厚生労働省が08年3月25日に発表した産科医療機関調査によると、1月以降に分娩を休止・制限した医療機関は77か所にも上る。施設だけでなく、産婦人科医の数も減っているのも響いている。

06年12月31日時点での産婦人科医数は1万9184人。調査は2年おきに実施していて、02年2万1236人、04年2万326人と年々減っている。背景には、医師の高齢化が指摘されている。確かに年齢別の分布を見ても40歳以上が多く、中には70歳代の医師も勤務している。病院よりも診療所の方が年齢は高く、平均年齢は60.7歳だ。

高齢化に加え、産婦人科医を目指す若者自体が減っている。厚生労働省医政局の担当者は、「産婦人科では他の科に比べて治療をめぐる紛争が多く起こっている。トラブルに巻き込まれたくないと考えるのではないか」と指摘する。

もっとも多いのは、障害のある子供が生まれた場合に、家族が医師側にミスがあったと訴える、というものだ。また、母親が死亡するケースもある。福島県立大野病院で04年12月に帝王切開中に妊婦が死亡し、06年2月に担当医が逮捕勾留された。この事件は、産婦人科医に大きな衝撃を与えた。「医療関係者の間ではどうしようもなかったという見方が一般的だ。これをきっかけに、やっていられないと思った産婦人科医も多い」

厚生労働省ではこうした状況を解決しないと、産婦人科医離れが加速すると見ていて、「医療リスク」に対する支援として、産科補償制度の早期実現や診療行為による死因究明制度の構築といった施策を08年度中に整備していく。

また産婦人科医は女性の割合が高い。出産や育児による離職を防止するため、院内保育所の整備といった女性の働きやすい職場環境を整えるほか、パートタイム勤務が可能な医療機関を紹介する機関「女性医師バンク」の体制を充実させることにしている。
(半年先まで分娩予約でいっぱい 妊娠判明即病院探しに奔走)


「子供が生まれる」という明るい未来を思い描いていたところで、それとは異なる結果がもたらされてしまった場合、その絶望や怒り、悲しみはやはり大きなものとなるのではないか、と考えられます。

予想できないことが起こる分娩にもたらされた不幸な顛末、そして、それに対する絶望や怒りといった感情が向かう先を考えると、やはり他科に比べて訴訟リスクは大きいのではないか、と容易に想像できます。

その最たる事例が、福島県立大野病院で2004年に起こった、帝王切開手術中に女性(当時29歳)が死亡した医療事故です。結果、産婦人科医である加藤克彦医師が業務上過失致死と医師法違反の罪に問われてしまいました。

このケースでは、「癒着胎盤」を用手剥離した際、大量出血して女性が亡くなってしまいました。癒着胎盤とは、胎盤娩出時に胎盤の一部が、子宮壁に癒着して娩出されないものを指します。

臨床的には、胎盤癒着の軽度なものを第1群、さらに高度のものを第2群とし、用手的にも剥離できないものを第3群としています。第3群では、大量の子宮出血があり重症となります。

癒着胎盤は、既往帝王切開創部付着の前置胎盤が最も多く、子宮手術や子宮内感染既往、多産婦に多い傾向にあります。癒着胎盤は母体死亡の重要な原因の1つです。前置胎盤や既往帝切前置胎盤では、大量出血、輸血の可能性があり子宮摘出の可能性を、あらかじめ妊婦さんに説明することが必要です。

対処としては、子宮収縮薬と輸液を準備の上、用手剥離を試みます。具体的には、片側の手、前腕を腟内から子宮内に挿入し、指尖を用いて胎盤を剥離する用手剥離が通常行われます。ただ、用手剥離も困難で、大出血や子宮穿孔を伴う時は子宮全摘術を要することもあります。

胎盤鉗子で癒着胎盤を除去する方法が行われる場合、強出血を招く危険も高いです。故に、出血に対する十分な対応策を準備したうえで行い、もし止血困難なときには、直ちに子宮摘出術(Porro手術)も行えるようにする必要があります。このケースの裁判では、「大量出血で生命に危険が及ぶことを予見できたかどうか」が争点となりました。

訴訟リスクを低減するため、最近では上記のように無過失補償制度が提案されています。
無過失補償制度とは、スウェーデンやフィンランドでは既に、社会保障制度として確立しているそうです。イギリスでは重い障害が起きた事故に関して、フランスでは国立病院での医療事故を対象にこの制度が導入されているそうです。

そもそも、医事紛争の法律的解決には"過失責任の原則"が適用されます。ただ、この原則のもとでは、問題となる結果について医療機関の故意または過失が必要となります。ですが、中には医療機関に責任がなく、患者も受認を当然視できない被害もあります(たとえば、予防接種によって重大な副作用が現れた、など)。この場合にも過失責任を徹底すると、不合理な結果が生じてしまうことになります。

そこで、予防接種法11条と結核予防法21条の2では予防接種禍について、医薬品副作用被害救済基金法では制がん剤などを除く医薬品について無過失補償制度を導入しています。

一方で、こうした流れを民事訴訟でも導入しようという動きもあります。これは、実は患者さんの側にとってもメリットはあります。賠償保険は、訴訟などで医療従事者の過失が認定されるか、医療機関が示談に応じた場合しか患者側は補償を受けられませんが、医療従事者の過失が明白なケースは僅かで、残りは解決が長引く傾向があるということからも、公的な補償制度の導入は歓迎すべきものではないでしょうか。

ただ、厚労省の研究班による脳性麻痺を対象にした試算だけでも、支払額は年間約360億円にも上ると考えられています。その費用を果たして捻出できるのか、といったことも重要となります。ただ、もはや「無理を通す」といった覚悟がない限り、産婦人科医療は立ちゆかない状況にあると思われます。

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