全国ツアー中の25日未明、滞在先で不安定狭心症で倒れ、心臓の緊急治療法である「経皮的冠動脈形成術」を受けた歌手、松山千春(52)。デビュー32年目、サラリーマンで言えばまさに働き盛りだが、なぜ突然、病に襲われたのか。

関係者によると、入院先の千春は食事も取れるぐらいに回復をしているが、当分の間、絶対安静の下、治療に専念する。

千春はデビュー前、恩人のラジオディレクターに「酒、女、たばこ」のいずれかを断つように迫られて以来、酒を1滴も飲んでいないというが、自他共に認めるヘビースモーカーだ。

また、最近ではステージやラジオで「糖尿病と闘うシンガーです」と持病の糖尿を常に意識していた。東京・世田谷井上病院の理事長、井上毅一医師は「糖尿病とたばこが心臓病には最も悪いんです」と指摘する。

「今回の処置は簡単に言えば、腕や太ももの血管からカテーテルを入れて、冠動脈を広げる治療法。以前は再発もあったが、最近はかなり少ない」と説明する。処置後、広げた血管が落ち着くまでは安静にする必要があり、その後は通常と変わらぬ生活ができるという。

「だが、糖尿病の治療を怠ると再発する可能性が非常に高い」と井上医師は警告する。心臓だけではなく、脳や腎臓にも重大なダメージを与えるというのだ。「今回はたまたま心臓だったということ。脳の血管が詰まる脳梗塞になっていたかもしれない」というから恐ろしい。

「今後、食事のコントロールが極めて重要になってくる。たばこはもってのほか。コンサートの激しい運動は血圧を上げ、発汗で水分が失われると血液が粘っこくなり、発作の危険性がある。まずは、無理なスケジュールを組まないことが肝心」とアドバイスする。

千春は、すでにツアーの残り7公演の中止を発表。8月29日に大阪城ホールで親友の歌手、やしきたかじん(58)と共演するはずだったが、出演は未定だ。
(糖尿病とたばこ…松山千春蝕んだ“最も悪い組み合わせ”)


不安定狭心症とは、最近3週間以内に狭心症が増悪した場合(発作の誘因、強さ、持続時間、硝酸薬の有効性)と、新たに発症した狭心症を指します。数ヶ月以上にわたって狭心症の病態が安定している安定狭心症に対比した分類です。

不安定狭心症の多くは、粥腫の破綻あるいは亀裂により血管内腔に血栓が形成され、血流量が減少することによると考えられています。この発症機序は心筋梗塞と同じであり、血栓が閉塞性で持続すれば心筋梗塞が生じます。

このように、心筋梗塞、不安定狭心症や非Q波心筋梗塞などの急激に発症する冠動脈に由来するイベントは、冠動脈硬化の進展と粥腫の破綻と修復機転としての血栓形成によって発症する一連の病態として、「急性冠症候群」と一括りの概念として捉えられることもあります。

心筋梗塞では完成された巨大な赤色血栓が、内腔を閉塞しているのが認められるのに対し、不安定狭心症や非Q波心筋梗塞では白色の血小板血栓による不完全な閉塞が観察されます。不安定狭心症は、急性心筋梗塞への移行や突然死の可能性が高い狭心症であると考えられています。

狭心症の症状としては、一般的には胸部圧迫感・絞扼感を伴った、数分〜数十分続く前胸部痛であり、ときに左肩への放散や冷汗・悪心などを伴います。上腹部痛やのどの痛み・胸やけで発症することもあり、消化器科を受診する場合や、胸の痛みに乏しく、背中の痛みや顎の張る感じ、または左肩の凝りが主体で整形外科を受診する場合などもあります。

必要な治療としては、以下のようなものがあります。
不安定狭心症はその背景にある病態を考慮すればきわめて重篤な疾患であり、確定診断はもちろん、その疑いがある場合は即刻CCUへの入院が必要となります。入院後はまず、強力な薬物療法で症状を鎮静化させ、速やかに冠動脈造影をはじめとした冠動脈の画像診断を行います。

急性期は入院後、安静を保たせ、厳重な監視下のもと十分な薬物治療を開始します。まず虚血の軽減、血栓対策としての抗血小板薬、抗凝固薬などがあります。虚血対策としては、ニトログリセリンの舌下錠やスプレーをはじめ、硝酸薬、Ca拮抗薬や場合によってはβ遮断薬を慎重かつ十分に投与します。内服薬に加え、硝酸薬やCa拮抗薬などの静脈内投与、ヘパリンなど抗血栓薬の投与が必要になることもあります。

内科的治療に抵抗性の不安定狭心症では、PTCA(経皮経管冠状動脈形成術)や冠状動脈バイパス手術が適応になります。

PTCA(経皮的冠動脈形成術)とは、先端にバルーンのついたカテーテルを経皮的に冠状動脈狭窄病変に進め、バルーンを拡張させることで狭窄を解除する方法です。

心臓を栄養する血管である冠動脈の閉塞した箇所にカテーテルを用いて、バルーン(風船)を拡張して狭くなった冠動脈を拡げます。下肢の大腿動脈または上肢の橈骨動脈や上腕動脈からカテーテルを通していくため、直接的に胸を開いたりする必要が無く、侵襲性が低い手術です。

PTCAは約3分の1の割合で、再狭窄が数か月後に起こるのが欠点の1つとして挙げられています。そこで、ステントと呼ばれる小さなメッシュ状の金属チューブを動脈壁に留置することが行われています。これにより、再狭窄を少なくすることができると考えられます。ステントによって、再狭窄率は15%前後にまで低減することができたと言われています。

中でも、再狭窄率を大きく改善したと考えられるのが、薬物溶出性ステント(DES:Drug Eluting Stent)です。これは冠動脈ステントを構成するステンレスの金網の表面に再狭窄を予防する効果のある薬剤をコーティングしたものです。

一命を取り留めたということもあり、今後はしっかりと静養なさって、再び元気な姿でファンの方々の前に立っていただきたいと思います。

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