以下は、ザ!世界仰天ニュースで扱われていた内容です。

2007年10月。イギリスのオーディション番組の会場。参加者のほとんどが若い女性という中にただ1人、46歳のジャッキー・グレイがいた。しかも母親の付添つきで。子供の頃から歌うことが好きで、今までたくさんのオーディションに応募していたが、熱意とは裏腹に落ちてばかり。最近では書類審査すら受からなくなっていた。

しかし、歌手になる夢を諦められず、ようやく46歳にして一次審査を突破し、チャンスが巡ってきたのだった。「これほどのビッグチャンスはもう二度とないかもしれない…絶対に合格してみせる!」と、舞台に向かうジャッキーだったが…。彼女が歌い始めると、こともあろうか審査員たちは失笑…そして、「君の声はとても耳障りだよ。のどの奥に化け物でもいるんじゃないか?」「あなたきっと病気よ!自覚してる?」 …あまりにもひどい毒舌コメントの数々。結果は当然のように不合格。

深く傷ついたジャッキー。あのコメントが忘れられない…。「あなたきっと病気よ!!」こみ上げる怒り…。

翌日、ジャッキーは本当に病院にいた。「病気じゃなかったら許さないからっ!!」そして検査を受けると、なんとジャッキーは「気管支拡張症」であった。彼女は、審査員の毒舌のおかげで、疾患をみつけることができた。


気管支拡張症とは、多様な原因によって引き起こされる気管支の不可逆的拡張を意味する病態名です。気管支が恒常的に拡張するため、慢性の気道病態をきたすことになります。

原因により大きく分けて、稀ですが先天的に線毛系の異常に起因し副鼻腔炎を伴うもの(多くはwet caseであり、胎生期の肺の発生異常が、その後の気管支に拡張性変化を与えると考えられている)と、幼少時の肺炎など後天的要因に関連し限局病変であるもの(しばしばdry case)に分類することができます。多くは乳幼児期から小児期にかけての気管支・肺の感染の既往があったり、あるいは成人になってから罹患した慢性肺疾患に続発して発症します。

医療環境の充実により、発生率・死亡率ともに減ってきてはいますが(とくに後天性気管支拡張症の中で、乳児期の気管支炎・肺炎によるものは、医療状況の改善と抗生物質の普及により減少している)、現在でも喀血を生じる原因疾患の1つとして重要となっています。

症状としては、咳嗽、喀痰が最も多いです。いわゆる湿性型(wet type)では、常に膿性痰がみられ、慢性副鼻腔炎を合併することが多いです。感染の増悪時にはこれらの症状はさらに増強し、呼吸困難を呈することもあります。

乾性型(dry type)では、通常は膿性痰はなく、慢性副鼻腔炎の合併も少ないです。感染増悪時に血痰、喀血を主訴とすることが多いです。

診断としては、臨床症状と胸部X線・CT検査など画像による気管支拡張の有無による臨床的診断を行います。上記のような臨床症状に加え、胸部X線検査では、ある程度進行した症例ではトラムライン(tram line)や輪状陰影がみられ、これらの所見は気道壁の肥厚を示唆します。

CT検査、特に高分解能CT(high resolution-CT; HR-CT)は、診断に非常に有用です。拡張気管支の形態やスライス方向によってさまざまな所見を呈します。他疾患との合併の有無を検索する意味でも有用です。

血液検査では、感染増悪時に末梢血白血球数増加、赤沈亢進、CRP上昇がみられます。慢性副鼻腔炎を合併する例では、寒冷凝集素やIgA上昇がみられることがあります。また、喀痰検査も重要であり、細菌培養と薬物耐性検査は抗生物質の選択に欠かせません。肺炎球菌やインフルエンザ菌が多いですが、進行例では緑膿菌が多いです。結核菌や非定型抗酸菌(AM)も念頭におく必要があります。

治療としては、以下のようなものがあります。
感染増悪時には、適切な抗生物質の投与が必要になります。まず、喀痰検査により起炎菌を検索し、抗生物質を選択します(安易な投与、無計画な投与は耐性菌を出現させてしまう)。症例によっては、びまん性汎細気管支炎(DPB)に準じて、マクロライド長期投与が試みられています。

喀血へが起こった場合、気道確保のため、出血気管支の左右がわかればそちらを下にした安静体位をとらせます。気管支鏡で出血部位を確認し、止血薬を投与することになります。大量喀血がみられる場合、気管支動脈系からの出血であることが多いため、気管支動脈造影により気管支動脈塞栓術(BAE)が考慮されます。限局性気管支拡張症で、喀血を繰り返す例や進行する例や、BAEによっても止血が得られない例では、肺切除術も考慮されます。

一般に長期予後は悪くないとはいわれていますが、喀血を繰り返す例や、マクロライド長期投与無効例では必ずしも良好ではないといわれています。気道感染の予防対策として、うがいや手洗いの励行、インフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンの接種が勧められます。

声質の問題が、果たして気管支拡張症によるものかどうかは不明ですが、何はともあれ疾患がみつかったというのは怪我の功名、といった感じでしょうか。

【関連記事】
仰天ニュース系の症例集

アレルギー性接触皮膚炎−痒みや発疹に耐える女性のワケ