耳垢は取り除かずにそのままにしておくのが最もよい、とする米国耳鼻咽喉科・頭頸部外科学会(AAO-HNS)の新しいガイドライン(指針)が発表された。耳垢は分泌物、毛および死んだ皮膚細胞が混ざったものだが、潤滑作用と抗菌性をもち、耳を保護する働きがあると、米テキサス大学サウスウェスタン・メディカルセンター(ダラス)のPeter Roland博士は述べている。
 
このガイドラインは、耳垢が詰まった患者を特定し、適切に治療するための初めての総合的な臨床的勧告であり、科学的研究のレビューおよび専門家の意見に基づいて作成された。Roland氏によると、「単に耳垢があるだけなら何もする必要はない」という。綿棒を使って耳を掃除したくなるが、そうすると耳垢の分泌がさらに過剰になってしまい、医療機関での除去が必要になることが多いという。耳垢の状態に特に注意すべき人もいる。補聴器を使用する人は、耳垢の自然な排泄が妨害されるため問題が生じやすい。また、65歳以上の高齢者も注意が必要だという。

耳鼻咽喉科、家庭医学、内科、聴覚学、小児科および看護学の専門家のグループにより作成されたこのガイドラインでは、次のようないくつかの重要なポイントが示されている。
・耳垢は有益なものであり、自浄作用がある。
・補聴器を使用する人は、フィードバック(耳から漏れた音が再度補聴器で集められるために出るピーピー音。ハウリングともいう)や機器の損傷を防ぐため、年に1〜2回は専門家による耳の清浄を行う必要がある。
・耳垢により耳道の直径の80%以上が閉塞されると可逆性の難聴が起こりうる。

などである。

米国では、年間約1,200万人が耳垢が詰まったせいで医療機関を訪れるという。ガイドラインでは、専門家が耳垢を除去する際には水や生食水などの溶解剤を用いるよう勧めている。専用の器具を用いて除去してもよい。また、綿棒、口腔用ジェット洗浄器、イヤーキャンドル(円錐状の中空のろうそくに火をつけ耳垢を排出するもの)の使用は勧められないとしている。耳鼻咽喉科の医師のほとんどはすでにこのガイドラインに従っているが、小児科医などのその他の医療従事者にとってはこの勧告が有用なものとなるはずだと、専門家は述べている。
(耳掃除は頻繁にしない方がよい)


耳垢は、剥脱した外耳道上皮や角化物、外耳道に存在する皮脂腺やアポクリン性の汗腺である耳垢腺(耳道腺)からの脂肪性分泌物、塵埃などが混じって固まり形成されます。

性状によって、乾燥した硬(乾)性耳垢と、湿って軟らかい軟性耳垢に分類されます。耳垢の性状には個人差・人種差が著しく、白人では軟性耳垢が多くを占めるのに比べ、日本人では比較的少ないと報告されています。

主に外耳道軟骨部に存在するといわれています。そのため、耳の入り口部にほぼ存在しているため、耳かきなどをあまり中に入れても、あまり意味はありません。むしろ、耳垢を内部に押し込んでしまい耳垢塞栓の原因となってしまいます。

耳垢塞栓とは、多量の耳垢で外耳道が閉塞した状態です。気づかれないことが多いですが、洗髪や水泳などで耳垢がふやけて大きくなり、外耳道を塞いで急に難聴、耳鳴、閉塞感、時にめまいなどが起こってくることもあります。

耳垢除去に関しては、以下のようなことが言えると思われます。
耳垢除去には、ピンセットや吸引器、耳用異物鉤などを用います。固くて摘出しがたい時は、耳垢水を1日数回点耳して軟らかくすると除去しやすいといわれています。

耳垢水とは、重曹1、グリセリン5、水10の混合液で、耳垢塞栓の治療に用いられます。この液体で耳垢を軟らかくすると、乾燥して固まった耳垢は軟化し、痛みなく除去できるようにできます。

また、耳垢除去剤としてはジオクチルソジウムスルホサクシネートなどの5%点耳液があり、綿棒で外耳道に塗布することもあります。

耳かきを習慣的に行っている人にとっては、驚きのニュースかもしれません。むしろ、逆効果になりかねない耳かきの仕方をしている方もいるのかもしれませんね。耳垢は主に外耳道軟骨部に存在しており、あまり中まで突っ込みすぎないことなど、注意する点をご確認いただければ、と思われます。

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