韓国・済州島のホテルから、日本の知り合いの医師に電話を入れた。言葉がスッと出てこない。左ほおに違和感を感じると説明した。

「脳梗塞の疑いがありますね」と言われ、近くの病院に行くと、安静を指示された。夜にディナーショーがある。病院には責任がない、との一筆を残して舞台に立った。

「脳梗塞が、どんな病気かよくわからなかったということもありますが、仕事ですから、穴は開けられません」絶唱型のヒット曲が多いが、バラード系の曲を多くしてショーを終えた。

翌日、血液をサラサラにするため、水をたっぷり飲み、飛行機で帰国、成田から東京都内の大学病院へ向かった。検査で、脳の右に血管が詰まった場所が見つかった。ラクナ梗塞といい、細い血管が詰まる。詰まった位置から、ろれつが回らず、言葉が出にくい症状が表れたとみられた。

入院中、医師に尋ねた。「しゃべりづらい、ということは、歌いづらいということですよね」「その通りです」

「歌えない西城秀樹。死んだも同然……」

17歳年下の妻は言う。「一緒に治していこうよ。できることはあるよ」。希望のこもった明るい声に救われた。
(「脳梗塞」(2)しゃべりづらい「歌えない」)


脳梗塞とは、脳動脈閉塞などによる虚血により、脳組織が不可逆的な変化(壊死)を起こした状態を指します。脳血流量が正常の30%以下になると、その部位の機能は傷害され(不完全梗塞)、10〜20%以下になると組織学的に不可逆性の変化(梗塞)が生じます。脳代謝の面からみると、代謝が50%以下になると脳神経機能が障害され、15%以下になると梗塞に陥ってしまいます。

梗塞が起こる成因は、以下のように分類されます。
.▲謄蹇璽犒貔鮴脳梗塞
動脈硬化性の病変(アテローム)が大きくなり、その部分に血栓を形成し動脈閉塞を来したり、動脈硬化性病変部分で形成された血栓やアテロームの一部が、剥離してその動脈の末梢部分を閉塞したりといったことが考えられる。ほかに、血圧低下などを起こした際に、その動脈硬化部分より遠位部の血流障害を来す場合などがある。
⊃憾鏡脳塞栓
心疾患において心腔内に形成された血栓が脳動脈に達し、脳動脈の急性の閉塞を来すものである。
ラクナ梗塞
脳深部の穿通枝動脈の閉塞によって生じるもので、一般に脳細小動脈硬化が原因と考えられている。

西城さんの場合は、ラクナ梗塞だったそうです。ラクナ梗塞のラクナ(小窩)とは、ラテン語で「小さい空洞」を意味します。

その名の通り、ラクナ梗塞は大脳深部、小脳または脳幹に生じた径1.5cm以下の小梗塞を指します。被殻、橋、視床、尾状核、内包、放線冠など脳の深部に生じる小さな(直径15mmまで)穿通枝の梗塞が起こります。ラクナ梗塞は全梗塞の30〜50%を占め、高血圧、加齢などが主な危険因子となっております。

ラクナはその2/3は無症状(いわゆる無症候性脳梗塞)といわれますが、その発生部位によってはたとえ孤発性でも明らかな症候を呈します。西城さんの場合は言葉が出にくくなり、失語がみられていたようです。

失語症とは後天的な脳損傷によって起こる言葉の選択、理解、統語の障害を指し、聞く、読む、話す、書くという言語能力が障害されます。解剖学的には、ブローカ野(左前頭葉弁蓋部:言語表出)とウェルニッケ野(左上側頭回:言語受容)、角回、弓上束、視床などが重要となり、その多くは左側の脳血管障害で生じます。

西城さんのように、何か言おうとした時に、言うべき言葉が出てこない状態を喚語困難といいます。ほかにも、主に表出が障害される型(運動失語)、理解が障害される型(感覚失語)、復唱障害が中心となる型(伝導失語)、言語機能全般が障害される型(全失語)に分けられます。

治療としては、以下のようなものがあります。
ラクナ梗塞では、補液による脱水の治療・予防が重要となり、トロンボキサンA2合成阻害薬オザグレルがよく用いられています。

他には、ほぼアテローム血栓性脳梗塞に準じ、脳梗塞を起こした部位が1〜2日するとむくみが起こるので、抗脳浮腫療法により脳浮腫の原因となる水分を取り除きます。脳梗塞になって3時間以内の場合は血栓や塞栓を溶かす薬を使って治療します。薬が効いた場合には詰まった脳動脈が再度開通し、血流が流れます。脳循環の改善薬や血栓・塞栓を予防する薬を使います。発症時にカテーテルを使い血管の血流を再開通させることも可能です。頚動脈の血栓内膜剥離術とバイパス手術により脳血流を改善させる手術も行います。

また、回復期にはリハビリが行われ、日常動作をできるだけ回復させたり、残された機能を最大限に引き上げて、家庭復帰や職場復帰をさせるために行います。

リハビリとしては、障害状況に応じ、発語訓練、聴覚的言語把持力の強化訓練、呼称訓練、文字と絵の対応訓練、復唱訓練、読解訓練、書字訓練、代償手段(ジェスチャーなど)の利用訓練などを行います。文章を写す、新聞を要約する、今日の出来事を日記にまとめるなどの作業も重要となります。

失語は、ほかの身体障害に比べ、周囲に障害状況が理解されにくいという特徴があります。しかも歌手としては、言葉がでてこないとなると続けることは難しいでしょう。

現在はすでに回復なさっているようですが、その陰には大きな苦悩があったのではないか、と思われます。

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