東京都の調理師Aさん(57)は2002年秋、咽頭の下部にできたがんの手術を受けた。声帯などを摘出したため声を失い、食道の粘膜を震わせて発声する食道発声の訓練を受けたがうまくいかなかった。05年秋、癌研有明病院(江東区)で、肺から吐き出した空気を食道に送り込んで発声する「気管食道シャント法」の手術を受けたところ、話せるようになった。

のどの奥から気管につながる喉頭や、食道につながる咽頭にがんができると、声帯を含む周辺組織の広い切除が必要になることがある。喉頭を切除すると、口や鼻から肺に至る空気の道が途切れるため、のど元に「永久気管孔」と呼ばれる穴をあけて呼吸をする。また、咽頭の下部や食道の上部を広範囲に切除すると、口から胃に至る食べ物の道が途切れてしまうため、患者の小腸の一部(空腸)などを使って咽頭や食道を再建する。

手術後、多くは食道発声の訓練を受ける。空気をのみ込み、げっぷの要領で空気を送り出して、食道の粘膜を震わせる。だが、一度にのみ込める空気の量が少ないため粘膜は震えにくく、習得できる患者は半数程度にとどまる。特に、食道を再建した患者は発声が困難な傾向がある。

そこで考案されたのが、気管食道シャント法。気管と食道をシリコン製の短いチューブ(プロボックスなど)でつなぎ、気管孔を指などでふさぐと、肺から多量の空気がチューブを通って食道に入り、粘膜が震えて発声できる。

オランダなど欧州では、以前から多く行われていた方法で、近年、チューブの安全性が高まったことから、国内で増えてきた。患者に静脈麻酔をかけ、口から内視鏡を入れて手術を行う。手術時間は約15分。5日前後の入院が必要になる。

同病院では、05年に導入した。これまで40人に実施し、37人が発声できるようになった。特に発声練習の必要はなく、通常は、手術の翌日の発声確認の段階で会話ができる。かぜで多少かすれたような声になるが、肺の空気を使うため声量は十分で、食道発声よりも聞き取りやすい声になることが多い。

同病院頭頸科医師の福島啓文さんは「主に食道を再建した患者さんに行いますが、食道を残した患者さんでは、手術前とあまり変わらない声が出ることもある。対象を広げていきたい」と話す。

ただ、この方法は日々の手入れが欠かせない。挿入したチューブは、毎日、気管孔から専用のブラシを入れて掃除する。菌の繁殖などを防ぐため、約3か月に一度はチューブ交換が必要。交換は外来ですぐにできる。

健康保険が、手術(プロボックスは3割負担で入院費含め13万円前後)やチューブ交換(同3割負担で1万2000円)にはきく。しかし、手入れ用品などに毎月1〜2万円かかる。
(多量の空気で 発声再び)


ヒトの「のど」は、咽頭と喉頭からなります。咽頭とは、鼻腔および口腔、食道および喉頭との間にある筋肉で構成された管を指します(ちなみに喉頭とは、食物の通路と呼吸のための空気の通路との交差点である咽頭の奥で、空気専用通路の始まりの部分を指します)。

咽頭は鼻に近いほうから上咽頭、中咽頭、下咽頭と下がっていき食道に続いていきます(ちなみに、喉頭は下咽頭の前面に位置してます)。上記のケースでは、下咽頭癌が発生したのではないか、と考えられます。

下咽頭癌は50歳以上の高齢者で多く、性別は男性が90%以上を占めます。原因としては、男性の方が女性より4〜5倍ほど多く、喫煙や飲酒などの刺激が大きく関係していると考えられています。

ほかの頭頸部癌でも喫煙と飲酒はリスクファクターとなるので、食道癌やほかの頭頸部癌との重複癌も高率となります。女性では、鉄欠乏性貧血を伴うプランマー-ヴィンソン症候群、また頸部への放射線治療の既往も原因となります。

下咽頭癌は、進行型が多いため、頭頸部癌の中でも治療成績が特に不良であることで有名です。初診時に50〜60%の症例は、頸部リンパ節転移を伴っているというデータもあります。

初期症状は咽頭の異物感やイガイガ感で、「食事をしている時に、食べ物がひっかかる感じ」「飲み込むときに痛い」といったものがあります(早期には特徴的な臨床症状に乏しい)。進行期では耳に放散する嚥下時痛や嚥下困難、嗄声や誤嚥、さらに頸部リンパ節腫脹を来します。頸部腫瘤が初発症状となることもあります。進行すると咽頭痛、嚥下痛、嗄声(声が掠れる)、耳放散痛、血痰、頸部腫瘤、さらに嚥下障害や呼吸困難などの症状が加わってきます。

必要な治療としては、以下のようなものがあります。
早期癌では、放射線療法が行われることが多いです。頸部にリンパ節転移が明らかでない比較的早期の場合(I、挟)や、掘↓鹸でも手術ができない場合に放射線治療を行います。特に梨状陥凹原発、外向発育型腫瘍では放射線感受性が高くなっています。治療には、60グレイ以上の線量が必要となります。

進行期では、喉頭を含む下咽頭の切除が必要になることが多いです。切除後の欠損部分には、形成外科的な再建(遊離空腸や前腕皮弁など)を行います。下咽頭癌では、放射線や抗がん剤だけで完治する数は少なく、現時点において手術が下咽頭がん治療の中心となっています。

手術法としては、下咽頭・喉頭・頸部食道切除術や下咽頭・喉頭・全食道抜去術、下咽頭部分切除術、これらに頸部郭清術(頸部のリンパ節に転移していたり、転移している可能性が高い場合に行う手術)を組み合わせたりします。手術は、下咽頭喉頭切除術、頸部郭清術、咽頭再建術の3術式から成り立っています。

化学療法としては、シスプラチンと5-FUなどの併用化学療法が一般的ですが、化学療法単独では根治が望めません。進行したリンパ節転移を伴う症例では、予後・喉頭温存の観点から化学療法併用放射線療法を行います。

手術の場合、話したり、食物を飲み込んだりできなくなります(ただ、一部のT1症例では喉頭保存が可能)。また、大きく切除するほど、機能が悪くなります。上記のように、声を失ってしまうわけです。

そこで気管食道シャント法が行われるわけです。要は、気道と食道をシリコン製チューブでつなぎ、肺からの空気を食道に送り込めるようにして、食道の粘膜を奮わせて発声する、というもののようです。以前から行われている食道発声法(空気をのみ込み、げっぷの要領で空気を送り出して、食道の粘膜を震わせる)とは異なり、訓練などが不要となるようです。

一方で、手術が必要であったり、日常的な器具の手入れが必要であったりといったデメリットもあります。ただ、発声できるメリットというのは非常に大きいと思われます。お困りの方で手術に興味をもたれた方がいらっしゃったら、気管食道シャント法の手術を行う病院
日本海総合病院耳鼻咽喉科(山形県酒田市)
癌研有明病院頭頸科(東京都江東区)
神戸大学病院耳鼻咽喉・頭頸部外科(神戸市)

にお問い合わせしていただければ、と思われます。

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