性転換手術で「男性」になった米オレゴン州のトーマス・ビーティーさん(34)が、米オレゴン州の病院で女の赤ちゃんを出産した。米ピープル誌が3日伝えた。

ビーティーさんは10年前に法律的に「男性」となったものの、女性器は残したままだった。ドナーからの精子提供を受けて人工授精で妊娠。

ビーティーさんは同誌に対して出産したことを確認。出産は帝王切開ではなかったことを明かし、「自分の赤ちゃんに母乳を与えることはできないが、多くの母親もそうしていない」と述べた。

赤ちゃんは6月29日に誕生。ビーティーさんと赤ちゃんの経過は良好という。
(性転換後に妊娠した「男性」が出産)


以前にもビーティーさんが妊娠したことは、報道されていました。彼が受けた性適合手術は、胸を整形し、男性ホルモンを服用するというものであったため、人工授精によって妊娠・出産できたようです。男性ホルモンの注射をやめ、その4ヶ月後、長年とまっていた月経が再び始まった、とのこと。

人工授精(artificial insemination with husband's sperm:AIH)とは、排卵日に合わせて女性の体内に精子を注入する治療です。精漿成分や病原体の除去や、運動良好精子の濃縮を行い注入することになります。

一方で、同じ不妊治療の一つである体外受精(IVFと略されます。In Vitro Fertilizationのことです)とは、不妊治療の一つで通常は体内で行われる受精を体の外で行う方法です。技術的には大きく異なり、受精し、分裂した卵(胚)を子宮内に移植することを含めて体外受精・胚移植(IVF-ET)といいます。卵子を採取し(採卵)、体外で精子と受精させ(媒精、顕微授精)、培養した胚を子宮腔に戻します(胚移植)。

人工授精の適応としては、軽症〜中等症の男性不妊、PCT異常(性交後検査 post coital test;PCT)、原因不明不妊などです。当然ですが、女性の卵管機能は正常(排卵が起こり、妊娠可能な状態であることが必要)なことが条件となります。

人工授精には、夫の精子を用いるAIHと他人の精子を使うAIDがあります。上記のケースでは(少々、一般的な夫婦などとは異なるようにも思いますが)、非配偶者間人工授精(artificial insemination with donor's semen;AID)にあたります。日本産科婦人科学会では、「非配偶者間人工授精と精子提供に関する見解」にて、以下のようなことを原則として決めています。
1)本法以外の医療行為によっては、妊娠成立の見込みがないと判断され、しかも本法によって挙児を希望するものを対象とする。
2)被実施者は法的に婚姻している夫婦で、心身ともに妊娠・分娩・育児に耐え得る状態にあるものとする。
3)実施者は医師で、被実施者である不妊夫婦双方に本法を十分に説明し。了解を得た上で同意書等を作成し、それを保管する。また本法の実施に際しては,被実施者夫婦およびその出生児のプライバシーを尊重する。
4)精子提供者は健康で、感染症がなく自己の知る限り遺伝性疾患を認めず、精液所見が正常であることを条件とする。精子提供者は、本法の提供者になることに同意して登録をし、提供の期間を一定期間内とする。
5)精子提供者のプライバシー保護のため精子提供者は匿名とするが、実施医師は精子提供者の記録を保存するものとする。
6)精子提供は営利目的で行われるべきものではなく、営利目的での精子提供の斡旋もしくは関与または類似行為をしてはならない。
7)非配偶者間人工授精を実施する施設は日本産科婦人科学会へ施設登録を行う。

…と、希望する夫婦や医療機関にとって、かなり多くの制約や手続きが必要になってきます。

ちなみに、提供者も簡単になれるものではありません。感染症、血液型、精液検査をあらかじめ行い、「感染症のないこと」「精液所見が正常であること」を確認する必要があります。また、自分の2親等以内の家族、および自分自身に遺伝性疾患のないことを提供者の条件とされています。

その上で提供者になることに同意する旨の同意書に署名、拇印を押し、提供者の登録を行います。さらに、提供者の感染症検査は、少なくとも年一回施行します。

あまりにも有名になってしまったことで、お子さんの今後が少し心配されますが、健やかに育っていって欲しいと思います。

【関連記事】
仰天ニュース系の症例集

性同一性障害の大学生−ホルモン療法と性適合手術