肝機能が低下する原因不明の難病「原発性硬化性胆管炎」(PSC)を患い、脳死肝移植を目指して渡米していた奈良市の会社員、中島大輔さん(24)が12日夕(日本時間13日朝)、多臓器不全で死亡し、支援団体「大輔君を救う会」が発表した。感染症に悩まされ、右足の切断手術も受けながら移植に望みをつないでいただけに、最期を見届けた父親の光男さん(60)からは「元気になって日本に帰ることが恩返しと思い、今日まで頑張ってきたが…」と無念のメールが届いたという。

中島さんは、高校2年で臓器移植以外に根本的な治療法がないPSCと診断された。京都大学付属病院(京都市)に通院しながら学生生活を送り、近畿大学法学部を卒業後は就職もしたが、体調悪化で今年3月から同病院に入院。PSCは、近親からの生体肝移植では再発率が高いため、米国での脳死肝移植を希望していた。渡航や手術などに約6000万円が必要とされ、友人ら約20人が5月に同会を結成。大阪や京都、奈良などで募金活動を行っていた。

その後、自力歩行が困難になるほど容体が悪化。募金が目標額に達しないまま7月3日に米フロリダ州に渡り、大学病院で移植を待っていた。

しかし、今月1日には、感染症で右ひざ上から先の切断手術を余儀なくされ、術後は集中治療室で意識不明になった。切断手術で病院に支払っていた前払い金4300万円の半額以上を費やしたため、同会が募金の目標額の引き上げを決めた直後に、現地の光男さんから訃報が入った。

光男さんは、メールを通じて「願いもむなしく、大輔は眠るように息を引き取りました。これまでのご支援、ご協力に大変感謝申し上げます」とコメント。同会メンバーの会社員、曽我部紀行さん(25)=大阪府大東市=は「切断手術後、現地からの連絡が途絶えがちになったので心配していたが、最悪の事態となった」と悔しさをにじませた。
(移植への思い届かず 米で闘病中の難病男性が死亡)


原発性硬化性胆管炎とは、肝内外の胆管の非特異的な炎症性線維化により、胆管壁の肥厚とそれに伴う内腔の狭窄や閉塞をきたす進行性の予後不良な疾患です。多くは胆汁性肝硬変から、肝不全へ進行してしまいます。

原因はいまだに不明で、以下のようなことが挙げられています。
・免疫学的要因
Sjoegren(シェーグレン)症候群や潰瘍性大腸炎との合併(合併症として、日本では比較的少ないが、潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患を認めるといわれている)、好中球細胞質抗体(P-ANCA)70%陽性など
・遺伝子学的要因
HLA-B8、HLA-DR3などとの強い相関があるといわれている。
・後天的要因
腸管からの毒素、胆汁酸代謝異常、胆管動脈虚血、ウイルス感染など

こうしたものが考えられていますが、決定的なものはありません。

主な症状としては黄疸、皮膚そう痒感、体重減少などがあります(いずれも本症に特異的な症状ではありませんが)。黄疸の程度はさまざまですが、比較的早期の症例でも軽度ながら黄疸が出現します。胆道感染が起こると悪寒、発熱、右上腹部痛などを認めます。

病変が進行すると胆管消失や胆管閉塞が出現し、最終的に慢性胆汁うっ滞、胆汁性肝硬変に至ります。進行して肝硬変へ移行すると、高度の黄疸や腹水、浮腫、食道胃静脈瘤の破裂による上部消化管出血をみることがあります。

LaRussoらの診断基準によれば、
1)血清ALPの正常値の2倍以上の上昇
2)直接胆道造影による特徴的胆管造影所見
3)肝生検組織像での線維性閉塞性胆管炎fibrous obliterative cholangitisの所見
4)単純な胆嚢摘出術以外の胆道系の手術の既往や胆道結石の既往がないこと
などが要件としてあげられます。

胆道造影像ではびまん性、多発性の狭窄、硬化像stricture、数珠状変化beaded appearance、帯状狭窄band-like stricture、憩室様変化diverticulum-like outpouchingなどが特徴的な所見となっています。また、血液検査では好酸球増多症(39%)、抗核抗体陽性(36%)が認められます。

治療方針としては、以下のようなものがあります。
原発性硬化性胆管炎に対する確立された薬物療法は現時点ではありません。

ですが、ウルソデオキシコール酸は、胆汁排泄促進作用と肝細胞および胆管細胞保護が注目されており、胆道系酵素改善作用もあることから第1選択の薬剤として使用されているようです。また、ベザフィブラートにも胆道系酵素の改善作用があるとの報告があります。

そう痒感がある場合には、抗ヒスタミン薬や難治性の場合はコレスチラミンなどを対対処的にもちいます。このほか脂溶性ビタミンの欠乏に対する補充療法、骨粗鬆症に対する治療を行います。胆管炎併発例に対しては,抗菌薬の治療を行い、抵抗する例では、内視鏡的あるいは経皮経肝的に胆道ステントを留置します。

肝不全に陥った場合は、肝移植の適応が必要となります。ただ上記のケースでは近親からの生体肝移植は行わず、アメリカでの移植を希望していたそうです。

比較的稀な難病と闘うとなると、ご本人もご家族の方も、非常に大変であったと思われます。ですが、支えてくれる人が大勢いた、ということは励みになったのではないか、と思われます。そうした人たちの思いは、決して無駄にはならなかった、と思います。

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