いすに腰かけ、足元に布をかけた小さな台を置く。両足が義足で、座布団に正座ができないためだ。

「これ、落語用の台です。名づけてラクダイ」
町の若い衆たちが床屋の2階でトンチンカンなやり取りをする「浮世床」など、軽快で洒脱な噺が始まる。

24歳の時、右足が腫れ、痛みで夜も眠れなかった。難病のビュルガー病(閉塞性血栓血管炎)と診断された。手足の血管が詰まって激しく痛み、組織が壊死することもある。原因不明で、患者は全国で約1万人とされる。足の血管を収縮させる働きを持つ腹部の交感神経を切除する手術を受けた。血管を開いた状態にして血流を良くし、症状を和らげるためだ。

27歳の時、アルバイトをしていた東京都内の日本料理店のなじみ客に、春風亭小柳枝師匠がいた。「噺家はいいぞ。座布団にすわって15分、バカな噺をしてりゃいいんだから」そう言われ、落語家を志した。病気は治らない。立ち仕事の飲食業は無理だろう。座ってできる仕事なら……。

「深刻に考えても仕方がない。人を喜ばせるサービス業は好きだ。『よしっ』と、一か八かの決断でした」
(「ビュルガー病」(1)24歳 足が腫れ激痛)


Buerger病(「ビュルガー」とも「バージャー」とも読むことがある)は、四肢小動脈に慢性の多発性分節性閉塞をきたし、四肢末梢部に難治性の阻血性変化を起こす疾患です。

具体的に言えば、まず末梢の動脈(特に内膜)に慢性的な炎症が起こり、血栓性閉塞が起こります。結果、初発症状としては指趾の冷感、しびれ、蒼白がみられ間欠性跛行(休み休みしか歩けなくなる)を訴えます。次第にチアノーゼ、阻血性発赤、光輝皮膚、筋萎縮(腓腹筋、足底・手掌筋群)、脱毛がみられるようになり、さらに進行すると阻血性潰瘍を形成し壊死に陥ってしまいます。

20〜40歳代の青壮年の、喫煙をしている男子に好発するといわれています。1970年ころには、人口10万人に対して3人前後の有病率でしたが、同様に四肢の慢性の閉塞性動脈疾患をきたす閉塞性動脈硬化症(ASO)とは逆に、著明に減少しているといわれています。

診断のポイントとしては、青壮年男子の四肢に虚血症状がみられ、触診や血管撮影で動脈閉塞があること、そして、下肢に遊走性静脈炎がみられたり、その既往があることが重要となります。また、閉塞性動脈硬化症や他の血管炎、膝窩動脈捕捉症候群、膝窩動脈外膜嚢腫などを除外診断する必要があります。

検査としては、血管造影で動脈硬化性変化を欠く閉塞像(途絶状、先細り状閉塞などがみられ、側副血行路としてブリッジ状あるいはコイル状側副路がみられる)や、血行障害の評価にはサーモグラフィ、指(趾)尖容積脈波(波高の低下やアーチ波の出現がみられる)が有用となります。

治療としては、以下のようなものがあります。
治療としては、リスクファクターである禁煙をまず行い、血流改善薬(プロスタグランジン製剤であるドルナーなど)の内服もしくは、注射用プロスタンディン点滴静注を行います。潰瘍に対しては、褥瘡・皮膚潰瘍治療薬であるプロスタンディンなどの外用療法が行われます。高圧酸素もおこなわれています。

交感神経節ブロックや切除術などの手術や、指趾の温存が望めなければ切断術を行わなければなりません。適応としては、虚血性潰瘍があり、難治性で薬物治療に反応しないものとなります。上記のように、まずは交感神経節切除術が選択されます。下腿動脈や足部動脈に開存がみられる限られた例では、バイパス再建の可能性があります。

広範囲の潰瘍・壊死性病変、感染を伴う例では肢切断となります。生命予後は良好であるといわれていますが、20〜30%で下肢の一部の切断術を受けているといわれています。

Buerger病は稀な疾患となりつつありますが、その背景には喫煙率の減少、栄養・衛生状態の改善が原因と考えられています。予防には禁煙が重要であり、ぜひとも行ってほしいと思われます。

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