以下は、最終警告!たけしの本当は怖い家庭の医学で扱われていた内容です。

都内のメーカーに勤めるI・Yさん(45)のもとに、人事異動で年下の上司が配属。しかも、I・Yさんは、今まで付き合いのあった下請けに値下げ交渉をするという嫌な役を任されてしまいました。

そんなある日、なぜか食が進まず、胸焼けのような感覚まで覚えたI・Yさん。夏バテと思い、大して気にも留めていませんでしたが、その後も様々な異変が続きました。具体的には、以下のような症状が現れてきました。
1)食欲不振
職場でストレスを感じるようになる前は、普通に食事も摂れていました。ですが、人事異動があった後、食欲が湧かずに残してしまうことも多くなりました。最初は夏バテかと思い、とくに気にしていませんでした。
2)差し込むような胃の痛み
上司に値下げ交渉を急かされ、差し込むような胃の痛みを感じました。
3)再び胃が痛む
下請けの工場に出向き、値下げについて話そうとしたところ、再び胃が痛み出しました。胃炎でも起こしたか、と思い胃腸薬を飲んだところ軽快しました。
4)再び差し込むような胃の痛み
土曜日になり、会社が休みになると胃の痛みは治まっていました。ですが、日曜の夜になると再び胃が痛み出しました。このところの食欲不振と胃の痛みがみられることで、自分の症状について調べ出しました。「もしかしたら、胃癌なのではないか…」そう思って心配になったI・Yさんは、消化器内科を受診しました。ですが、内視鏡検査を行ったところ、胃炎や潰瘍、腫瘤などもみられず、心配ない、と言われてホッとしました。
5)みぞおちが焼けるように痛む
ある日、下請けの元を訪れたところ、「どういうことなんだ!値下げできなかったら私たちと取引を打ち切るって、本当か?」と詰め寄られてしまいました。
実は、上司がI・Yさんの代わりにコストカットについて話をしてしまったようです。上司と下請けとの板挟みに遭い、みぞおちが焼けるように痛みました。

こうしたこともあり、I・Yさんは再び消化器内科を受診しました。ところが、やはり内視鏡検査の結果では、何も異常がみられませんでした。

そこで、I・Yさんは切々と自分の症状について語りました。「検査では何もなくても、現に胃が痛んでしかたがない。そして、食欲不振もある…」こうした訴えを聞いて、医師は再び詳細な問診を行いました。その結果、医師が伝えた病名は、「機能性胃腸症」でした。

機能性胃腸症(機能性消化不良functional dyspepsia)とは、消化性潰瘍や癌、逆流性食道炎などの器質的疾患は認めませんが、胃痛、胃部不快感、吐き気などの上部消化器症状を訴えるものを指します。以前は、non-ulcer dyspepsia(NUD)とよばれていました。

簡単に言ってしまえば、胃の組織に異常がないにも関わらず、胃もたれや胃痛などの症状を引き起こす疾患といえるでしょう。この疾患は、実に日本人の4人1人が患ったことがあると考えられ、比較的多いといえます。上腹部愁訴を訴える患者さんの30〜60%を占めるといわれています。安倍前総理が体調不良で辞任する原因となった疾患でも有名でしょう。

通常、胃の痛みなどの症状がみられる場合は、潰瘍や腫瘍などの炎症や出血で起きるものと考えられます。そのため、内視鏡検査で異変が見つかります。ですが、この病は症状だけが起こり、胃には何ら異変が起きないため、内視鏡検査では発見することができません。

胃炎のような症状であるにもかかわらず、内視鏡検査などでは異常がみられない、ということで、「胃炎」と呼ぶことに違和感がある方もいらっしゃるかもしれません。実は、胃炎と一言で言っても、国内では(欧米では胃粘膜の組織学的炎症を指すことが多い)
・症候性胃炎
諸検査で器質的疾患がなく、心窩部痛、胃部不快感、吐き気などの上部消化器症状を訴える場合
・形態学的胃炎
自覚症状がなくとも胃X線検査や内視鏡検査でびらん、萎縮、過形成性などの所見を認めた場合
・組織学的胃炎
病理組織学的診断としても用いられる場合

