2)肺が硬くなる線維化を食い止める
――ことです。現在、ステロイドホルモンやいくつかの免疫抑制薬を併用して使うのが世界の標準的な治療法になっています。ただ、骨粗しょう症になるなどの副作用も強いので、症状が軽い場合はあまりお勧めできません。

いま世界中で、特発性肺線維症に有効な薬の開発が進められています。最近、欧州で「N―アセチルシステイン」という成分を含む飲み薬に抗酸化作用があり、病気の進行を抑えることが報告されました。

現在の所、有効な治療法は確立されていません。炎症の抑制を目的として使われるステロイドや免疫抑制剤が予後や生活の質(QOL)を改善した報告はないといわれています。

症状に進行が認められない安定期の治療としては、鎮咳・去痰薬、抗菌薬を対症的に使用するほか、抗酸化作用をもつN-アセチルシステインの吸入や、線維芽細胞の増殖抑制を目的としたコルヒチンの投与も試みられています。

進行期の治療としては、炎症の度合(活動性)と進行の速さに応じて、10〜60mg/日を初期量としてプレドニゾロンを投与します。病状の改善に応じて漸減し(普通2週間に 2.5〜5mg 減量)、10mg/日程度で維持します。ステロイドが無効の症例には免疫抑制剤の併用を試みます。

また、呼吸不全への対応として適応がある場合、在宅酸素療法(HOT)を行います。さらに、この疾患は肺移植適応疾患であり、肺移植治療も考えられます。

原因不明で、治療法が確立されていない疾患ということもあり、どの治療法が勧められるということも判断が難しい状況にあると思われます。その上で、しっかりと担当医の先生と話をし、納得した治療法を行うことが重要であると思います。

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