以下は、ザ!世界仰天ニュースで扱われていた内容です。

1992年、東京に住む新婚の神倉さん夫婦は早く子供が欲しかったが、奥さんの好恵さんは排卵が起きにくく、不妊治療を行っていた。その結果、結婚4年目の1996年1月、待望の懐妊。しかし、好恵さんのお腹の中で赤ちゃんがなかなか育たない。原因が分からないまま、妊娠29週目に死産してしまう。しかしその半年後、幸いにも好恵さんは自然妊娠した。

ところが、妊娠32週目で赤ちゃんの血流が悪いことが判明。前回のこともあり、医師は帝王切開を決意。一週間後、好恵さんは1,700gの少し小さい男の子、拓馬くんを出産した。それからしばらくして夫婦は北海道札幌市に引っ越しした。拓馬君もすくすくと育ち、この頃から好恵さんの中で「もう一人子供が欲しい…」という思いが強くなっていた。

そこで好恵さんは、再び不妊治療を開始。そして不妊治療を始めて3年目で、ついに待望の新しい命が好恵さんのお腹に宿った。それは家族にとっても待ちに待った瞬間だった。しかしここから神倉家の壮絶な物語が始まった。迎えた妊娠21週目の定期健診で、好恵さんの体にある異変が発見された。尿にたんぱくが混じるのだ。

好恵さんは、「妊娠高血圧症候群」だった。妊娠高血圧症候群では、症状が悪化すると胎盤の血管が縮まり、赤ちゃんに十分な酸素と栄養が送れなくなり、赤ちゃんが大きくなりづらくなる。しかもこの病気は妊娠を終了する以外に根本的な治療方法がなく、妊婦にとって気をつけなければならない病気だった。

しかし妊娠24週目の検診で、遂に好恵さんは入院という事態に。その後にさらなる悲劇が好恵さんに襲いかかる。夜になって好恵さんの容態が急変した。ついに腹痛を起こし、我慢は限界に達した。

血液を調べた結果、好恵さんは「HELLP症候群」という、妊娠高血圧症候群の中でも重症度の高い病状になっていた。この状態になると妊娠を止めなければ好恵さんの命が危ない。医師は緊急手術を決断。その結果誕生したのは、390gの超未熟児の赤ちゃんだった。赤ちゃんは、女の子であり「雪乃ちゃん」と名付けられた。

呼吸機能がまだ発達段階にあり、さらには皮膚も薄く体温調節も難しい状態だった。体の水分が蒸発して失われやすいため、ラップで包まなくてはならなかった。こうした状態がしばらく続いた。

また、胎便(胎児や出生後まもない新生児から排泄される便)が出ないことも問題だった。このままでは胎便が固くなり、腸閉塞、そして消化管損傷(穿孔)の問題も起こってくる。そこで、医師たちは造影剤を経直腸的に注入して胎便の排出を試みたが、出てこなかった。だが、その2日後、胎便は排出された。好恵さんも、ほっとした。

その後、雪乃ちゃんはすくすくと育った。現在、彼女は7歳。それまで大きな病気をしないで育ってきたという。


妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)とは、「妊娠20週以降、分娩後12週までに高血圧がみられる(血圧が140/90mmHg以上)場合、または高血圧に蛋白尿(蛋白尿が300mg/日以上)を伴う場合のいずれかで、かつこれらの症状が偶発合併症によらないもの」と定義されています。

原因はいまだ不明ですが、絨毛の脱落膜への浸潤不全(胎盤形成不全)という概念が一般的となりつつあります。結果、子宮胎盤循環不全および母体循環不全に陥ると考えられています。

妊娠32週未満に発症するものを早発型、32週以後に発症するものを遅発型と分けられています。また、軽症および重症に分けられ、以下のような分け方ができます。
軽症
?血圧;収縮期血圧140mmHg以上で160mmHg未満、拡張期血圧90mmHg以上で110mmHg未満のいずれかに該当する場合
?蛋白尿;原則として24時間尿を用いた定量法で判定し、300mg/日以上で2g/日未満の場合

重症
?血圧;収縮期血圧160mmHg以上の場合、拡張期血圧110mmHg以上のいずれかに該当する場合。
?蛋自尿;24時間尿を用いた定量法で2g/日以上の場合。随時尿を用いる場合は、複数回の新鮮尿検査3+(300mg/日)以上の場合

頻度は全妊婦の4〜8%であり、重症は全妊婦の1〜2%程度となっています。重症の場合、母体死亡および周産期死亡の主要原因の1つであり、重要な疾患と考えられます。

リスク因子としては、高血圧素因、高齢妊娠、肥満、多胎、内科合併症(本態性高血圧、慢性腎炎、糖尿病、自己免疫疾患、甲状腺機能亢進症など)が挙げられています。

予後は,重症化して高血圧脳症、子癇、HELLP症候群〔溶血(hemolysis)、肝酵素の上昇(elevated liver enzyme)、血小板減少(low platelet count)を伴うもの〕、肺水腫、常位胎盤早期剥離、DIC、急性腎不全などを合併し,母体の生命が危険にさらされることもあります。

HELLP症候群とは、以下のようなものを指します。
HELLP症候群とは、溶血(hemolysis)、肝酵素の上昇(elevated liver enzymes)、血小板減少(low platelet count)の頭文字をとって名付けられました。以前は妊娠高血圧症候群に合併する疾患と定義されていましたが、妊娠中毒症がなくても発症することもあります(ただ、妊娠高血圧症候群や子癇と、深い関連があると考えられます)。

初発症状としては、心窩部痛、悪心、嘔吐などの消化器症状や、倦怠感などがあります。これらの症状は、肝動脈・腹腔動脈の攣縮による上部消化管の血流障害によって起こると推定されています。血液検査では、上記のように溶血、肝酵素上昇、血小板減少を認めます。

こうした前駆症状を見逃して、発見が遅れるとDIC(播種性血管内凝固症候群のことであり、種々の基礎疾患により血液凝固能が亢進し、全身の細小血管に血栓が多発し、臓器の虚血性機能障害をきたすとともに、血小板や凝固因子が消費されて減少し、出血傾向をきたす症候群)に進行し、母児ともにの予後不良となってしまいます。

HELLP症候群に対しては、抗凝固療法、抗DIC療法を行いつつ、できるだけ速やかな遂娩を行います。多くは帝王切開となります。

上記のケースでも、帝王切開が行われ無事に女の子が産まれました。妊娠24週と早い出産、しかも母胎が妊娠高血圧症候群という状態にあったにも関わらず、すくすくと育ってくれたようです。今後も、元気に過ごしていって欲しいと願われます。

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