はしかの発症予防にはワクチンの2回の接種が有効だとして、今年から始まった全国の13歳と18歳全員を対象にしたワクチンの追加接種が低迷している。12日までの厚生労働省の推定では、6月末時点の接種率が、わずか20%程度にとどまっている。

追加接種の効果を上げ、はしかの流行を抑えるには、最低でも95%に受けてもらうことが必要なため、同省は都道府県などに、未接種者を確認し接種を勧めるよう要請するとともに、対象者や保護者に「接種は無料なので夏休みにぜひ受けて」と呼び掛けている。

追加接種は、全国で休校などが相次いだ昨年の10〜20代のはしか流行を教訓に、はしかへの免疫がないか低下した若い世代への対策として4月にスタート。公費負担で受けることができ、厚労省は6月末までを、積極的に接種を求める重点期間としていた。
(はしかの追加接種わずか2割 厚労省「無料ですよ〜」)


麻疹は、昨年4月に埼玉県、東京都、千葉県、神奈川県の10代、20代を中心に流行しました。その後、全国に拡大して、高校や大学の休校が相次ぐなどパニックになったことは記憶に新しいのではないでしょうか。

この背景として、定期接種世代の時点で使用されていた、MMRワクチン(麻疹、流行性耳下腺炎、風疹の三種混合生ワクチン)の副反応の影響による接種率の低迷や、ワクチンを接種していても抗体価が低下して発症した(1度ワクチン接種を受けたが、抗体価が低下し、発症した場合など)、といったことがあると考えられます。

2006年4月からは、麻疹風疹混合生ワクチン(MRワクチン)の2回接種(第1期は生後12〜24か月の間、第2期は5歳以上7歳未満で小学校就学前の1年間)が開始されています。そのため、今後は麻疹発生数はさらなる減少に向かうと期待されますが、その実際の予防効果が出るまでには、さらに数年を要することも予想されます。

麻疹の特徴として空気感染する点があげられます。空気感染は、病原微生物を含む飛沫核(直径5μm以下)で長時間空中を浮遊し、空気の流れにより広く伝播されます。結核菌や麻疹ウイルス、水痘ウイルスなどがこの形をとります。

また、麻疹ウィルスはヒトに対する感染力が、きわめて強いといわれています。ですので、感染=発症という経過をとる例が多いと考えられています。ゆえに、「麻疹の既往がない」「予防接種を受けていない」「周囲に麻疹患者がいた」という人は、要注意なわけです。

発症すると、以下のような経過をとっていきます。
発症すると、以下のような経過をとります。
カタル期:初期症状は発熱、咳嗽、鼻汁、結膜炎などが現れます。発症後 2〜3日目にKoplik(コプリック)斑と呼ばれる、口腔頬粘膜に周囲に発赤を伴う小斑点が出現してきます。このKoplik斑の診断的価値は高いといわれています。

発疹期:発症後 3〜4日目に入ると、一度は解熱しますが、再度高熱が出現し、同時に斑状丘疹性発疹が出現してきます(二峰性の発熱が特徴的です)。発疹は耳後部、頸部から始まり、融合性をみせながら全身へと広がっていきます。

回復期:さらに2〜3日高熱が続いたのち、急速に解熱し、落屑や色素沈着を残して発疹は消退していきます。

こうした経過を経ていきます。麻疹は根本的な治療法はなく(基本的に対処療法)、また重症化の可能性がないとはいえませんが、基本的には自然治癒する疾患です。必要以上におそれることはないでしょうが、それでも予防するにこしたことはないと思われます。

一般的に、予後良好ではありますが、約10%に合併症がみられます。主なものとして細菌の二次感染による肺炎、中耳炎、下痢、脳炎などが起こりえます。また、稀ではありますが、麻疹ウイルスの持続感染による亜急性硬化性全脳炎(subacute sclerosing panencephalitis; SSPE)があります。

亜急性硬化性全脳炎は、自然麻疹罹患後のSSPE発症頻度は、6万人に1人程度とされています。麻疹罹患後おおよそ2〜10年の潜伏期間の後に知能低下、性格変化、動作緩慢などで発症し、その後は進行性に大脳機能が障害され、高度の認知症、植物状態となり死に至る可能性があります。

イノシンプラノベクス(抗ウィルス薬)とインターフェロンの併用は、症状を軽減し進行を遅らせる作用があるといわれていますが、長期的には依然予後不良な疾患です。やはり麻疹ワクチンによりしっかりと予防することが重要であると思われます。

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