こうしたさまざまな意味合いを含んでいることがあります。上記のように機能性胃腸症では、症候性胃炎を指していると考えられます。

なぜ胃に異変がないのに症状が起きるかといえば、考えられるひとつの原因は、ストレスです。I・Yさんの場合、新しい上司がかなりの精神的ストレスとなり、胃に負担がかかっていたと考えられます。実は胃や腸といった消化管の壁には、脳に匹敵するほどの神経細胞が張り巡らされています。そのため、消化管の壁は、「第2の脳」と呼ばれるほど神経が細やかなのです。

この消化管の神経は、脳の自律神経と直結しているため、ストレスが脳を刺激すると、その刺激が直接胃に伝わり、胃の血液の流れを悪くしてしまいます。それが原因となり、胃の運動機能が低下し、様々な症状が現れます。

ストレスなどの精神的要因の他に、機能性胃腸症の成因は多因子と考えられ、胃排出能の低下などの胃・十二指腸運動機能の異常、胃酸分泌の異常、知覚過敏、ウイルスやH. pyloriなどの感染症などが原因として考えられています。

診断基準や治療法としては、以下のようなものがあります。
欧米の機能性胃腸症の診断基準としては、Rome基準(2006年)が発表されています。この診断基準では、
項目1のうちの1つ以上と、項目2の両者を満たす。
・項目1
a. 煩わしい食後膨満感
b. 早期満腹感
c. 心窩部痛
d. 心窩部灼熱感
・項目2
上部消化管内視鏡検査にて症状を説明可能な器質的疾患がない。
以上が、半年以上前からあり、少なくとも最近3ヶ月に上記診断基準を満たす。

となっています。ただ、一般臨床の場では、症状の持続期間に関わらず、消化管を含む腹部臓器、心血管系に器質的疾患がなく上部腹部症状を訴えるものを機能性胃腸症、としているようです。

また、Rome 靴任
・食事摂取により起こるdyspepsia症状―postprandial distress syndrome(PDS)
・心窩部痛を主とする―epigastric pain syndrome(EPS)

の2型に分類しており、さらにげっぷを主症状とする型(belching disorders)、悪心と嘔吐を主症状とする型(nausea and vomiting disorders)、さらに成人におけるrumination syndromeを独立させています。

上記のケースでは、最初は食欲低下が問題となっていましたが、最終的には心窩部痛を主としています。

治療としては、機能性胃腸症の中では消化器の運動不全が起こっているものが最も多く、ほかの病型でも背景に上部消化管の機能異常を伴うものが多いことを考えると、消化管機能調節薬をまず使用するのが適切と考えられます。

具体的には、運動機能調節薬としてはモサプリド、イトプリド、六君子湯(りっくんしとう)などがあります。投与期間については、2週間を目安とし、治療効果が得られない場合はほかの作用機序の薬剤との併用か、変更を考えます。

上記のケースでは、六君子湯が用いられていました。これは、8種類の生薬で出来た漢方薬で、元々は食欲不振や胃炎の治療などに使われていたものです。この薬が非常に効果があることが明らかになってきています。

胃もたれ、食後の腹満感や不快感、吐き気、嘔吐などの症状を訴えるもので、胃・十二指腸の運動機能の異常が原因と考えられるものにはこうした治療薬が有効であると考えられます。

機能性胃腸症は、比較的新しい病のため認知度が低く、何より検査で異常が見られないことから、ドクターショッピングを繰り返したり、精神的な病に陥ってしまったりする可能性もあるそうです。同様の症状がみられた方は、機能性胃腸症を疑ってみる必要があるのかもしれませんね。

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