以下は、最終警告!たけしの本当は怖い家庭の医学で扱われていた内容です。

3年前に夫を亡くして以来、田舎で一人頑張ってきたK・Y(74)さんは、東京の長男一家と同居するようになってから生活が一変。買い物や家事はすべて嫁が面倒をみてくれる上、持病の関節痛もあって殆ど外出しないように。食生活では肉類などしっかり噛まなければいけないものは敬遠するようになっていました。

そんな中、ちょっとした段差でつまずいたのを機に、転んで寝たきりになるのを恐れ、ますます部屋に閉じこもりがちになったK・Yさん。その後も異変は続きました。具体的には、以下のような症状が現れてきました。
1)ちょっとした段差でつまずく
大して高い段差でもないのに足をひっかけて、つまずいてしまいました。
2)立ちくらみ
立ちくらみに襲われて、立っていられないような状態になってしまいました。
3)起き上がれない
風邪を引いてしばらくの間、ベッドの上で安静にしている状態が続きました。その結果、風邪は治ったものの、起き上がれなくなってしまいました。

こうした症状の原因は、「廃用症候群」と呼ばれるものです。

普段、我々は何気ない生活を送っているだけでも、骨や関節、靱帯、筋肉などには、絶えず重力、加重、運動などの負荷が掛かり、その機能を保っています。それが、麻痺やギプス固定により運動が行えなかったり、寝たきりで加重が掛からなかったりすると、骨には萎縮(ズデック骨萎縮といいます)や骨粗鬆化(廃用性骨粗鬆症)が、軟部には萎縮や拘縮が起こることがあります。

こうした単に筋萎縮や骨萎縮をきたすだけでなく、皮膚の萎縮や褥瘡、心拍出量の低下や起立性低血圧、沈下性肺炎や肺換気障害、静脈血栓症、食欲低下や便秘、尿路結石や尿路感染症などを引き起こす可能性がでてきます。ほかにも、精神的に抑うつや痴呆など全身症状もきたすことがあります。

K・Yさんの廃用症候群の進行は、以下のように起こりました。
K・Yさんに廃用症候群が起こった原因の一つに、「閉じこもり」がありました。「閉じこもり」とは、週に1回以下しか外出しない生活状態のことを指します。元々、膝が悪く出不精だったK・Yさんでしたが、何でもやってくれる息子夫婦の気遣いと引越しによる新たな環境が、彼女をますます「閉じこもり」にさせ、足腰の筋力を著しく弱らせてしまいました。事実、高齢者を2年間追跡調査した報告でも、閉じこもりの人の歩行障害のリスクは、そうでない人の4倍という結果が出ているそうです。

また、K・Yさんが好んで食べていた野菜の煮物などに必要な噛む力は、肉類に比べると、わずか9分の1程度です。柔らかい食べ物に偏った食生活が、あごの筋力低下を招き、さらに肉類を食べないと、タンパク質やコレステロールも不足してしまいます。体は減り続ける筋肉を補うことが出来ず、彼女は、ちょっとした段差でもつまずくようになってしまいました。

さらに、心臓の血圧調節機能が低下することで、立ちくらみが起こってきました。その上、風邪を引いてベッドの上でずっと安静にしていたことも筋力低下の原因になっています。下半身の筋肉は、ベッドなどで安静にしていると急激に低下します。その低下率は、1週間の安静で20%、2週間で40%、3週間では60%も低下するといいます。

こうして彼女は、ついに立ちあがる筋力すら失ってしまいました。廃用症候群での筋力低下の発症は、しばしば近位筋から生じます。とくに、下肢の股関節屈筋の腸腰筋、股関節伸筋の大殿筋、股関節外転筋の中殿筋に起こりやすいといわれます。つまり、廃用症候群が起こると、立ち上がったり歩くことが難しくなってしまうわけです。

日々の運動や、バランスのとれた食生活をしっかりと摂ることが、廃用症候群の予防には非常に重要となります。K・Yさんは、懸命にリハビリを重ね、何とか歩けるようになりました。今では、自ら積極的に外出し、元気な毎日を送っているそうです。

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