メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の診断基準が国際的に統一され、腹囲が診断の必須条件から外れることが分かった。年内にも暫定基準が公表され、今後、世界のメタボ診断や治療・研究は、統一基準に基づいて行われる。一方、日本が今年度から始めた特定健診・保健指導(メタボ健診)では、腹囲測定が必須でシンボル的存在。今回の統一は、国際的に日本の特異さを際立たせることになる。

世界には複数のメタボ診断基準があり、混乱が生じている。このため、約150カ国の専門家が参加する国際糖尿病連合(IDF)と、米国コレステロール教育プログラム(NCEP)が中心となって、診断基準の統一を呼び掛け、今年2月から協議を進めた。

IDF基準は、腹囲が基準値以上で、中性脂肪など血液検査の結果の4項目のうち2項目に異常があればメタボと診断する。腹囲は人種別に定めている。一方、NCEPと米心臓協会・米国心肺血液研究所は、腹囲など5項目のうち3項目に異常があればメタボとする。腹囲は必須条件ではなく、基準値は1種類しかない。日本はIDFと同じ考え方に基づく。

統一基準はNCEPを基本とし、腹囲は必須条件から外れるが、人種別に定める。NCEP基準は肥満でなくても他の項目に異常があればメタボと診断される。日本では、肥満ではない生活習慣病患者も多く、腹囲を必須にした場合、「見落とし」を懸念する声が出ていた。

米国心肺血液研究所のジェームズ・クリーマン博士によると、同研究所などが今後、暫定基準に合致する人とそうでない人を対象に、心血管疾患発症や死亡率の違いを分析し、診断基準としての科学的妥当性を検討する。

日本基準の腹囲については、これまでも科学的根拠に疑問が出されている。基準策定で中心になった日本肥満学会理事長で松澤佑次・住友病院長は「日本の基準は、内臓脂肪がメタボの原因にあるとの考え方から、腹囲によって対象者をNCEPよりも絞り込んでいる。効率的な対策を実施するという意味では日本基準は正しく、変える必要はない」と話している。
(腹囲が必須条件から外れる 診断基準を国際統一)


今回、統一的な基準となった米国コレステロール教育プログラム(NCEP)による診断基準は、以下のようなものです。
次の内、少なくとも3項目を含む。
・中心性肥満(腹囲が男性で102cm以上、女性で88cm以上)
・脂質異常症:中性脂肪(TG)≧150 mg/dl(1.695 mmol/L)
・脂質異常症:HDL-Cが男性で40 mg/dL (male)、女性で50 mg/dLを下回る。
・血圧≧ 130/85 mmHg
・空腹時血糖≧110 mg/dl(6.1 mmol/L)

こうした基準であり、「腹囲が何cm以上」といった項目は必須項目ではありません。中心性肥満、脂質異常症、高血圧、高血糖といった項目のうち、3項目含まれればメタボリックシンドローム、と診断されるようです。

一方、国内の診断基準である日本肥満学会(JASSO)基準では、
・内臓肥満(臍の高さで測定したウェスト周囲径が男≧85cm、女性≧90cmであり、可能ならばCTで測定した内臓脂肪面積≧100cm2を確認)がある。
・なおかつ、以下の3項目のうち2つ以上を合併する者
々盪薹貍鼻鵡皀肇螢哀螢札螢鼻TG)血症:TG≧150mg/dLあるいは低HDL-コレステロール血症:HDL-コレステロール<40mg/dL〕
血圧高値(収縮期血圧≧130mmHgあるいは拡張期血圧≧85mmHg)
6腹時高血糖(空腹時血糖値≧110mg/dL)

こうしたものになっています。この基準の特徴としては、腹囲が「ウェスト周囲径が男≧85cm、女性≧90cm」というのは必須項目となっており、さらに脂質異常症、高血圧、高血糖のうち2項目を満たす、といったことが特徴として考えられます。

実は、基準の一つである腹囲が、女性で90cm以上なのに対し、男性は85cm以上と、諸外国に比べても厳しく、検討が促されています。国際的にみても、男性の方が厳しい基準となっているのは日本だけです。

実際には、項目の一つである「内臓脂肪型肥満」は、臍レベル腹部断面での内臓脂肪面積100cm²以上としています。ただ、内臓脂肪面積を直接測定する事は健康診断や日常臨床の場では容易ではないため、腹囲の測定により代用し、男性85cm以上、女性90cm以上を内臓脂肪型肥満と診断しています。

すなわち、できれば腹部CT撮影等により内臓脂肪面積を精密に測定することが好ましいのですが、毎回CTを撮るわけにもいかないので腹囲で代用している、というわけです。

ただ、こうした診断基準の根拠が、曖昧かつ不完全であるといった批判もあります。 さらにいえば、メタボリックシンドロームを診断する医学的価値が不明確である、といった指摘もあります。

現在の所、腹囲の科学的な測定方法も腹部肥満を診断するための腹囲の科学的な基準値も確立していない、という状況です。現時点では、腹囲を測定することはあまり有用ではなく、科学的な腹囲の測定方法と基準値を確立するための研究が必要であると考えられます。将来的には、腹囲基準値は人種、性別、年齢、BMI…といったことを考慮する複雑なものとなる可能性もあります。

そもそも、メタボリックシンドロームの概念が提唱され始めた背景としては、以下のようなことが考えられます。
糖尿病・高脂血症・高血圧・肥満などは、1人の患者に合併しやすく、肥満あるいはインスリン抵抗性をベースにしていると考えられてきました。これら生活習慣病の合併は、Syndrome X、死の四重奏、インスリン抵抗性症候群、内臓脂肪症候群あるいはマルチプルリスク症候群…とさまざまな呼び名で言われてきました。

実はこうした合併症に大きく関与しているのは、脂肪組織がTNFαやレプチンやアディポネクチンなどの種々のホルモンやサイトカインを産生・分泌し、糖・脂質代謝や血圧の調節に重要な役割をはたしているからであると考えられています。そして、中でも脂肪組織のうち、皮下脂肪よりも内臓脂肪が重要な役割をはたしていると考えられています。

こうした内臓脂肪型の肥満をベースにした糖・脂質代謝異常や高血圧の合併は、動脈硬化をより促進し、脳卒中や心筋梗塞などの心血管系疾患を惹起する危険性が、そうでない人よりも高める、だからメタボリックシンドロームは気を付ける必要がある(場合によっては治療する必要がある)、という流れのようです。

まずは生活習慣の改善が必要となり、食事や運動療法による減量を行います。その結果、内臓脂肪が減り、血糖やTG濃度が低下し、血圧も低下すると期待されるわけです。

腹囲を「必須である基準」とするかどうか、そしてその基準値の根拠をはっきりさせることなど、まだまだメタボリックシンドロームの診断基準には検討が必要に思われます。特定保健指導の旗幟ともなってしまっているだけに、その論拠というのはしっかりとしたものである必要があるのではないでしょうか。

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