読売新聞の医療相談室で、以下のような相談がなされていました。
18歳の娘が特発性血小板減少性紫斑病と言われました。ステロイド剤で血小板の数値は安定しましたが、副作用で顔がはれました。ひ臓の摘出手術を勧められています。(48歳母)

この相談に対して、東京都立駒込病院副院長である坂巻壽先生は、以下のようにお答えになっています。
特発性血小板減少性紫斑病は、出血を止める役割を持つ血小板が減ったために、体のいろいろな場所が出血しやすくなる病気です。ご相談者の娘さんのようにプレドニンというステロイド剤が投与されるのが一般的です。

しかし、ステロイド剤で効果が出ても、副作用のために治療の継続が難しい場合もまれではありません。

その場合、ひ臓の摘出手術が行われることが多いのは確かです。ひ臓は古くなった血小板などを破壊する役割があり、摘出後の早い時期に約50〜60%の患者で血小板の増加が見られます。年齢が若く、治療歴が短い場合は手術の効果は高いとされています。

一方、ひ臓は免疫機能も担うため、摘出することで感染症にかかりやすくなる恐れもあります。

特発性血小板減少性紫斑病(ITP)とは、血小板に対する自己抗体によって血小板数が減少し、出血傾向をきたす自己免疫疾患です。

血小板に対する自己抗体が産生されると、それに引き続いて抗血小板抗体を結合した血小板の細網内皮系(マクロファージ)への取り込み(貪食、破壊)により、血小板が減少することになります。

有病率は人口10万人に対して12人程度です。急性型は小児に、慢性型は20〜40歳代の女性に多いです。小児に好発する急性型は、多くの場合ウイルス感染症が先行し、発症が急激ですが、6ヶ月以内に治癒します。成人に多く発症し長期に遷延する慢性型では、約30%は通常の治療法に反応しない難治性となります。

症状としては、紫斑(皮膚点状出血および斑状出血)、歯肉出血、鼻出血、性器出血などがみられます。関節内出血や深部出血は稀です。血小板数が 5万/μl 以上あれば無症状のことが多いです。重症では口腔粘膜や歯肉の出血がみられます。

診断や治療としては、以下のように行います。
血小板減少があり、血小板減少をきたす他の疾患が除外できれば、診断が確定します。厚生労働省研究班による診断基準、治療方針が広く用いられています。診断の概略としては、
?出血症状がある。
?末梢血で血小板10万/μL以下の減少をみる(EDTAによる偽性血小板減少症を否定すること)が、白血球・赤血球が正常
?骨髄では骨髄巨核球数は正常ないし増加し、赤芽球および顆粒球の両系統は数・形態ともに異常を認めない。
?血小板減少をきたしうる基礎疾患を否定する。

といったことがあります。

さらに考慮すべき点としては、以下のようなものがあります。
若い女性の場合、特殊な膠原病の初期症状として、血小板が減少することがあります。ひ臓の摘出を決断する前に、別の原因がないか、再確認して下さい。

また、胃の中にピロリ菌がいる患者では、ピロリ菌を駆除すると、血小板が正常化することがあります。

今回のご相談の場合、ステロイド剤で血小板数が安定しているようですので、もし、ステロイド剤を徐々に減らしても、血小板数が危険なレベルまで下がらないなら、薬をやめて様子を見ることも一つの選択になるでしょう。

将来、出産などの際に、出血のため、赤血球輸血や血小板輸血などが必要になる場合もあります。

このようにに血小板減少をきたしうる基礎疾患を否定することが重要です。全身性エリテマトーデス(SLE)など自己免疫性の血小板減少を伴う疾患に罹患している場合はITPとしません。

治療としては、出血症状がないか軽度の場合には無治療経過観察(血小板数>3万)か、あるいは標準的治療が勧められます。血小板数が2万から3万でも、高血圧や高齢者、胃潰瘍などの易出血性疾患を合併しているなどの危険因子がなければ、経過観察でも良いですが、危険因子がある場合には標準的治療を開始することが勧められます。出血症状が高度の場合には血小板数に関係なく標準的治療を開始します。

副腎皮質ステロイド療法に全く反応せず、さらに出血症状のある患者には摘脾療法を行います。摘脾の施行時期に関しては、診断後6ヶ月以降とされています。手術予定日に合わせて、γグロブリン大量静注療法を施行するのが一般的だそうです。また、ITPの治療に対して、ピロリ菌の除菌療法が用いられ、60%以上の有効率が報告されています。

ステロイド内服治療では、多くの副作用が出てくる可能性があります。そのため、治療継続が難しいケースも出てくるわけです。摘脾を行うことも考えられますが、その際は、しっかりと担当医と手術に関するリスクや副作用などについて検討することが重要であると考えられます。

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